300 ______ ‐2nd part‐
文字数 1,215文字
「水埜が遅いもんだから、りんは舞い込んできた儲け話で行っちゃったわよ。さぁ私たちも早いトコ行きましょ。さすがに、まだ混み合ったりはしていないでしょうけど、人数制限するほどの長蛇の列ができるのは、時間の問題なんだから」
「え~っ、そんなトコへ行くのかよぉ」
高級な上に長長と待たされたら、美味さなんか消し飛んじまうのに。
「水埜それ、私の用件なんか全くわかっていないクセして、臆測で言ってることが、偶然噛み合っちゃってるだけじゃないのっ?」
「何がだよ? オレを脅迫して高い昼メシをタカりながら、またムリ難題を押しつけようってんだろ? んなこと、端からわかってら」
「もうランチは完全に奢りだからねっ。今日は僊河ビルの第一期落成日でしょうよ? 二階のギャラリースペースでは僊河青蓮の作品展、一階はセイレネスの単独第一号店がオープンしてるのよっ。私たちが意見を出した限定アイテムも、ごっそり並んでいるはずなのよねぇ」
「へっ、そうなの! そこへこれから行こうってわけっ?」
「そうよ。トリノさんから、水埜を誘ってあげてってメッセージをもらったから、こうして声をかけてあげたんじゃないのよ。ミラノさんも水埜のドッキリを狙ったのなら、私たちには教えておいてくれなくちゃ、よくわからなくて、こっちがドギマギしちゃうわよ」
「先にそれを言えよな。でもそう、大学へ来る途中で、通りのビル側にワゴン車やらヴァンやら、工事とは雰囲気が違うクルマが何台も駐まってて、引っ懸かりはしてたんだ」
「それでピンとくるんじゃないの、フツウ?」
「フツウじゃないもんでっ。しかし今日がそうだったとはね、なら急がないとダメじゃんっ。行くぞほら、ハイヨー草豪!」
「って、待ちなさいよっ」
「ランチだろうがデザートだろうが、何でも、好きなだけバケツで喰せてやるからっ」
「誰がバケツよっ。私をウマあつかいした代償は高いんだからねっ」
「とにかく走れっ。文句は、限定アイテムをゲットしたあとあと」
▼
目指すビルの手前では、これまで、僊河青蓮展のオープニングセレモニーでも取材をしていたのか、TV局のジャンパーを着たクルーたちが、撮影機材をワゴンにつめ込む撤収作業を行っていた。
それを横目に草豪と二人、呼吸を整えながら徒歩で行き過ぎる。
ショップがオープンしてるという歩道沿いには、草豪が言ったような、長蛇の列など見当たらないので、最後まで走りぬける必要もない。
ビルが建つ前まで来ると、どうやら、本当に宣伝活動など一切していない様子。
一階のショップも、少し奥まった入口の両脇に、こぢんまりと、アートっぽくアレンジされた花束が、窈窕 と飾られているのみ。
どこにも、オープン初日を祝うような、繁華な気配などはなかった。
ショップ名の表示さえ≪alluring voic≫と、ガラスのドアの中に、文字を象った小さな金属片が埋め込んであるだけで、辛うじてセイレネスとの関係を仄めかしている。
「え~っ、そんなトコへ行くのかよぉ」
高級な上に長長と待たされたら、美味さなんか消し飛んじまうのに。
「水埜それ、私の用件なんか全くわかっていないクセして、臆測で言ってることが、偶然噛み合っちゃってるだけじゃないのっ?」
「何がだよ? オレを脅迫して高い昼メシをタカりながら、またムリ難題を押しつけようってんだろ? んなこと、端からわかってら」
「もうランチは完全に奢りだからねっ。今日は僊河ビルの第一期落成日でしょうよ? 二階のギャラリースペースでは僊河青蓮の作品展、一階はセイレネスの単独第一号店がオープンしてるのよっ。私たちが意見を出した限定アイテムも、ごっそり並んでいるはずなのよねぇ」
「へっ、そうなの! そこへこれから行こうってわけっ?」
「そうよ。トリノさんから、水埜を誘ってあげてってメッセージをもらったから、こうして声をかけてあげたんじゃないのよ。ミラノさんも水埜のドッキリを狙ったのなら、私たちには教えておいてくれなくちゃ、よくわからなくて、こっちがドギマギしちゃうわよ」
「先にそれを言えよな。でもそう、大学へ来る途中で、通りのビル側にワゴン車やらヴァンやら、工事とは雰囲気が違うクルマが何台も駐まってて、引っ懸かりはしてたんだ」
「それでピンとくるんじゃないの、フツウ?」
「フツウじゃないもんでっ。しかし今日がそうだったとはね、なら急がないとダメじゃんっ。行くぞほら、ハイヨー草豪!」
「って、待ちなさいよっ」
「ランチだろうがデザートだろうが、何でも、好きなだけバケツで喰せてやるからっ」
「誰がバケツよっ。私をウマあつかいした代償は高いんだからねっ」
「とにかく走れっ。文句は、限定アイテムをゲットしたあとあと」
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目指すビルの手前では、これまで、僊河青蓮展のオープニングセレモニーでも取材をしていたのか、TV局のジャンパーを着たクルーたちが、撮影機材をワゴンにつめ込む撤収作業を行っていた。
それを横目に草豪と二人、呼吸を整えながら徒歩で行き過ぎる。
ショップがオープンしてるという歩道沿いには、草豪が言ったような、長蛇の列など見当たらないので、最後まで走りぬける必要もない。
ビルが建つ前まで来ると、どうやら、本当に宣伝活動など一切していない様子。
一階のショップも、少し奥まった入口の両脇に、こぢんまりと、アートっぽくアレンジされた花束が、
どこにも、オープン初日を祝うような、繁華な気配などはなかった。
ショップ名の表示さえ≪alluring voic≫と、ガラスのドアの中に、文字を象った小さな金属片が埋め込んであるだけで、辛うじてセイレネスとの関係を仄めかしている。