004 味方の紹介はほぼお終い ‐1st part‐
文字数 1,537文字
葉植さんが、オレに尋ねてきたユールってのは、葉植さん以上に正体不明なコのことだ。
まだ二度しか会っていないから当然かもしれないけれど、年齢や国籍からしてまるで不詳。肌の質感や女性として未成熟な少年ぽい体つきから、オレたちよりも確実に年下だとは思うんだけれど、全体的にはオトナびた物凄く綺麗なコ。
それで女子だと思っているものの、実のところ性別すらもわかっていない。
年季の入ったセルティッククロスのチョーカーをしていたことから、ケルトの血を引くイギリスかアイルランド人じゃないかとオレは踏んでいる。
日本人なら誰もが羨みそうな別嬪であることはオレも素直に認めてやろう、なのに可愛いげの方は微塵もないときているから、これまた素直に嫌厭 したくなっちまう。
身長は一七〇以上ありそうだし、頭身も腕脚も屈辱的なまでに長いし。言葉づかいに至っては、一体誰から習ったのか、高い鼻柱に負けず劣らずな帝国軍将校のごとき横行で権柄 なタメ口。
そして反抗期‐ナマイキ盛りからのマスキュリン志向か、フラクスンの散切り頭にパンキッシュなジーンズやカットソーを着熟していた。
それらには、またベラボウな値段のするデザイナーズブランドのロゴが入っていたりするから、この近辺に邸宅を構える外資系エグゼクティヴの御息女といったところだろうかと推測する。
ひょっとすると、この一帯に点在するどこかの大使館関係者の身内という可能性も、充分あり得るから煩わしい。
とにかく何よりもユールが異質なのは、ありがちなストリート系の曲をなりきってガナりたてるのではなく、ド演歌やシャンソンをこれまた美しい声で弾き語るからブッ魂消ちまう。
演奏の方もなかなかの腕前らしく、プロのギタリストを本格的に目指していた時期もある宝婁センパイが、一言のケチづけなしに手をたたいていた。
センパイの目利きまでが確かは疑わしいけれど、ギター自体も、盗品流れとかではなかったら最新のアストンマーティンが新車で買えるほどの名器だそうだから、一先ずは余裕をもって相手をすることができるというものだ。
今度、小ナマイキな態度を見せようものなら、ギターを攻撃すると脅してやればいいんだから。
まあ、あの口の利き方で僊婆から許可を取りつけたのだからタダ者じゃぁない。
特にこの広場でのライヴパフォーマンスだけは、隣組の古顔連中から必ず苦情が出ると断り続けていたんだ。
でも、彼女が唄える場所を提供してやって欲しいと僊婆にもちかけたのは、その年寄り連中だそうだから真実大 したタマなんだろう。
それで週に一度、昼下がりの一時間くらいならば問題はなかろうと解禁に相成ったわけなのだけれど……今日はその約束の木曜日、しかも台風一過の快晴。
あの小癪なガキにヤル気がまだ残っているならば、オレなんかの臆見を求めるまでもなく、一五時前にクラシックギターとジュラルミンのトランクを担いで現れるはずだ。
「メルシー・ミル・フォア・ムッシュー。ボヌ・ジュルネ!」
宝婁センパイの達成感に満ちた声調に、オレはふり返る。
どうやら男はフランス人だったらしい。その上、Tシャツもしっかりと売れていた。
センパイの作品にしてはポップ度が抑えられた一枚だったけれど、ムッシューは既にそれに着替えていて、ついさっきまでの不健康さがかなり軽減されて見えるから不思議だ。
それに──鼻先までかかっていた鬱陶しい前髪を掻き上げた時に覗けた顔は、結構理知的な眼光を放つイケメン、険のないコクトーといったカンジ。
たぶん二〇代後半から三〇代の前半ぐらいだろう。
そしてそのムッシュー、今度は毛絲さんのワゴンへと目を向けていた。これはひょっとすると、意外にも良いお客さんなんじゃなかろうか?
まだ二度しか会っていないから当然かもしれないけれど、年齢や国籍からしてまるで不詳。肌の質感や女性として未成熟な少年ぽい体つきから、オレたちよりも確実に年下だとは思うんだけれど、全体的にはオトナびた物凄く綺麗なコ。
それで女子だと思っているものの、実のところ性別すらもわかっていない。
年季の入ったセルティッククロスのチョーカーをしていたことから、ケルトの血を引くイギリスかアイルランド人じゃないかとオレは踏んでいる。
日本人なら誰もが羨みそうな別嬪であることはオレも素直に認めてやろう、なのに可愛いげの方は微塵もないときているから、これまた素直に
身長は一七〇以上ありそうだし、頭身も腕脚も屈辱的なまでに長いし。言葉づかいに至っては、一体誰から習ったのか、高い鼻柱に負けず劣らずな帝国軍将校のごとき横行で
そして反抗期‐ナマイキ盛りからのマスキュリン志向か、フラクスンの散切り頭にパンキッシュなジーンズやカットソーを着熟していた。
それらには、またベラボウな値段のするデザイナーズブランドのロゴが入っていたりするから、この近辺に邸宅を構える外資系エグゼクティヴの御息女といったところだろうかと推測する。
ひょっとすると、この一帯に点在するどこかの大使館関係者の身内という可能性も、充分あり得るから煩わしい。
とにかく何よりもユールが異質なのは、ありがちなストリート系の曲をなりきってガナりたてるのではなく、ド演歌やシャンソンをこれまた美しい声で弾き語るからブッ魂消ちまう。
演奏の方もなかなかの腕前らしく、プロのギタリストを本格的に目指していた時期もある宝婁センパイが、一言のケチづけなしに手をたたいていた。
センパイの目利きまでが確かは疑わしいけれど、ギター自体も、盗品流れとかではなかったら最新のアストンマーティンが新車で買えるほどの名器だそうだから、一先ずは余裕をもって相手をすることができるというものだ。
今度、小ナマイキな態度を見せようものなら、ギターを攻撃すると脅してやればいいんだから。
まあ、あの口の利き方で僊婆から許可を取りつけたのだからタダ者じゃぁない。
特にこの広場でのライヴパフォーマンスだけは、隣組の古顔連中から必ず苦情が出ると断り続けていたんだ。
でも、彼女が唄える場所を提供してやって欲しいと僊婆にもちかけたのは、その年寄り連中だそうだから
それで週に一度、昼下がりの一時間くらいならば問題はなかろうと解禁に相成ったわけなのだけれど……今日はその約束の木曜日、しかも台風一過の快晴。
あの小癪なガキにヤル気がまだ残っているならば、オレなんかの臆見を求めるまでもなく、一五時前にクラシックギターとジュラルミンのトランクを担いで現れるはずだ。
「メルシー・ミル・フォア・ムッシュー。ボヌ・ジュルネ!」
宝婁センパイの達成感に満ちた声調に、オレはふり返る。
どうやら男はフランス人だったらしい。その上、Tシャツもしっかりと売れていた。
センパイの作品にしてはポップ度が抑えられた一枚だったけれど、ムッシューは既にそれに着替えていて、ついさっきまでの不健康さがかなり軽減されて見えるから不思議だ。
それに──鼻先までかかっていた鬱陶しい前髪を掻き上げた時に覗けた顔は、結構理知的な眼光を放つイケメン、険のないコクトーといったカンジ。
たぶん二〇代後半から三〇代の前半ぐらいだろう。
そしてそのムッシュー、今度は毛絲さんのワゴンへと目を向けていた。これはひょっとすると、意外にも良いお客さんなんじゃなかろうか?