011 _____________ ‐2nd part‐

文字数 1,597文字

 葉植さんに新シリーズを展開されてしまった手前、オレも徐徐にでも、商品をリフレッシュしていかないとヤバいんだろうなぁ。

 それより、まずは邯鄲とハンミョウの試作を急がないと。
 オレ、ガンバります有勅水さん! あなたのためと言うのは烏滸がましいので、自分のためにっ。

 そんな、柄にもなく小っ恥かしいことを久久に胸中で誓い、もう石段の緩やかなカーヴに消えてしまった有勅水さんの残影を再び目で追い駆ける。

 ……第七感までを総動員して彼女の余韻をかき集めているさなか、不意を突いてこちらに顔を向けたヴィーの視線に射竦(いすく)められた。 

 毛絲さんと盛りあがっていたはずの四方山話を一方的にきりあげて、今し方の緊迫状態を一人でぶり返すと、オレのスペースへ派手にサンダルを鳴らしカットインして来やがるっ。 
 
「チョット楯! さっきの女、誰なの一体っ? 嬉しそうに自分の名前なんか教えちゃって。ナンパするヒマがあるならアタシにつき合いなさいよね、ったくぅ」

 ヴィーは瞬間湯沸かし器よろしく、アイシャドウと同じ軽薄なグリーンのコンタクトレンズの周りを血走らせ、付け睫毛(まつげ)もバサバサさせて気色ばむ。 

 オレにだって言いたいことは山ほどあるけれど、ヴィーの睫毛バサバサを見ているとムカつきの方向性がズレていっちまう。呪いでもをかけれているような不吉な気分になってくる。

 それでも当人は、

と思い込んでいやがるんだろうし。
 物好きにも、ギャル人気の退潮(たいちょう)から混迷する雑誌の読者モデル候補になったとかで、周囲の連中も無責任にカワイ~などともて()やすもんだから、今更オレが何をブッチャケようが疑いすらも湧きやしない確固たる自信になっちまっている。

 もうそれだけで関わりたくないってのに、無神経なこいつは二日と空けずに、こうしてオレの目の前に現れては一騒ぎしてくれる。そうしないと満足できないみたいだから頭が痛い。

「……おはよう御座います西木(にしき)さん。本日はワザワザこんな所まで、一体何用で

うか?」

 まともに相手をしたところで、ややこしくなるに決まっている。
 女神からパワーを得ている現下、オレは他人行儀アン~ド慇懃無礼(いんぎんぶれい)攻撃にうって出ることにしたが……。

 ……効果は覿面(てきめん)のようで、ヴィーの発していた怪気炎が弱まった。

「なな、何よそのあらたまったセリフ。アタシを苗字なんかで堅っ苦しく呼ばないでっ、ボゥヤントな気分がブチ壊しじゃないのよぉ」

「それは大変失礼致しました。しかし、学部の同じセクションとは言え、確か西木さんは四月生まれ、現在オレより二つも年上だってことにフト気づきまして。敬意をはらうべきかと存じましたものですから」

「あのねぇ。いい加減にしとかないと怒髪天を衝いちゃうんだからねっ、その口調も二度としないで!」

 チョット調子にノりすぎたみたいだ。
 ヴィーは青鬼と言うか赤鬼と言うか、とにかく今にもキレてバッグを振り回しそうな形相でオレを睨みつけてくる。
 スワロフスキィーやスタッドで、ギラギンにデコられた凶悪バッグを避けるのはわけないけれど、またいつかのように毛絲さんや葉植さんに被害が及ぶとマズい。

「そりゃ悪ぅ御座んしたね。さっきの美人はお客様だ、でもタダの客じゃない。V&Mジャポンの営業の方で、オレのこの商品デザインを認めてくれてさ、ちゃんとしたビジネスにしないかって誘ってくれたんだ。自己紹介ぐらいして何が悪いんだよ、ええっ生彩(あざやか)さんよ?」

「ギャア~! 今度名前を呼んだら承知しないんだからっ。アタシはもう謎多きファッション誌モデル、ヴィヴィアン西木なのっ。楯には、最初からヴィーって呼んでいいって言ってるでしょ! もう、ニューロン爆発するようなことばっか言わないでよぉっ」

 そう地団駄をガコンガコン踏むヴィーに、こっちの脳神経がネジれてくる。
 一七年に一度の女神パワーも、トチ狂った怪力女の狼藉には対処不能だ。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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