048 _____________________ ‐3rd part‐
文字数 1,522文字
となると、一緒にいたのは葉植さんだったって可能性はかなり高いってわけで……二人はそんな場所でナニを、いや、何をしていたというんだろ?
……うわ~、脳裏をグロエグな想像が勝手に駆け巡っちまった、まだ食事中だってのにぃ。
「その人は、オレの前に広場で、毛筆を使って和歌っぽく書いた詩や墨絵なんかを売ってた人だ。だから、道玄坂で緑内が遭遇したのも葉植さんかもしれないな」
「おまえ、あんな男の後釜 だったのかよ。やっぱとんでもない集団だったな、消滅してよかったよかった。な~んか嫌なカンジで引っかかってたんだ、でも、葉植教授の孫ならそんなもんか?」
「そう言うおまえは、どうしてそんな時刻に、そんな場所にいたんだよ? 変態観測の趣味までありやがるんだろ」
「オレはだな、その先にある鉱物標本屋へ、一番乗りを決めるために走ってたんだっ。ALH84001と一緒に採取された一部が販売されるって情報があったから。買いたかないけど、買われる前でなけりゃ、買うフリして具に観察することもできないだろが」
「はぁ? 何だそりゃ」
「ホント、おまえのリフラフさは無知だよな。まぁどうでもいい、俺はようやっとスッキリした。これで女神が施してくれた最後の午餐 を、心置きなく拝戴 できるってもんだ、もうくだらん話で邪魔すんな」
つくづく何だそりゃだけれど、緑内はそれっきり、一心尽 くに焼き魚定食をかっ喰らいだした。
根上も、オレへ向けていた呆れ顔を自分のトレーへ向けなおして、箸を動かし始めるから嫌になる。
根上が呆れたのは緑内にだけだと思いたい……。
──なんかふと、広場で商売をしていた日日が想起されてきちまった。
今更ながらあの三週間は、オレにとって、あそこに居続けるだけでも結構な辛苦だったと思えてならない。
売っていた品物も、信頼性なんかまるでない上、実生活における重要度も底辺に位置する物ばかりなだけに、客たちは、何の腹蔵もなく、歯に衣を着せずに、率直な言葉のみを浴びせかけてくる。
グサグサ突き刺す物言いと目つきで、峻烈な批判をする人もいれば、商品やオレを散散イジったあとで、手榴弾を投げるみたいに完全否定で去って行く人もいた。
この緑内や、根上以上の手酷 さで。
ある意味あそこは戦場だった。精神力を武器にして、キズつき血を流すのも精神という。
それでいて、肉体の方は全くの無傷なもんだから、陽が昇ればまた広場へと出撃しなければならない。
客のため、商売のため、というより、一度組んだ陣列を崩すことなど許されるもんか! という強烈な同調バイアスに支配されちまうもんだから──。
だのに、毎日顔を合わさなくなった途端、戦友であるはずの葉植さんを、この定食で出るサンマの食べカスも同然みたく、ぞんざいにしてしまっているオレ。
それでいて、今スグにでも会いに行きたい衝動に駆られるほどに、物懐かしさを覚えているオレのこの微温 さ。
これもある意味、PTSDやら戦争症候群ってヤツの一種じゃないだろか?
とにかくあの三週間、やっぱりオレには試練にも鍛錬にも全くなっていなかったんだ……。
オレももう、二人に倣って黙然とサンマの残りと御飯を口へ運ぶしかないけれど、これが最後の午餐だなんて……。
緑内は、オレが二度と有勅水さんを大学へ近づけないと決めつけていやがるに違いない。
ほとほと、こいつらとの一二年間になろうというつき合いは何だったんだか?
そりゃ確かに、この二人からすれば、オレはあらゆる意味で貧者だろうけれど、そこまで心は貧しくないってことを、何度でも有勅水さんを呼んで思い知らせてやらなくちゃな!
こんな所に、有勅水さんが、そう何度も来てくれるかはわからないけれど。
……うわ~、脳裏をグロエグな想像が勝手に駆け巡っちまった、まだ食事中だってのにぃ。
「その人は、オレの前に広場で、毛筆を使って和歌っぽく書いた詩や墨絵なんかを売ってた人だ。だから、道玄坂で緑内が遭遇したのも葉植さんかもしれないな」
「おまえ、あんな男の
「そう言うおまえは、どうしてそんな時刻に、そんな場所にいたんだよ? 変態観測の趣味までありやがるんだろ」
「オレはだな、その先にある鉱物標本屋へ、一番乗りを決めるために走ってたんだっ。ALH84001と一緒に採取された一部が販売されるって情報があったから。買いたかないけど、買われる前でなけりゃ、買うフリして具に観察することもできないだろが」
「はぁ? 何だそりゃ」
「ホント、おまえのリフラフさは無知だよな。まぁどうでもいい、俺はようやっとスッキリした。これで女神が施してくれた最後の
つくづく何だそりゃだけれど、緑内はそれっきり、
根上も、オレへ向けていた呆れ顔を自分のトレーへ向けなおして、箸を動かし始めるから嫌になる。
根上が呆れたのは緑内にだけだと思いたい……。
──なんかふと、広場で商売をしていた日日が想起されてきちまった。
今更ながらあの三週間は、オレにとって、あそこに居続けるだけでも結構な辛苦だったと思えてならない。
売っていた品物も、信頼性なんかまるでない上、実生活における重要度も底辺に位置する物ばかりなだけに、客たちは、何の腹蔵もなく、歯に衣を着せずに、率直な言葉のみを浴びせかけてくる。
グサグサ突き刺す物言いと目つきで、峻烈な批判をする人もいれば、商品やオレを散散イジったあとで、手榴弾を投げるみたいに完全否定で去って行く人もいた。
この緑内や、根上以上の
ある意味あそこは戦場だった。精神力を武器にして、キズつき血を流すのも精神という。
それでいて、肉体の方は全くの無傷なもんだから、陽が昇ればまた広場へと出撃しなければならない。
客のため、商売のため、というより、一度組んだ陣列を崩すことなど許されるもんか! という強烈な同調バイアスに支配されちまうもんだから──。
だのに、毎日顔を合わさなくなった途端、戦友であるはずの葉植さんを、この定食で出るサンマの食べカスも同然みたく、ぞんざいにしてしまっているオレ。
それでいて、今スグにでも会いに行きたい衝動に駆られるほどに、物懐かしさを覚えているオレのこの
これもある意味、PTSDやら戦争症候群ってヤツの一種じゃないだろか?
とにかくあの三週間、やっぱりオレには試練にも鍛錬にも全くなっていなかったんだ……。
オレももう、二人に倣って黙然とサンマの残りと御飯を口へ運ぶしかないけれど、これが最後の午餐だなんて……。
緑内は、オレが二度と有勅水さんを大学へ近づけないと決めつけていやがるに違いない。
ほとほと、こいつらとの一二年間になろうというつき合いは何だったんだか?
そりゃ確かに、この二人からすれば、オレはあらゆる意味で貧者だろうけれど、そこまで心は貧しくないってことを、何度でも有勅水さんを呼んで思い知らせてやらなくちゃな!
こんな所に、有勅水さんが、そう何度も来てくれるかはわからないけれど。