067 悪足掻くペットショップの売れ残り ‐1st part‐
文字数 1,770文字
どうやら、オレは完全にやらかしちまっていそう。
今、葉植さんが言ったことくらいなら、いつでもやっちまう気がするし……。
「どうもすみませんでしたっ」
「いーよボクは別にー、楯クンが約束さえ守ってくれたらー」
「約束? ……って、一体何でしたっけ?」
「フフ~、楯クンが二十歳 までに死ぬよーなことがあったら、おケツの肉をボクがもらうって約束だよー、モ~忘れたらメーッ」
「…………」どしてオレはそんな約束を? ったく縁起でもない。
それにしたって、ケツの肉をとられるだなんて死ぬに死ねない。だからこそ勢いで同意しちまったのかも。
「本当だよー。ヴィーちゃんも、楯クンと同じくらい真っ赤な顔で血迷ってたけど、一応証人だから確認しといてねー。『ヴェニスの商人』みたく、楯クンの血は一滴もやら~んとか言ってたけど、ちゃんと血抜きして洗面器で返すーって逆襲したら絶句してたー。アハハハー」
「……オレのケツの肉をとって、どうするつもりなんですか一体?」
「まだ決めてなーい。でも楯クン、いーおケツしてるよね。たたいた時、指先にジ~ンとくる具合がサイコー」
「…………」
ここでオレまで絶句していては、葉植さんと折角一緒だというのに何の足しにもならなくなる。
この大逸れしたリズムを、自分がノれる調子の域内へと戻すべく、丁度話に出たヴィーをダシに話題を供することにした。
今は、それ以外に会話を続けられそうなネタがない。
葉植さん相手なら、幾ら暴露しようともヴィーへ洩れることはないし、口止めもされていないことだし。
ムッシューの精神分析を講義し続けてもらうよりも、遥かに、オレの心の痼 りが和らぐというもの──。
「フムフーム。つまり楯クンはー、自分の同一性を破壊しよーとするヴィーちゃんに殺意を懐いているとゆーのだね? でも実行しちゃうとー、清廉であろーとして、楯クンがそこまで苦しんでいるのに、ヴィーちゃんよりも下劣な極悪人にまで堕ちてしまうー」
「モォ~。そんなこと一言も言ってないでしょうに、勘弁してくださいよぉ。ただオレはですね、そんな風にして特待生になっても無意味だし、そもそもそんなモノじゃないって言いたいんですっ」
「だからー、その楯クンの憤慨は、結局どーしよーもなくって、その内に殺意へとゆきつくしかなくなるー。精神的ストレスから楯クンの脳内は、コルチゾールでた~っぷり滲淫 されちゃって、海馬をウリウリと嫐 りモノにしてくるー」
「ウリウリ? ですか……」なぜだか、よくわかる気がしてきちゃうからヤバい。
「なんだか、コンプレックス絡みのトラウマに爪を立てられてるよーだから、それこそ人格を乖離させて凌ぐか、阿鼻の元凶を根絶やしにするしかない~」
「……究極すぎやしません?」
「だけどー、ボクは楯クンがー、最後には実力行使に出る人だって知ってるので、率直にヴィーちゃんを殺害しちゃう方を、慫慂 しておりまするのー」
「……なんか、葉植さんがそんなこと言うと、冗談じゃなく聞えてきちゃいますからやめてくださいよもう」
「アラま? 随分と尾籠 な言いぐさ。とびっきりの冗句ですのに」
葉植さんって、時どきこうして口調だけをまともに戻すから、マジでジョークとは思えなくなって始末が悪い……。
何だその、オレも、ムッシューに疑いのある境界性人格障害とやらの入口付近をウロついているところを、蹴躓 かせて落とし込んでやれ、といった思惑までが察せられるんだよねぇ、葉植さんはっ。
どの道、葉植さんにとってオレは、馴じみのペットショップで、いつまでも売れずにいる愛玩犬って感覚なんだろう。
会えば尻尾をふるようにしゃべり続け、チョットおあずけをすれば、予想どおりのリアクションを示す。
この構図はいつから、いや、どうしてできてしまったのか、しまうのか? わかっちゃいるけれどやめられない。と言うより、やっちまう……。
「オレって、やっぱ頭、相当悪いのかなぁ。どうです? 同じ歳、同じ年度生まれの葉植さんから見てオレは?」
「ボクはー、器質的に壊れていなければ、人の頭なんてほぼ一緒だと思うー。だから悪いのは使い方ー。そんなにヴィーちゃんの特待生がムカつくなら、まだなれるんだから楯クンも一緒になっちゃえばいー」
「……ウ~ン、それだとどうにも納得が。
今、葉植さんが言ったことくらいなら、いつでもやっちまう気がするし……。
「どうもすみませんでしたっ」
「いーよボクは別にー、楯クンが約束さえ守ってくれたらー」
「約束? ……って、一体何でしたっけ?」
「フフ~、楯クンが
「…………」どしてオレはそんな約束を? ったく縁起でもない。
それにしたって、ケツの肉をとられるだなんて死ぬに死ねない。だからこそ勢いで同意しちまったのかも。
「本当だよー。ヴィーちゃんも、楯クンと同じくらい真っ赤な顔で血迷ってたけど、一応証人だから確認しといてねー。『ヴェニスの商人』みたく、楯クンの血は一滴もやら~んとか言ってたけど、ちゃんと血抜きして洗面器で返すーって逆襲したら絶句してたー。アハハハー」
「……オレのケツの肉をとって、どうするつもりなんですか一体?」
「まだ決めてなーい。でも楯クン、いーおケツしてるよね。たたいた時、指先にジ~ンとくる具合がサイコー」
「…………」
ここでオレまで絶句していては、葉植さんと折角一緒だというのに何の足しにもならなくなる。
この大逸れしたリズムを、自分がノれる調子の域内へと戻すべく、丁度話に出たヴィーをダシに話題を供することにした。
今は、それ以外に会話を続けられそうなネタがない。
葉植さん相手なら、幾ら暴露しようともヴィーへ洩れることはないし、口止めもされていないことだし。
ムッシューの精神分析を講義し続けてもらうよりも、遥かに、オレの心の
「フムフーム。つまり楯クンはー、自分の同一性を破壊しよーとするヴィーちゃんに殺意を懐いているとゆーのだね? でも実行しちゃうとー、清廉であろーとして、楯クンがそこまで苦しんでいるのに、ヴィーちゃんよりも下劣な極悪人にまで堕ちてしまうー」
「モォ~。そんなこと一言も言ってないでしょうに、勘弁してくださいよぉ。ただオレはですね、そんな風にして特待生になっても無意味だし、そもそもそんなモノじゃないって言いたいんですっ」
「だからー、その楯クンの憤慨は、結局どーしよーもなくって、その内に殺意へとゆきつくしかなくなるー。精神的ストレスから楯クンの脳内は、コルチゾールでた~っぷり
「ウリウリ? ですか……」なぜだか、よくわかる気がしてきちゃうからヤバい。
「なんだか、コンプレックス絡みのトラウマに爪を立てられてるよーだから、それこそ人格を乖離させて凌ぐか、阿鼻の元凶を根絶やしにするしかない~」
「……究極すぎやしません?」
「だけどー、ボクは楯クンがー、最後には実力行使に出る人だって知ってるので、率直にヴィーちゃんを殺害しちゃう方を、
「……なんか、葉植さんがそんなこと言うと、冗談じゃなく聞えてきちゃいますからやめてくださいよもう」
「アラま? 随分と
葉植さんって、時どきこうして口調だけをまともに戻すから、マジでジョークとは思えなくなって始末が悪い……。
何だその、オレも、ムッシューに疑いのある境界性人格障害とやらの入口付近をウロついているところを、
どの道、葉植さんにとってオレは、馴じみのペットショップで、いつまでも売れずにいる愛玩犬って感覚なんだろう。
会えば尻尾をふるようにしゃべり続け、チョットおあずけをすれば、予想どおりのリアクションを示す。
この構図はいつから、いや、どうしてできてしまったのか、しまうのか? わかっちゃいるけれどやめられない。と言うより、やっちまう……。
「オレって、やっぱ頭、相当悪いのかなぁ。どうです? 同じ歳、同じ年度生まれの葉植さんから見てオレは?」
「ボクはー、器質的に壊れていなければ、人の頭なんてほぼ一緒だと思うー。だから悪いのは使い方ー。そんなにヴィーちゃんの特待生がムカつくなら、まだなれるんだから楯クンも一緒になっちゃえばいー」
「……ウ~ン、それだとどうにも納得が。
まだ
、なんてこと、オレには全然思えませんし」