095 ____________________ ‐2nd part‐

文字数 1,267文字

「暖かくして出ないとダメですミラノさん。風邪ひいて寝込みでもしたら、オレが有勅水さんに叱られるんですよ。物凄く怖いんだから」

「私と水埜楯は、運命共同体なんだよ。私がうっかりすると水埜楯が怒られて、水埜楯が怒られると、私がおもしろくなるなるぅ」

「それは共同体って言いません。主従関係とか専制政体って言うんですっ」

 オレは、引っ越し屋にきっちり仕分けされ、壁際の床と長机の上に並べられているダンボール箱の一つ、

とマジックで記された中を探る。
 バスケ部でもらい、使う機会がほとんどなかったベンチコートを引っ張り出した。

「はい。とり敢えず、これを上に羽織ってください。オシャレじゃない色で申しわけありませんけれど」

 在栖川カラーは、例によって事務的な青っぽい鼠色だから仕方がない。

「はいは~い。だけど、今日は暖かかったから、外に出ても気づかなかったんだよ、きっと」

「それでも、季節感とか日常感ってモノがあるんですってば。それと、独りの時は、誰彼かまわずついて行ったり、手を握ったりしちゃ絶対にダメですからね。特にこの辺の大通りには、危険な人が、フツウの人みたいに歩いてるんだから」

「ウ~ン? じゃあ、走ったり飛び跳ねたりしてたらいいってことぉ?」

「違いますっ。モォ~、ジャパニーズマフィアかもしれないんだよ。もしそんな人の手なんか掴んだら、そのまま拉致られて、(さび)れた温泉町で監禁‐洗脳された挙句に、花嫁として中国の農村とかキルギスへ売り飛ばされちまうんだから」

「アハハ~、私ったらモテモテだよ」

「それもモテるとは言いませんっ。ミラノさんは無防備すぎるんだから、気をつけないとマジで誘拐されちゃうよ。この国だって妙な不景気から、変に物騒になってるんですからねっ」

「錆びちゃう温泉コワ~い。でも、無防備じゃない女はモテないんだよ」

 ったく、これだもの。ホント、これで可愛げがなかったら、ストレスで脳血管破裂を起こしてるよなぁ……。

 オレはもう取り合わずに、ミラノさんを外へ促す。

 盗みに入られる心配などないブレハブハウスではあるものの、オレがいない間の戸締りは、しっかりしておかないと。
 むしろ盗まれてくれた方が、保険金が支払われるそうだから、ありがたいかもしれないんだけれど、有勅水さんの命令は(げん)(また)たずして、絶対なので。

 鍵束をポケットに突っ込みながら戸口から離れると、ミラノさんはまたしても、セイレーン像一体の正面に立って、大きく張り出した胸部の膨らみを両手でペタペタ撫でていた。

 ここへ来ると、必ずそうやってから帰って行く。
 ムッシューの創り出した嬌姿(きょうし)は、ミラネーゼまでもを悩殺するらしい。

「ミラノさん、そんなことは、日本じゃなくたって恥かしい行為なんですから。堂堂と長時間しちゃいけません」

「ウンン? 水埜楯のスケベエ、キャアァァァァ~」

「えぇっ! チョット、ミラノさんそんな……」

「私は、そんなつもりで触ってたんじゃないない。今日の『シレーヌ』の機嫌を伺ってただけなんだよ。乳脂肪なら、ちゃんと自分のがあるんだよ、ホラホラ~」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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