045 ________________ ‐3rd part‐

文字数 1,744文字

「そうだったな、それはどうなんだ水埜?」

「……それは、オレにはわからないよ。少なくとも一階にはTVしかなかったはずだし、屋根裏には上がったことなんかないんだから。家財道具の処分は、有勅水さんが指示を出してやらせたんだろうし」

「ならさ、その件と合わせて聞いてみてくれないかな? 現場の画像データ、まだ削除してなかったら送ってもらえないかってさ」

「え? 現場の、って……」

「勿論、悪用なんかしないよ、ウェブへ流出なんて絶対しない。でも見たいって言うか欲しいんだよ。誰でもダウンロードできる代物とは、なんかリアル加減が違うだろう?」

「……おまえ、それってガチで言ってんの?」

 根上の表情自体はマジガチだけれど、自分を疑いだしそうだから確認しておくしかない。

「て言うかさ、直接顔を見知ってる人だし、何か特別な感覚があるんじゃないかと思うんだ」

「そりゃ、あるんだろうけれど……」

「ただ所持しているだけでいいんだよ。なぁ頼むよ水埜ぉ。自慢したりも一切しない、そりゃぁ、多少は話のネタにはしちゃうかもしれないけどさ。五万までなら今スグ出すし」

 遺体の写真が自慢になるのか? オマケにカネにまでなるってか?
 それも五万だなんて……それだけあれば手持と合わせてセイレネスのジーンズが買えるっ。

 くぅ~、グラつくぅ。けれど、それをやっちまっちゃぁ人間としてお終ぇよだ。家賃をもらう方がまだ正気の沙汰だろう。

 どうやら根上は、単純な屈折ではなくて、複屈折した一方が優等生ヅラを形成させて、もう一方が内面で鬱屈しちまったみたい。
 人死(ひとじ)にってのは、どんな善行よりも、遥かに人を惹きつけるトピックなんだろうからねぇ。根上も、わかり易いっちゃぁ、わかり易かったな。

「まぁ聞くだけならいいけれど。でもその現場写真、警察の知り合いに送ってたはずだよ有勅水さん。それで確認してもらって僊婆を寝室へ動かしたんだから」

「一応は、証拠あつかいってことになるわけか……」

「そうそれ。第三者に渡したら罰せられるかも知れないから、あまり期待しないでくれよな。どうにもならない女神様でも、嫌われるのだけは御免だからさ」

「ああ、わかったよ。悪いね変なこと頼んで。だけど水埜だからついさぁ、こんなこと、ほかの誰にも頼めないだろう?」

 言われてみると、根上からこんな個人的もいいところなことを、それもガチでアテにした頼み事をされるのは、一二年間のつき合いで初めてかもしれない……。
 なんか、とり澄ました根上の内側へ踏み込めたって気がして、錯覚だとしても妙に嬉しい。これも有勅水スマイルの影響なんだろか?

「水埜に変なことって言えば、俺も思い出したぞ。前から気になってたのに、うっかり聞きそびれてたんだ。まっ、どうでもいいことではあるんだけど、なんか気持のやり所がわからなくってな」

 緑内まで、今度は何じゃら?
 と、向ける顔から守勢に入る。緑内が変と言えば本当に変な頼み事を言い出されかねない。

 電話番号とかアドレス類とか、有勅水さん絡みのことだったら断固拒絶する!
 その強い意志表示を、眉間のシワで訴えたんだけれど……オレの読みは大ハズレで、さらに深いシワで眉根を寄せることになる。

 ──その話は、一箇月ほど前、九月に入って間もない頃のことだった。

 緑内は、荷造り用のPPロープでぐるぐる巻きになった家庭用冷蔵庫を、独り台車で運ぶ女の子と隣町で遭遇し、一体何事なんだ? とまじりまじり見てしまったそうな。

 するとその時に、「そこ行く眼鏡の君ー、チョイとお助けくださいましー。持病の股関節脱臼が……」などと、素っ頓狂に声をかけられたのだと言う。

 そこは緩い坂の途中だったから、台車を押すのを手伝わされて、残暑厳しい炎天の中、過酷な労役をするハメになったらしい。

「シカトしきれなかったんだよ。小柄で、そんなことするには非力そうな幼女だったってことだけじゃなく、なんだかどこか薄っ気味が悪くてさぁ。ホント、その時ばかりはヤケに心臓バクバクに緊張した。そのまま逃げたら(たた)られそうな眼だったんだ」

「祟られそうな眼って、どんなんだよ一体?」

 またぁ、根上が明らかに鼻の穴を広げていた。
 でも、喰いつく箇所が違うんじゃないか? 怪しいのは冷蔵庫の方だろ断然っ。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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