035 _________ ‐2nd part‐

文字数 1,466文字

 今にして思えば、いろんな意味での避難場所になっていたんだ……実際、ガッコには、部活しか居場所っぽい場所がなかったわけだし。
 だから和歌山の祖父ちゃんも、バッシュだけは、オレがねだるままに買い与えてくれたのかもしれない……。

 だがまぁとにかく、とり分けヴィーのヤロゥはホンット許せない!
 講義中、バッシュを脱いでうち寛いでいたオレにも非はあろうけれど、祖父ちゃんに進学祝いで買ってもらった復刻版でも入手困難だったAJⅤの片っぽを奪いとって、今日これからつき合わないと窓から投げ捨ててやると脅迫してきやがったんだっ。
 最悪にも、その窓の下には池があったから、そこへ落ちたら、加水分解が促進されてAJⅤの耐用年数が一気に縮んじまう。

 仕方なく従うと、上京している同郷の仲間とやらに次次と引き合わされ、オレはカレシという前提でもって根掘り葉掘りの穿鑿(せんさく)責めだ。
 類友とはよく言ったもんで、その全員が全員、オレの住まいが下麻布の一戸建てであることと、親父が海外勤務だってこと、オレが初等課程からの附属あがりってことばかりに喰いつきを示しやがった。

 そんな奴らと小半日過して、つくづくオレって

と思えてならなかった。

 くだらないってことはわかってる。でも、オレが俗世間から評価される点は何一つない、全部が親や、顔も知らない遠つ(おや)の功労じゃないか。
 オレが在栖川の初等課程に合格できたことからして、突き詰めれば、母さんが親一倍ガンバってオレに勉強をさせただけだ。

 区立小学校よりも近くに在栖川があって、地元の子は通過儀礼みたいに入試を受ける。
 在栖川には、仰仰しい親子面接や法外な寄付金要求がない上に授業料も格安ときてるから。
 当然、オレにはお受験戦争を突破したなんて意識はないし。無論、自信も矜持もない。六、七歳でそんなことを自覚できたらそれこそ優秀なお子様だろう。
 そこのみを、どんだけくだらん奴らに喰いついてこられたって、オレには全くピンときやしない。
 むしろ気分が悪くなる。ブランド志向ってマジにあったのかよっと唾棄したくなる。

 その、実際のムカつきがない嘔吐感ってのは最悪の感覚だ。
 なんかもう、怒るとかバカにするとか、テーブルを蹴倒して席を立つこともできなくなる。
 何とも言いようのないほどに物凄く気持が悪い……。

 その感覚、頭蓋の内側をカサコソ這いずり廻られるようなグロな肌触りを憶えてしまうと、出会う人からそんな醜陋(しゅうろう)な予感を嗅ぎ取るたびに、つい怖じ気がついて、いざという時に全力で抗えなくなってしまうんだ……。

 ヴィーの、問答無用のゲートクラッシュおよび和室の占拠にも、結局は腕を(こまね)いちまったみたいに。
 あれはヴィーが怖かったと言うより、生理的にキモすぎたんだ。面と向かって文句を言ったり、ヴィーの腕をじかに掴んで引き退かしたりすること自体が。
 
 センパイは、全てはオレに隙があるからいけないんだと言うけれど……。
 オレは、きちんと道スジを教えてくれそうな顔つきで、目に留まり易い身長なのに威圧感がないひょろさ、高圧的な態度に出ても大丈夫だろうという人が善さそうな雰囲気、どうもそういった要因がオレにはそろってしまっているらしい。

 つまりは、一般的にナメられちまう族類にあるってことだ。

 でも、それを隙と言われたって困る、それが生来からのあるがままのオレなんだから。
 それもまともに捉えれば、オレ自体は全っ然っ悪くないんじゃないかと思えてならない。けれど、損害を被っているのは、弱者として蹂躙されているのは明らかにオレの方。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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