064 死にたくなる時~、人生観が瓦解した時~ ‐1st part‐
文字数 1,663文字
「ねぇ、どう言うこと? わかるように教えてよ」
「温泉とかスノボとか騒いでる場合じゃない、こいつはブルーレターってヤツだっ」
「ブルゥ……? やっぱり鬱陶しそうじゃないのよぉ」
「この蒙昧 めがっ。ここに記されたテーマでレポート提出、大学のHPでアップするだけだけれど、それで評価が良ければ、関連する単位を含めた全成績がAプラスに確定されるんだっ」
「て……だからぁ?」
「信じられっか? そうなりゃ二年目の前期は特待生だぞっ。授業料免除の上に、奨励金のこづかい付き御身分だぜ!」
「やっぱり~、もう長い休みぐらいゆっくり休ませて欲しいわっ。学生なのに全然遊べないなんてぇ、一体ど~ゆー大学なのよぉっ!」
「何だそりゃ? もっと驚くだろフツウ。それじゃまるで、今までも特待生だったみたいな口ぶりじゃないかよっ」
「そうだもん。って言うか最初っからぁ。だからウチじゃ大喜びで、バッカみたいに寄付金奮発しちゃってんの。まぁ親のために勉強してるから、しょうがないんだけど。じゃないと、自由に東京暮らしなんて許してもらえないしぃ」
!!! 脳の血管が確実に何本かブチギレた、世の中やっぱり間違ってる、いや狂ってやがる……絶対にっ。
毛絲さんたちまでが、里衣さんの部屋を使うためにやって来たので、オレは自分の部屋へと左向け左。
まだヴィーは、オレに何かをほざいていたけれど、階段を踏みはずさないことだけで精一杯だ。
階段を昇りきった右手の部屋では、やはり数年前に特待生で、現在も特別な待遇にあると言える宝婁センパイが寝息を立てていることだろう。
が。今スグ叩き起こして、どうすりゃいいのかを聞きまくったところで、何の解決にもなりゃしない……。
はん。確かにくだらねぇ、ホント笑わせる。
何が特待生候補だか? オレがそんな柄かよ。一瞬、物凄く忌まわしい顔触れまでが思い浮かんじまったじゃねぇかっ──。
オレは今、あいつらとも同じ高みにいるってか?
それもフザケた話だけれど、あいつらとヴィーまでが、同じ立脚点をもつこと自体がとんでもなくイカれていやがるぜ!
……それでもオレは、仄青い学部通知と封筒を、クシャクシャに丸めて投げ捨てることなどできやしなかった。
長い在栖川での学生生活で、この紙切れがどれだけ大変な意味をもつかが、骨の髄まで滲透してしまっている。
それに、今はまだ自分でもよくわからないけれど、もっと、
▼
バイソンデリと家との区間をここ毎朝、塗料やら調色皿やらをつめて運んでいたのが、スノボ用のキャスターバッグだったというアイロニー。
虚しいけれど、センパイのだから、明日からも引き摺り続けなければならない。
──賑やかさを見せ始めた六本木の街並みを、廃残者の足どりでもって通りぬけ、目指すはムッシューがいる兵站基地仕様のテント。
しかしながら、無意味に嘆息ばかりが出てしまう……。
完全に見縊 っていた、ヴィーのアンチクショウのことをっ。
貧しくとも、清く正しく生きることこそが佳 しいんだと、
大金を積まないと買えないモノに、結局ロクなモノはないんだと、
心の片隅で青っぽく信じていた。信じてたんだオレは。
今日の今日まで、スカしたりヒネたりしながらも、大磐石 に。
……いや、そんなことは戯れ言だったとわかっちまった今でも、潔く現実を受け容れて、心意気だけは鷹揚にかまえられたら充分佳しいんだろうけれど、生憎オレは俎上のウナギ、水戸納豆の糸、あるいは行為禁止令が出されたストーカーのごとき諦めの悪さで、ねつこい性質だったみたい。
ド~しても、あのヴィーが、文科学部の特待生であった事実を認めたくない。
認められないっ。
認めちゃいけない!
ほかの特待生たちも、大学入試を突破するまでは、やはり家庭教師をつけたり、高額のかかる進学塾通いをしていたことだろう。
これから先だって、学部生の多くが国家資格や免許を取得するために、専門予備校へも通学するに違いない。
「温泉とかスノボとか騒いでる場合じゃない、こいつはブルーレターってヤツだっ」
「ブルゥ……? やっぱり鬱陶しそうじゃないのよぉ」
「この
「て……だからぁ?」
「信じられっか? そうなりゃ二年目の前期は特待生だぞっ。授業料免除の上に、奨励金のこづかい付き御身分だぜ!」
「やっぱり~、もう長い休みぐらいゆっくり休ませて欲しいわっ。学生なのに全然遊べないなんてぇ、一体ど~ゆー大学なのよぉっ!」
「何だそりゃ? もっと驚くだろフツウ。それじゃまるで、今までも特待生だったみたいな口ぶりじゃないかよっ」
「そうだもん。って言うか最初っからぁ。だからウチじゃ大喜びで、バッカみたいに寄付金奮発しちゃってんの。まぁ親のために勉強してるから、しょうがないんだけど。じゃないと、自由に東京暮らしなんて許してもらえないしぃ」
!!! 脳の血管が確実に何本かブチギレた、世の中やっぱり間違ってる、いや狂ってやがる……絶対にっ。
毛絲さんたちまでが、里衣さんの部屋を使うためにやって来たので、オレは自分の部屋へと左向け左。
まだヴィーは、オレに何かをほざいていたけれど、階段を踏みはずさないことだけで精一杯だ。
階段を昇りきった右手の部屋では、やはり数年前に特待生で、現在も特別な待遇にあると言える宝婁センパイが寝息を立てていることだろう。
が。今スグ叩き起こして、どうすりゃいいのかを聞きまくったところで、何の解決にもなりゃしない……。
はん。確かにくだらねぇ、ホント笑わせる。
何が特待生候補だか? オレがそんな柄かよ。一瞬、物凄く忌まわしい顔触れまでが思い浮かんじまったじゃねぇかっ──。
オレは今、あいつらとも同じ高みにいるってか?
それもフザケた話だけれど、あいつらとヴィーまでが、同じ立脚点をもつこと自体がとんでもなくイカれていやがるぜ!
……それでもオレは、仄青い学部通知と封筒を、クシャクシャに丸めて投げ捨てることなどできやしなかった。
長い在栖川での学生生活で、この紙切れがどれだけ大変な意味をもつかが、骨の髄まで滲透してしまっている。
それに、今はまだ自分でもよくわからないけれど、もっと、
孤低
を恐れぬ落ちこぼれのオレらしく、大それたことが脳裏で勝手に逆巻いていた。▼
バイソンデリと家との区間をここ毎朝、塗料やら調色皿やらをつめて運んでいたのが、スノボ用のキャスターバッグだったというアイロニー。
虚しいけれど、センパイのだから、明日からも引き摺り続けなければならない。
──賑やかさを見せ始めた六本木の街並みを、廃残者の足どりでもって通りぬけ、目指すはムッシューがいる兵站基地仕様のテント。
しかしながら、無意味に嘆息ばかりが出てしまう……。
完全に
貧しくとも、清く正しく生きることこそが
大金を積まないと買えないモノに、結局ロクなモノはないんだと、
心の片隅で青っぽく信じていた。信じてたんだオレは。
今日の今日まで、スカしたりヒネたりしながらも、
……いや、そんなことは戯れ言だったとわかっちまった今でも、潔く現実を受け容れて、心意気だけは鷹揚にかまえられたら充分佳しいんだろうけれど、生憎オレは俎上のウナギ、水戸納豆の糸、あるいは行為禁止令が出されたストーカーのごとき諦めの悪さで、ねつこい性質だったみたい。
ド~しても、あのヴィーが、文科学部の特待生であった事実を認めたくない。
認められないっ。
認めちゃいけない!
ほかの特待生たちも、大学入試を突破するまでは、やはり家庭教師をつけたり、高額のかかる進学塾通いをしていたことだろう。
これから先だって、学部生の多くが国家資格や免許を取得するために、専門予備校へも通学するに違いない。