014 _______ ‐2nd part‐
文字数 1,745文字
オレとしてもスグに放したいのは山山、しかし下ろすことはできても、回した二本の腕をうまくセンパイからはずすことができない。
どうも、ヘタに力を入れすぎてしまったみたいだ……。
だがセンパイは自ら器用に身をよじって、するりとオレから脱出してくれる。
そして、毛絲さんのワゴンの前で呼吸を整えている里衣さんへとひらり、オレのビーチタオルを敷いただけの販売スペースを跳び越えて行った。
それをまのあたりにしながら、オレはさらに強張り続ける、手足や顔面の筋肉だけでなく思考までも……。
「里衣、おまえの方は大丈夫かよ? とにかく深く息を吸え」
「……大丈夫っ。おめざを届けに行ったら返事がなくって。庭のお手入れかもしれないから、縁側へ廻ってみたらカーテンが引かれてなくて。確かめたら引き戸も開いたんで、戸締りしていないならまだ寝てるのかなって思って起こしに上がったの。寝すぎると調子が悪くなるからって、前に起こすよう頼まれてたから私……」
「いいから落ち着けよ。もう焦る必要はないんだろ?」
「…………」
ますます顔色を悪くする里衣さんだった。
「毛絲、里衣を俺のイスで休ませてやってくれ。あとは俺がやる、僊婆 はどうせウチの誰かが視ることになるんだろうからな」
「……それがねっ、ちょうどお客さんが訪ねて来て、話したらなんか私のこととか色色お婆ちゃんの事情を知ってる人みたいで、スグに様子を見に上がってくれて。それで、よくわからないんだけど救急車じゃなく、警察へ通報したみたいなの」
里衣さんは腰砕けになりそうなところを、毛絲さんに支えられながらも訴えた。
その悲痛さだけは、オレもはっきり受け取れる。
「……ケーサツ? おいまさか」
「だからわかんないわよっ。けどお婆ちゃん、階段の途中で倒れてて、不自然な体勢だったって言えば不自然だったし、私にも、お婆ちゃんの体に触ったかとか聞いてくるし……」
「わかったから、変に気をまわして心配するな。ここへ来られたってことは、おまえは疑われてなんかいないってこったからな。とにかくチョット行ってくる。楯、一緒に来てくれ」
オッ、オレもぉ?
ここで御辞退申しあげるほど人情に薄くはないんだけれど……どうにも、体が従ってくれやしない。
だのに、センパイは里衣さんを自分のディレクターズチェアーに座らせると、そんなオレには目もくれず一人ですたすた行ってしまう──。
「どーしたぁ楯クン? 僊婆が死んだーって聞いて、おへのこが縮みあがっちゃったとかー? もしかしてー」
「ぅわ!」──葉植さんに股間を握り締められたっ。
それまでが嘘みたいに後ろへと跳び退いている自分に、また動転してくる。
葉植さんも、いつの間にそんな傍まで来ていたんだ? それもこんな時にゲスいことまで。ホントわけわからんコなんだからまったく……。
「呪縛が解けたーら、さっさと行っといでよー夏みかん君。とり敢えず僊婆をよろしくねー。お店番は任しときー」
「う、うん。行っては来ますけれど……その、夏みかんって?」
「ワトソン・ポメロって意味だねー。珂児也クンはシャーロキアン気質の医学生崩れだから、きっと何か怪しいことに気づいたって一人で処理しちゃうでしょー。楯クンには、みんなに話して聞かせる語りべをしてもらわなくっちゃー。現場をしっかり見ておいでねー」
現場って……。そんな、あっけらかんとよく言える。
「それからー。ボクの推理によりますると、珂児也クンはまた心置きなくケンカしてもいーよーに、楯クンを呼んだんだろーから、それに気を取られて、肝心なトコを見過ごしちゃーダメだからねー」
「…………」
あんぐりとしていたら、今度はケツをたたかれた。
ヤケに小気味好い音と適度な痛みがオレに一歩を踏み出させる。
……ホントこの葉植さん、ポンチなのやら賢いのやら? 紙一重とは実際こういうコのことを言うんじゃないの?
すっかり忘却の彼方に置き去られていたヴィーとも目が合う。
まだ喰ってかかりそうな思いきり不機嫌な表情のままだったものの、さすがに状況は弁えられているらしく、苛立たしそうに腕を組むとプィとソッポを向いた。
それならば甘えることにして、したくもなかった頓着もせずオレはセンパイのあとを追わせてもらおう。
どうも、ヘタに力を入れすぎてしまったみたいだ……。
だがセンパイは自ら器用に身をよじって、するりとオレから脱出してくれる。
そして、毛絲さんのワゴンの前で呼吸を整えている里衣さんへとひらり、オレのビーチタオルを敷いただけの販売スペースを跳び越えて行った。
それをまのあたりにしながら、オレはさらに強張り続ける、手足や顔面の筋肉だけでなく思考までも……。
「里衣、おまえの方は大丈夫かよ? とにかく深く息を吸え」
「……大丈夫っ。おめざを届けに行ったら返事がなくって。庭のお手入れかもしれないから、縁側へ廻ってみたらカーテンが引かれてなくて。確かめたら引き戸も開いたんで、戸締りしていないならまだ寝てるのかなって思って起こしに上がったの。寝すぎると調子が悪くなるからって、前に起こすよう頼まれてたから私……」
「いいから落ち着けよ。もう焦る必要はないんだろ?」
「…………」
ますます顔色を悪くする里衣さんだった。
「毛絲、里衣を俺のイスで休ませてやってくれ。あとは俺がやる、
「……それがねっ、ちょうどお客さんが訪ねて来て、話したらなんか私のこととか色色お婆ちゃんの事情を知ってる人みたいで、スグに様子を見に上がってくれて。それで、よくわからないんだけど救急車じゃなく、警察へ通報したみたいなの」
里衣さんは腰砕けになりそうなところを、毛絲さんに支えられながらも訴えた。
その悲痛さだけは、オレもはっきり受け取れる。
「……ケーサツ? おいまさか」
「だからわかんないわよっ。けどお婆ちゃん、階段の途中で倒れてて、不自然な体勢だったって言えば不自然だったし、私にも、お婆ちゃんの体に触ったかとか聞いてくるし……」
「わかったから、変に気をまわして心配するな。ここへ来られたってことは、おまえは疑われてなんかいないってこったからな。とにかくチョット行ってくる。楯、一緒に来てくれ」
オッ、オレもぉ?
ここで御辞退申しあげるほど人情に薄くはないんだけれど……どうにも、体が従ってくれやしない。
だのに、センパイは里衣さんを自分のディレクターズチェアーに座らせると、そんなオレには目もくれず一人ですたすた行ってしまう──。
「どーしたぁ楯クン? 僊婆が死んだーって聞いて、おへのこが縮みあがっちゃったとかー? もしかしてー」
「ぅわ!」──葉植さんに股間を握り締められたっ。
それまでが嘘みたいに後ろへと跳び退いている自分に、また動転してくる。
葉植さんも、いつの間にそんな傍まで来ていたんだ? それもこんな時にゲスいことまで。ホントわけわからんコなんだからまったく……。
「呪縛が解けたーら、さっさと行っといでよー夏みかん君。とり敢えず僊婆をよろしくねー。お店番は任しときー」
「う、うん。行っては来ますけれど……その、夏みかんって?」
「ワトソン・ポメロって意味だねー。珂児也クンはシャーロキアン気質の医学生崩れだから、きっと何か怪しいことに気づいたって一人で処理しちゃうでしょー。楯クンには、みんなに話して聞かせる語りべをしてもらわなくっちゃー。現場をしっかり見ておいでねー」
現場って……。そんな、あっけらかんとよく言える。
「それからー。ボクの推理によりますると、珂児也クンはまた心置きなくケンカしてもいーよーに、楯クンを呼んだんだろーから、それに気を取られて、肝心なトコを見過ごしちゃーダメだからねー」
「…………」
あんぐりとしていたら、今度はケツをたたかれた。
ヤケに小気味好い音と適度な痛みがオレに一歩を踏み出させる。
……ホントこの葉植さん、ポンチなのやら賢いのやら? 紙一重とは実際こういうコのことを言うんじゃないの?
すっかり忘却の彼方に置き去られていたヴィーとも目が合う。
まだ喰ってかかりそうな思いきり不機嫌な表情のままだったものの、さすがに状況は弁えられているらしく、苛立たしそうに腕を組むとプィとソッポを向いた。
それならば甘えることにして、したくもなかった頓着もせずオレはセンパイのあとを追わせてもらおう。