047 _____________________ ‐2nd part‐

文字数 1,572文字

「学年は、オレたちとタメだよ」

「……タメ? あれで! なら、あの子じゃなく、あのコじゃんかよ」

「はぁ? でも不登校癖があって。インターナショナルに通っていたみたいなんだけれど、結局エレメンタリーも卒業はしなかったみたいだ。でも高卒認定はとってるから、大学生になるまでは、家族公認で堂堂と好きなことしてるんだって」

「……凄ぇな、なんかやっぱ……」

「何せ葉植教授の血を引いているんだから、フツウの学校生活にはムリがあるんだろうよ。もしかしたら冷蔵庫は彼女のペットで、おまえはただ、お散歩の手伝いをさせられたのかもしれないぜ~」

「いや、商売道具だと言ってたはずだ、放置されていたのを拾ったんだとか。エラく重かったけど、あのコは何を売ってたんだ?」

 緑内も、彼女がオレの隣で何を並べていたかまでの憶えはなかったみたいだ。

「石鹸とキャンドルだよ。天然素材にこだわってたみたいだから、材料の保管にちょうどよかったのかも」

「……なるほどな……」

「とにかく変わったコで、中身も外見もとても同学年とは思えないのはオレもさ。一応、歴としたお嬢様だろうに、世間ズレも俗離れもしているし、根上よりも、遥かに強かで、奸悪そうだって」

「どうして俺を引き合いに出す? そのコも僊河さんの土地で知り合った仲間ってことなんだろう? ってことは、その教授のお孫さんも、事故死に何か関心をもっているのかい?」

「それはないけれど、彼女も猟奇的なことが大好きそうだったから。言うこともやることも、なんか地味にエグくて過激だし」

「へぇ~。水埜の隣にいたんだろう? う~ん全然記憶にないなぁ。魔女のコスプレしてた人なら、視覚野に焼き付いているんだけど」

「おまえもかぁ、オレに気づいといて素通りしたのか? ったく今まで黙っていやがって、そう言うトコ緑内よりタチ悪いよな。もう恥かしいから可笑しかったらその場で笑えよ、シカトしたなら最後までしきってくれっ」

 ホント、友達甲斐のないヤツなんだから。まぁオレとは、友達の定義が違うだけなんだろうけれど。
 そもそも、在栖川に集まる人間は、

と刷り込まれている者がほとんどときていやがるから、一般的な意味での友情なんか本来絶無に等しいんだけれど……。

「じゃあ、やっぱり、あれもあのコだったんだなぁ」

 緑内は冷蔵庫を押してやる前にも葉植さんと出交していた。
 それも早朝の道玄坂なんかで──。
 
 葉植さんはラヴホテルが建ち並ぶ路地から、奇妙な風体の男を従えて出て来たと言う。
 緑内はそこへ鉢合わせて、ぶつかってしまったもんだから、驚きとバツの悪さとでやはり完全には忘却できすにいたようだ。
 しかしその体験は、葉植さんよりも遥かに激烈なインパクトによって、緑内の記憶に埋没せしめた。彼女と一緒にいた男のせいで。

 その男は、緑内と大差ない身長だったものの、青光りしたスキンヘッドで、首の太いがっちりした体躯。
 加えて、額の上から頭頂にかけて何やら梵字でタトゥーが刻まれていた上、クソ暑いさ中に息苦しそうに喰い込んだローマンカラーの聖職服姿だった……。

 もう、そんな格好を喜んでするのは唯一人、責丘って人以外には考えられないし、あり得ない。
 オレが知っている彼の格好は、普段着の上から芥子色のトーガを被り、モヒカン頭にラヴリー眼帯。
 それから、ロングドレッドの髪にイエス・キリストみたいなヒゲで、金糸銀糸の袈裟を着込み、額には666と両頬には十字架という、不信心も明白な冒瀆的リリジャスなスタイルばかり。

 おそらく、緑内が見た梵字のタトゥーもシールかペインティングだ、「イジメないでくれませんかぁ、こう見えても虚弱体質なのですよ」が、責丘さんの口癖だったはずだから。

 でも、彼が実際どんな造作の顔だったのかは、オレにもまるで浮んでこない。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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