062 _____________ ‐2nd part‐
文字数 1,722文字
そうこうしている内に、ヴィーの家庭教師と称する三十路手前の女性二人と男一人の、熱血
・ド・トリオまでが現れて、後期テストに向けての必勝セミナーをおっ始めやがったから、開いた口が塞がらないどころか、完全に顎関節症状態だ。
その三人の正体は、将来政治家を志望してヴィーの叔父のPS、つまり私設秘書になったIターン準政策エリートと言ったところだけれど、内二人は、在栖川の法学科から大学院政治経済コースを修士卒業した先輩でもあった。
とにかく三人いずれとも、きっちり七三の髪の分け目がキッツいこと。
オレは、その必勝セミナーへの参加を丁重に御辞退申しあげはしたものの、
「ヴィーさんの申し出を無下にするなんてことは、ここが君の家だろうが断じて許しません。人数が多ければ多いほど、教え甲斐があるから遠慮しなさんな、絶対に損はさせないから」
と、親切っぽくも胡散クサさプンプンの言葉とは対蹠 な、ド熱苦しい気迫で押しきられ、ヴィーと一緒に居心地悪くセミナーを受けるハメになってしまった。
……きっと彼女らにとってはそれも、将来政事にたずさわるための下積みの一環。
どんな要望にも応えて行く姿勢の体得もかねていそうな、ド真剣モードときていたから、オレなんかには抗いきれやしない。
結局、連日ヴィーと夜遅くまでみっちりシゴかれちまったから、どうにか一つの単位も落とさずに、二年目の春を迎えられそう。
ありがたいやら情けないやら、とにかく「ウチから出て行け!」なんてセリフは、そう簡単にはヴィーに吐けない情況へと追い込まれてしまっていた。
けれど春休みに突入してしまえば、もはや、そんなのオレにはどうでもいい。
宝婁センパイがやり始めた壁画の道具運び作業に、里衣さんの帰りが遅くなる時には買い出しの代行、有勅水さんとのビジネスを続けるための新しいデザインも督促を受けている。
なんだか、とにかく、刹那 的すぎる多岐多端 さ……。
どうガンバってみても、学生らしい享楽的な日日は過せそうにないときているので、いつまでも多情多感な一七歳を気取っているわけにもいかない。
来月早早には、いよいよ一八にもなることだし、やっとこさ追いついた同年代から、これ以上遅れないためにも、運転免許の教習代までもを稼がにゃならん。
そんなこんなで、今朝も徹夜作業明けで帰ったセンパイと、入れ代わりのように起床。
これからムッシューの様子見と、センパイが壁画を描いている店へ出向いて、開店時間までに片づけのバイトだ……。
一階のLDには、既に化粧をベッタリと終え、髪の毛をコロネみたいに括り上げたヴィーが珍しく独り、にもかかわらずエアコン全開でぬくぬくと、テーブルで広告ばかりのファッション誌を広げながら、毛絲さん特製ブレンドのパッチリしゃっきりティーを啜っていた。
既にレジデンスへ帰って、今日も一日ウチに居座る用意を整えて来たってことだ。
さらにそのヴィーの前には、オレのために用意されていたはずの、愛しい朝食を喰い散らかした痕跡までが見て取れる。
もう一気に血圧上昇! 憤怒でおめめクラクラおつむグルグルン。鬼ムカつく一日の始まりだっ。
「サヴァサヴァ~楯、今お茶淹れてあげるからねぇ」
その場でオレは回れ右。まずは暖気から隔絶された洗面所へ行って、下の方も頭もスッキリさせないと。
だのに、ヴィーはくっついて来て、トイレのドア越しからまでも訴えかけてきやがる。
これでは、いくら小用を足し、凍てつくほどの水道水で顔を洗っても、全く爽快感は得られやしない。
「──だからスノボなんか行かないってのっ、バイトだ毎日。ただでさえ寒いのに、ワザワザ雪山へカネ出してまで誰が行くかよっ」
「おカネなんか要らないもん、伯母さんのホテルに泊るんだから。勿論リフト代もボードやブーツのレンタルも無料、祢室 クンたちがクルマ出してくれるって言うから、交通費も無料だしぃ。ウェアはロンちゃんがバッチリ調達して来てくれるよぉ、当然無料で~」
ロンちゃん? あのウチに寝に来るスタイリストか、ヴィーが年末辺りから居馴らした。
……それにしても、カネがあると逆にカネを使わなくていいってのは、一体どういう不条理なんだぁ?
・ド・トリオまでが現れて、後期テストに向けての必勝セミナーをおっ始めやがったから、開いた口が塞がらないどころか、完全に顎関節症状態だ。
その三人の正体は、将来政治家を志望してヴィーの叔父のPS、つまり私設秘書になったIターン準政策エリートと言ったところだけれど、内二人は、在栖川の法学科から大学院政治経済コースを修士卒業した先輩でもあった。
とにかく三人いずれとも、きっちり七三の髪の分け目がキッツいこと。
オレは、その必勝セミナーへの参加を丁重に御辞退申しあげはしたものの、
「ヴィーさんの申し出を無下にするなんてことは、ここが君の家だろうが断じて許しません。人数が多ければ多いほど、教え甲斐があるから遠慮しなさんな、絶対に損はさせないから」
と、親切っぽくも胡散クサさプンプンの言葉とは
……きっと彼女らにとってはそれも、将来政事にたずさわるための下積みの一環。
どんな要望にも応えて行く姿勢の体得もかねていそうな、ド真剣モードときていたから、オレなんかには抗いきれやしない。
結局、連日ヴィーと夜遅くまでみっちりシゴかれちまったから、どうにか一つの単位も落とさずに、二年目の春を迎えられそう。
ありがたいやら情けないやら、とにかく「ウチから出て行け!」なんてセリフは、そう簡単にはヴィーに吐けない情況へと追い込まれてしまっていた。
けれど春休みに突入してしまえば、もはや、そんなのオレにはどうでもいい。
宝婁センパイがやり始めた壁画の道具運び作業に、里衣さんの帰りが遅くなる時には買い出しの代行、有勅水さんとのビジネスを続けるための新しいデザインも督促を受けている。
なんだか、とにかく、
どうガンバってみても、学生らしい享楽的な日日は過せそうにないときているので、いつまでも多情多感な一七歳を気取っているわけにもいかない。
来月早早には、いよいよ一八にもなることだし、やっとこさ追いついた同年代から、これ以上遅れないためにも、運転免許の教習代までもを稼がにゃならん。
そんなこんなで、今朝も徹夜作業明けで帰ったセンパイと、入れ代わりのように起床。
これからムッシューの様子見と、センパイが壁画を描いている店へ出向いて、開店時間までに片づけのバイトだ……。
一階のLDには、既に化粧をベッタリと終え、髪の毛をコロネみたいに括り上げたヴィーが珍しく独り、にもかかわらずエアコン全開でぬくぬくと、テーブルで広告ばかりのファッション誌を広げながら、毛絲さん特製ブレンドのパッチリしゃっきりティーを啜っていた。
既にレジデンスへ帰って、今日も一日ウチに居座る用意を整えて来たってことだ。
さらにそのヴィーの前には、オレのために用意されていたはずの、愛しい朝食を喰い散らかした痕跡までが見て取れる。
もう一気に血圧上昇! 憤怒でおめめクラクラおつむグルグルン。鬼ムカつく一日の始まりだっ。
「サヴァサヴァ~楯、今お茶淹れてあげるからねぇ」
その場でオレは回れ右。まずは暖気から隔絶された洗面所へ行って、下の方も頭もスッキリさせないと。
だのに、ヴィーはくっついて来て、トイレのドア越しからまでも訴えかけてきやがる。
これでは、いくら小用を足し、凍てつくほどの水道水で顔を洗っても、全く爽快感は得られやしない。
「──だからスノボなんか行かないってのっ、バイトだ毎日。ただでさえ寒いのに、ワザワザ雪山へカネ出してまで誰が行くかよっ」
「おカネなんか要らないもん、伯母さんのホテルに泊るんだから。勿論リフト代もボードやブーツのレンタルも無料、
ロンちゃん? あのウチに寝に来るスタイリストか、ヴィーが年末辺りから居馴らした。
……それにしても、カネがあると逆にカネを使わなくていいってのは、一体どういう不条理なんだぁ?