001 狠たちの午前 ‐1st part‐
文字数 1,499文字
今日も、酷烈に暑い一日になりそうだ……。
もう一〇月も半ばだというのに、ひっきりなしに台風が通過しては、軒並み三〇度を越えるピーカン照り。
何がセカンドサマーだか? 今どき異常気象までもが恕限度 ってヤツを知らないらしい。
でも、とにかく晴れあがってくれさえすれば、この地域に溢れている有閑者たち、就園前の子供を連れた主婦連中や自主休講と洒落込む学生どもが、散歩がてらにバス通りを渡って記念公園経由でブラつく気にもなってくれる。
その道筋となる舒緩 と続く石段の下、この僊婆 広場と呼ばれるほど広くもない通り端にも、客が足を止める確率が高くなるという次第で、昨日のロスをとり戻すためにも暑さに文句を言っている場合じゃぁない。
幸先好く一発でキレイに張れた天幕の下で、商売支度を自分の小慣れたポジションに広げていると、石段の昇り口の方からいつもの甘いニオイが漂ってくる。
里衣さんも屋台を完成させて、ここの看板商品になっているスィート‐ハギスを焼き始めたようだ。
最初の一つ目は、必ずここの所有者であり由来でもある僊河 の婆様へ、二度寝のおめざとして届けられることになっている。
オレもチョクチョク里衣さんに頼まれて、だらだらな百段足らずの中程に建つ僊婆の家へとアツアツを配達しているけれど、今日のところは開店前から待っている客がいないので、里衣さんが自分で届けるだろう。
その僊婆、外見的には如何にも偏屈そうなのだけれど、実際は印象の半分くらいで意外と気風の好いしゃっきりとした婆様だ。
服装も大概はスポーツウェア、そして、まるで動きを止めると死んじまうといった調子で何かにつけ一日中忙 しなくしている。傘寿を迎えているらしいから、残る人生ぼんやりと過しては勿体ないと命懸けで表現しているのかもしれない。
まぁこの町のメインストリートから少しはずれた傾斜地とはいっても、草木が生い茂るかなりの敷地で三件のアパートを経営し、その住人と隣保 のためにこんなゆったりと整備された私道を提供するほどの地主である。
一般的な独居老人よりも、遥かに張りのある自適な生活に違いない。
でなければ、ここに集まっているほかの連中みたいに夢や野望に燃えているわけでもなく、完全なフリーター暮らしもできない半端なオレにまで、無料でショバを提供してくれる寛大さがあろうはずもないからね……。
そんな無益な感懐を巡らせている内に、石段をゆらゆら降りて来た一人のひょろっとした男が、オレの又隣のスペースで立ち止まり、ハンガーに掛けられたTシャツを手にとりだした。
その男は、すぐさま着替えが必要なくらいにヨレて数色のペンキ染みが付着したボートネックシャツに、油汚れがグラデーションを描いている上に両膝が大きくズル剥けたワークパンツ姿。
他人のことを言えた義理じゃないけれど、今どきを明らかにとおり越したホームレスよりも酷い格好だ。
それでも一応ファッションかもしれないと思わざるを得ないのは、ボサボサの金髪に蒼褪めた彫りの深い顔立ちゆえ……今日の一番客は外国人か。
まぁそれもお土地柄で、さほど珍しくもないけれど、その男が醸し出している雰囲気に、何か不吉な予感が湧きあがってきてしまう。
面倒な奴でなければいいんだけれど……。
オレは、早速接客に立ち上がった宝婁 センパイの方へと目をやった。
低ヴォリュームで流しているズークと、お隣の毛絲 さんが慌てて店開きを仕上げる音でよく聞き取れないものの、男に何やら英語で話しかけているようだった。
自分の作風について、語る相手を選ばないのがセンパイの凄まじさ。たとえ異邦人でも一向におかまいナシ。
もう一〇月も半ばだというのに、ひっきりなしに台風が通過しては、軒並み三〇度を越えるピーカン照り。
何がセカンドサマーだか? 今どき異常気象までもが
でも、とにかく晴れあがってくれさえすれば、この地域に溢れている有閑者たち、就園前の子供を連れた主婦連中や自主休講と洒落込む学生どもが、散歩がてらにバス通りを渡って記念公園経由でブラつく気にもなってくれる。
その道筋となる
幸先好く一発でキレイに張れた天幕の下で、商売支度を自分の小慣れたポジションに広げていると、石段の昇り口の方からいつもの甘いニオイが漂ってくる。
里衣さんも屋台を完成させて、ここの看板商品になっているスィート‐ハギスを焼き始めたようだ。
最初の一つ目は、必ずここの所有者であり由来でもある
オレもチョクチョク里衣さんに頼まれて、だらだらな百段足らずの中程に建つ僊婆の家へとアツアツを配達しているけれど、今日のところは開店前から待っている客がいないので、里衣さんが自分で届けるだろう。
その僊婆、外見的には如何にも偏屈そうなのだけれど、実際は印象の半分くらいで意外と気風の好いしゃっきりとした婆様だ。
服装も大概はスポーツウェア、そして、まるで動きを止めると死んじまうといった調子で何かにつけ
まぁこの町のメインストリートから少しはずれた傾斜地とはいっても、草木が生い茂るかなりの敷地で三件のアパートを経営し、その住人と
一般的な独居老人よりも、遥かに張りのある自適な生活に違いない。
でなければ、ここに集まっているほかの連中みたいに夢や野望に燃えているわけでもなく、完全なフリーター暮らしもできない半端なオレにまで、無料でショバを提供してくれる寛大さがあろうはずもないからね……。
そんな無益な感懐を巡らせている内に、石段をゆらゆら降りて来た一人のひょろっとした男が、オレの又隣のスペースで立ち止まり、ハンガーに掛けられたTシャツを手にとりだした。
その男は、すぐさま着替えが必要なくらいにヨレて数色のペンキ染みが付着したボートネックシャツに、油汚れがグラデーションを描いている上に両膝が大きくズル剥けたワークパンツ姿。
他人のことを言えた義理じゃないけれど、今どきを明らかにとおり越したホームレスよりも酷い格好だ。
それでも一応ファッションかもしれないと思わざるを得ないのは、ボサボサの金髪に蒼褪めた彫りの深い顔立ちゆえ……今日の一番客は外国人か。
まぁそれもお土地柄で、さほど珍しくもないけれど、その男が醸し出している雰囲気に、何か不吉な予感が湧きあがってきてしまう。
面倒な奴でなければいいんだけれど……。
オレは、早速接客に立ち上がった
低ヴォリュームで流しているズークと、お隣の
自分の作風について、語る相手を選ばないのがセンパイの凄まじさ。たとえ異邦人でも一向におかまいナシ。