006 ___________ ‐3rd part‐
文字数 1,449文字
それは、換言すれば、礼節を無視できる傲慢さであり偏執狂のキライがあるということにもつながる。
常識が最低限度あれば、それを敢えて前面にうち出すような真似はしない。
でも敢えてやっちまうってことは、やはりどこかしら常軌を逸しているんだ。そこから何か面倒を起こすかもしれないと敏感に察知して用心するのは、仕方のない至極当然の反応ではあるまいか?
イヤイヤ、違うよな。
そんなことはどうでもいいんだ、オレにはどうにもなりゃしないし、オレもセンパイのTシャツを買ったのがきっかけで、ここにこうしているってわけなんだし……。
そ。オレは、そんな見ず知らずの他人の非常識さから引き起こされるさまざまな難儀を、笑って寛恕と処理することができない。
結構大きなダメージを受けてしまう。その度量の小ささ、精神的な脆弱さが堪らなくイヤなんだ。
オレは人生経験が足らず処世術を知らないだけでなく、そもそもの世界観や価値観が狭くて他人に対しての余裕がない。
機転も機知も全然利かないクセに、噛み合わない会話や、それが途切れたあとの無言の間が堪らなく怖い。場の寒さと空気の重みに耐えられない。
互いの思惑の差から生じる殺伐とした緊張感にも辛抱しきれず、オレの方がスジが通っていたとしても、つい先に自棄 を起こして逆ギレ扱いされたりしちゃう。
要するに、オレは嫌気が差すほどリフラフ(クズ人間)だってことだ。
何かハプニングが起こるたび、自分の悪すぎる頭にムカつき吐き気がする。
一体全体、オレはこれまで何をしてきたのかと絶望的な感情に襲われる……だから、だからそのリハビリにこうしてここにいるのに、もうかれこれ三週間も経つってのに、一日に何人もの変物をまのあたりにする機会が多くなって、ますます、色眼鏡の度数とカラーの濃度が高くなってきている気がしてならない。
だけれどっ、今日こそは、己の殻をブチ破り一皮剥けることができるかもしれないっ。
その契機となる人物が、このムッシューでないとは言いきれないじゃないか!
──まんまとバッチリすっきりティーを売りつけられたムッシューが、毛絲さんとの談笑をきりあげて、お次の番であるオレが腰かける方へと足を向けた。
でもオレはスグには顔を上げず、今までしていた細工の手も止めずに何気なく営業体制に入ることにする。
こちらから仕掛けるよりも、あちらさんが興味を示したことに話を被せていく方が上手くいくのは把握済みだ。
……しかし。何でだろう?
ムッシューは、爪先が擦り剥けて金属が露出した安全靴の歩調を緩めながらも、オレのスペースを素通りして、葉植さんがぺたんと鳶足 に座る茣蓙の前にしゃがみ込んだ。
そして、オレがそうなるであろうと予想したほぼそのとおりに、葉植さんへと話しかけ始めたではないか。
どしてっ?
作業に集中したフリが逆効果だったのか? せめて顔だけでも上げておくべきだったのか?
……イヤ、歩調を緩めたってことは、並べてある商品には少なくとも一瞥 をくれているはずだ。オレのつくるモノは、彼にとってそんなに魅力がないってのか──。
ショックからか悔しさからかわからないけれど、思いっきり気持が凹んでくる。
今度は表現しようのない猥雑に入り乱れた感情に支配されて、顔を上げることも、鏝を握る手を休めることもできなくなった。
葉植さんが隣で気炎万丈 に繰り広げるセールストークが、左耳から右耳へと筒ぬけていくのをカンジながらオレは、ただひたすら、ハンダを鎔かし続けるしかなかった。
常識が最低限度あれば、それを敢えて前面にうち出すような真似はしない。
でも敢えてやっちまうってことは、やはりどこかしら常軌を逸しているんだ。そこから何か面倒を起こすかもしれないと敏感に察知して用心するのは、仕方のない至極当然の反応ではあるまいか?
イヤイヤ、違うよな。
そんなことはどうでもいいんだ、オレにはどうにもなりゃしないし、オレもセンパイのTシャツを買ったのがきっかけで、ここにこうしているってわけなんだし……。
そ。オレは、そんな見ず知らずの他人の非常識さから引き起こされるさまざまな難儀を、笑って寛恕と処理することができない。
結構大きなダメージを受けてしまう。その度量の小ささ、精神的な脆弱さが堪らなくイヤなんだ。
オレは人生経験が足らず処世術を知らないだけでなく、そもそもの世界観や価値観が狭くて他人に対しての余裕がない。
機転も機知も全然利かないクセに、噛み合わない会話や、それが途切れたあとの無言の間が堪らなく怖い。場の寒さと空気の重みに耐えられない。
互いの思惑の差から生じる殺伐とした緊張感にも辛抱しきれず、オレの方がスジが通っていたとしても、つい先に
要するに、オレは嫌気が差すほどリフラフ(クズ人間)だってことだ。
何かハプニングが起こるたび、自分の悪すぎる頭にムカつき吐き気がする。
一体全体、オレはこれまで何をしてきたのかと絶望的な感情に襲われる……だから、だからそのリハビリにこうしてここにいるのに、もうかれこれ三週間も経つってのに、一日に何人もの変物をまのあたりにする機会が多くなって、ますます、色眼鏡の度数とカラーの濃度が高くなってきている気がしてならない。
だけれどっ、今日こそは、己の殻をブチ破り一皮剥けることができるかもしれないっ。
その契機となる人物が、このムッシューでないとは言いきれないじゃないか!
──まんまとバッチリすっきりティーを売りつけられたムッシューが、毛絲さんとの談笑をきりあげて、お次の番であるオレが腰かける方へと足を向けた。
でもオレはスグには顔を上げず、今までしていた細工の手も止めずに何気なく営業体制に入ることにする。
こちらから仕掛けるよりも、あちらさんが興味を示したことに話を被せていく方が上手くいくのは把握済みだ。
……しかし。何でだろう?
ムッシューは、爪先が擦り剥けて金属が露出した安全靴の歩調を緩めながらも、オレのスペースを素通りして、葉植さんがぺたんと
そして、オレがそうなるであろうと予想したほぼそのとおりに、葉植さんへと話しかけ始めたではないか。
どしてっ?
作業に集中したフリが逆効果だったのか? せめて顔だけでも上げておくべきだったのか?
……イヤ、歩調を緩めたってことは、並べてある商品には少なくとも
ショックからか悔しさからかわからないけれど、思いっきり気持が凹んでくる。
今度は表現しようのない猥雑に入り乱れた感情に支配されて、顔を上げることも、鏝を握る手を休めることもできなくなった。
葉植さんが隣で