031 えっ。ラヴって、そっちだったん? ‐1st part‐
文字数 1,499文字
「えーと、その。今更ですけれど不勉強ですみません、ディースさんは何をつくる人、いえアーティストなんですか?」
「僕? うーん、そうだなぁ。絵も描くし彫刻もやった、楽器づくりに入れ込んでいた時期もある。何でもやるよ服以外はね。でも、今回ここに呼ばれたのはシベルネティゼでだね」
「……シベルネティゼ?」
ムッシューは心持したり顔になって教えてくれるものの、専門用語やフランス語の羅列ではオレにはほとんど理解できない。
でも、とにかくどこまで本当かはわからないけれど、サイバー化のことをフランス語ではシベルネティザションと言って、それを使ったまだ世界でも未踏のアートだと言うこと。
その外観から、多くの人がミニマルで抽象的なオブジェとして評価するらしい、ってことはどうにか聞き取った。
そいつを常談平語すれば、動いたり、鳴ったり、光ったり、をAIによる自動制御なんかで行ってしまう変テコな置き物、ってことになるみたい。
さらには、二〇世紀初頭のイタリアにフューチャリズム、所謂
さっぱりだけれど、それはおそらく
「かの僊河青蓮が、以前に発表した僕の作品を気に入ってくれたらしくて、それで御指名がかかったんだ。まぁ遠戚 も遠戚だから、お目にかかったことは一度もないんだけどね」
「そうだったんですか?」
オレの反応は、ムッシューが僊河青蓮に一目も会っていなかったことへのモノだったのに、ムッシューは自分の作品についてと受け取ったみたい。
アーティストだもんなぁ、やっぱ。
「……でね、勿論彫刻にもかなりの大作はあるんだけど、それとはまた違う意味で大掛かりなモノになりそうなもんだから。僕に与えられたあの空間をどう冒瀆 してやろうかなって、始める前にチョット意気巻いていたってわけなのさ」
「……冒瀆、ですか?」
「あれ? いや瀆冒 だったかな? そんな日本語なかった? まぁとにかく、ここでとんでもないことが起こるモノに仕上げないとね。マダム・セイレネスの期待に応えるためにも」
やっぱブッ飛んでる……その置き物と言うか一応オブジェと称するべきなんだろうけれど、そんなモノでとんでもないことを起こそうだなんて発想こそ、まさにアートってことなのか?
ムッシューのこのいつにない饒舌ぶりといい、嘻嘻とした表情といい、なんか無性に羨ましくなってきちゃうんだよねぇ……。
果たして職業としてちゃんと成立しているのかどうか? おそらく、さほど儲かりはしないんだろうけれど。
オレも、早くそうした、心からやりたい仕事を見つけて生きられたらなぁ。
そうすれば、取り立てて大きな評価を受けてなくても、他人の目や舌禍と言った瑣末事にイチイチ凹んで苛まれているヒマが勿体なくなるんじゃないだろか?
……それこそが、
「それで、君の方はここに何の用なんだい?」
「ヤバッ、オレこれから講義で、通りがかっただけなんです。すみません、それじゃオウ・ルヴォワール・ムッシュー」
ムッシューにペコペコした上、手まで振って別れるなんて実に変だけれど、ついやってしまった。
ムッシューに振り返された手もヤケに小っ恥かしい。火照ってくる顔を紛らわせるためにも走って去らなくてはならなかった。
「僕? うーん、そうだなぁ。絵も描くし彫刻もやった、楽器づくりに入れ込んでいた時期もある。何でもやるよ服以外はね。でも、今回ここに呼ばれたのはシベルネティゼでだね」
「……シベルネティゼ?」
ムッシューは心持したり顔になって教えてくれるものの、専門用語やフランス語の羅列ではオレにはほとんど理解できない。
でも、とにかくどこまで本当かはわからないけれど、サイバー化のことをフランス語ではシベルネティザションと言って、それを使ったまだ世界でも未踏のアートだと言うこと。
その外観から、多くの人がミニマルで抽象的なオブジェとして評価するらしい、ってことはどうにか聞き取った。
そいつを常談平語すれば、動いたり、鳴ったり、光ったり、をAIによる自動制御なんかで行ってしまう変テコな置き物、ってことになるみたい。
さらには、二〇世紀初頭のイタリアにフューチャリズム、所謂
未来派
と称される立体主義を発展させる芸術運動とやらがあって、ムッシューの作品は、世紀を越えたさらなる発展形となるために、ネオ未来派
などと位置付ける動きもあるなんて言う。さっぱりだけれど、それはおそらく
ブッ飛んでる
! って意味なんだろうから、如何にもムッシューらしいトリビュート(賛辞)なのではなかろうか?「かの僊河青蓮が、以前に発表した僕の作品を気に入ってくれたらしくて、それで御指名がかかったんだ。まぁ
「そうだったんですか?」
オレの反応は、ムッシューが僊河青蓮に一目も会っていなかったことへのモノだったのに、ムッシューは自分の作品についてと受け取ったみたい。
アーティストだもんなぁ、やっぱ。
「……でね、勿論彫刻にもかなりの大作はあるんだけど、それとはまた違う意味で大掛かりなモノになりそうなもんだから。僕に与えられたあの空間をどう
「……冒瀆、ですか?」
「あれ? いや
やっぱブッ飛んでる……その置き物と言うか一応オブジェと称するべきなんだろうけれど、そんなモノでとんでもないことを起こそうだなんて発想こそ、まさにアートってことなのか?
ムッシューのこのいつにない饒舌ぶりといい、嘻嘻とした表情といい、なんか無性に羨ましくなってきちゃうんだよねぇ……。
果たして職業としてちゃんと成立しているのかどうか? おそらく、さほど儲かりはしないんだろうけれど。
オレも、早くそうした、心からやりたい仕事を見つけて生きられたらなぁ。
そうすれば、取り立てて大きな評価を受けてなくても、他人の目や舌禍と言った瑣末事にイチイチ凹んで苛まれているヒマが勿体なくなるんじゃないだろか?
……それこそが、
打たれ強さ
ってヤツの正体だったりして? ムッシューの話を聞いていて一瞬フト、そう感得した気にもなる。「それで、君の方はここに何の用なんだい?」
「ヤバッ、オレこれから講義で、通りがかっただけなんです。すみません、それじゃオウ・ルヴォワール・ムッシュー」
ムッシューにペコペコした上、手まで振って別れるなんて実に変だけれど、ついやってしまった。
ムッシューに振り返された手もヤケに小っ恥かしい。火照ってくる顔を紛らわせるためにも走って去らなくてはならなかった。