046 お菊人形の呪いは髪が勝手にズレることなのに ‐1st part‐
文字数 1,455文字
「黒目にも白目にもツヤがないって言うか精気がなくて。居眠りをごまかすために瞼 に目玉を描くってのがあるだろ? あんなカンジに見える目なんだよ」
「はぁ? 何だよそれ……」
緑内が調子づかないよう、一応の牽制はしておく。しかし根上の方は、既に喰いつきだしているカンジ。
「夏休みもお終いだって時季なのに、顔色も妙に白くてさ、お菊人形ソックリなんだ。黒髪だしおかっぱの直毛だし前髪がオン・ザ・眉毛のパッツンで。服装は黄色と赤のボーダーTシャツに、デニムでぶかぶかのオール・イン・ワンなんだけどさぁ」
「日本人形版チャッキーってかっ。それで? 菜っ切り包丁でも持ってたとか」
……やめてくれ根上~、そんなおまえは見たくないぃ……
「いや、凄ぇ~語学力をもってた。俺が黙りこくってたら、ドイツ語やフランス語ばかりかスペイン語まで使ってしゃべりかけてきやがんの。言葉の問題じゃないってのに」
「ホントにしゃべってたか? 実は聴覚中枢へのダイレクトヴォイスだったんじゃないの?」
話を自分好みに膨らまそうとする根上には悪いけれど、オレには察しがついてしまった。
……そうか。緑内は、その時に味わった惨苦をネタにオレに何かを強要するつもりなんだ、それこそ有勅水さんの連絡先でも。そうはいくか。
「そのコって、銀色のリュック背負ってただろ。それも
「ん~どうだったかなぁ。そこまで憶えてない、その幼女が醸し出す雰囲気のインパクトが強すぎて、そんなの目に入らなかった」
そうかぁ? あのリュックのシュールさこそ、真っ先にインパクトを受けそうなもんだけれど。
でもまぁ緑内の感覚自体がシュールときてるから、眼中にしないのも当然か……。
「それな、葉植教授のお孫さんだよ、木春菊さんっておっしゃるんだ。残念だけれどオレが関知できる人じゃない。それに彼女も、オレを通じて緑内を知ったわけでもないだろうから、オレに責任を問おうなんてムリな話だね」
「葉植教授って、あの? ウッソ……」
「彼女は、自分の客以外の顔は憶えないんだ。たとえ隣で商売してたオレと、通りかかったおまえがバカ言い合って、バカ笑いしてたとしてもな」
「……バカ言うな、全然笑えねぇっ」
「マジガチだから。緑内に声をかけたのは全くの偶偶だろうさ、おまえが如何にもヒマそうなツラして、用もないのに広尾をフラフラしてたのが悪いんだ」
「隣町と言っても上麻布、膳福寺の近く。時間があってカネが勿体なかったから、博物館から大学まで歩いてた途中だ」
やはり偶偶の、通りがかりだったんだろうけれど……。
緑内は、オレに声はかけずとも、今はなきあの広場でのオレたちの様子を何度か見かけてはいたんだろうから、その時に葉植さんのことも目にしているはず。
彼女のことが記憶の片隅にでも残っていて、それで本当に彼女かどうかモヤモヤを溜めていたようだ。
そして葉植さんには、緑内と目が合っていたとしてもだ、緑内のことを記憶に留 める道理がない。
緑内が、彼女の作品、石鹸かキャンドルを買って、大福帳に顧客情報として書き描きされない限りは。
憶えておきたいことが多すぎるために、必要がないと判断したことは、意識的に憶えないことにしているくらいの徹底ぶりなんだから、葉植さんは。
「別に、おまえなんかに責任を問おうなんてつもりはない。ただ、どんな子なのか知りたかっただけだ」
「どうだかなっ? おまえのことだし」
「……しっかし、葉植教授の孫だったとはな。大体あの子何歳だ? どこの生徒なんだよ?」
「はぁ? 何だよそれ……」
緑内が調子づかないよう、一応の牽制はしておく。しかし根上の方は、既に喰いつきだしているカンジ。
「夏休みもお終いだって時季なのに、顔色も妙に白くてさ、お菊人形ソックリなんだ。黒髪だしおかっぱの直毛だし前髪がオン・ザ・眉毛のパッツンで。服装は黄色と赤のボーダーTシャツに、デニムでぶかぶかのオール・イン・ワンなんだけどさぁ」
「日本人形版チャッキーってかっ。それで? 菜っ切り包丁でも持ってたとか」
……やめてくれ根上~、そんなおまえは見たくないぃ……
「いや、凄ぇ~語学力をもってた。俺が黙りこくってたら、ドイツ語やフランス語ばかりかスペイン語まで使ってしゃべりかけてきやがんの。言葉の問題じゃないってのに」
「ホントにしゃべってたか? 実は聴覚中枢へのダイレクトヴォイスだったんじゃないの?」
話を自分好みに膨らまそうとする根上には悪いけれど、オレには察しがついてしまった。
……そうか。緑内は、その時に味わった惨苦をネタにオレに何かを強要するつもりなんだ、それこそ有勅水さんの連絡先でも。そうはいくか。
「そのコって、銀色のリュック背負ってただろ。それも
非常持出袋
って表示の入ったヤツ」「ん~どうだったかなぁ。そこまで憶えてない、その幼女が醸し出す雰囲気のインパクトが強すぎて、そんなの目に入らなかった」
そうかぁ? あのリュックのシュールさこそ、真っ先にインパクトを受けそうなもんだけれど。
でもまぁ緑内の感覚自体がシュールときてるから、眼中にしないのも当然か……。
「それな、葉植教授のお孫さんだよ、木春菊さんっておっしゃるんだ。残念だけれどオレが関知できる人じゃない。それに彼女も、オレを通じて緑内を知ったわけでもないだろうから、オレに責任を問おうなんてムリな話だね」
「葉植教授って、あの? ウッソ……」
「彼女は、自分の客以外の顔は憶えないんだ。たとえ隣で商売してたオレと、通りかかったおまえがバカ言い合って、バカ笑いしてたとしてもな」
「……バカ言うな、全然笑えねぇっ」
「マジガチだから。緑内に声をかけたのは全くの偶偶だろうさ、おまえが如何にもヒマそうなツラして、用もないのに広尾をフラフラしてたのが悪いんだ」
「隣町と言っても上麻布、膳福寺の近く。時間があってカネが勿体なかったから、博物館から大学まで歩いてた途中だ」
やはり偶偶の、通りがかりだったんだろうけれど……。
緑内は、オレに声はかけずとも、今はなきあの広場でのオレたちの様子を何度か見かけてはいたんだろうから、その時に葉植さんのことも目にしているはず。
彼女のことが記憶の片隅にでも残っていて、それで本当に彼女かどうかモヤモヤを溜めていたようだ。
そして葉植さんには、緑内と目が合っていたとしてもだ、緑内のことを記憶に
緑内が、彼女の作品、石鹸かキャンドルを買って、大福帳に顧客情報として書き描きされない限りは。
憶えておきたいことが多すぎるために、必要がないと判断したことは、意識的に憶えないことにしているくらいの徹底ぶりなんだから、葉植さんは。
「別に、おまえなんかに責任を問おうなんてつもりはない。ただ、どんな子なのか知りたかっただけだ」
「どうだかなっ? おまえのことだし」
「……しっかし、葉植教授の孫だったとはな。大体あの子何歳だ? どこの生徒なんだよ?」