020 _________________ ‐2nd part‐

文字数 1,490文字

「何を言いだすんですセンパイッ。有勅水さんも真に受けちゃダメですからね。そんなヒネくれないで、センパイもいつものように売り込んだらいいじゃないですか。それこそ今がチャンスでしょう?」

 センパイはニッと意味ありげに(しろ)い歯を見せただけで立ち上がり、くるりと軽やかに回れ右した。
 その方向、台所への手前には電話が置かれているので家族へかけに行くんだろうけれど、何もこんなタイミングでしなくたっていいじゃないかぁ。
 オレの弁解が、なんか的ハズレなまんまで一段落ついちまう。

「センパイってスマホもたない主義なんですよ。電磁波の網に縛られたくないとか、カッコつけちゃって」

「そお? ストイックなのかしらね、色色と」

 有勅水さんの返答、なんだかセンパイに好意的じゃないか?
 バツの悪さをセンパイをダシに解消しようとしたのに、もう一ポイント奪われた気になる。

 こうなったら、センパイが口を出せない内にドギツい醜態話で一発逆転KOしちまおうと思ったのに、有勅水さんまでもがスマホをかけ始めてしまう始末ときた。

 ……確かに。オレは、初等課程の始めから在栖川へ通っている正真正銘の附属あがりには違いないけれど、それはセンパイだって全く同じことじゃないかよ。

 四学部‐一三学科‐四九コースの総学生数四千人足らずという、少数精鋭を謳い文句にした学生構成では、オレたちのような真正附属あがりは、さらにその二パーセントにも満たない。
 中高課程からそのまま大学へと進むのは、センパイみたいな推薦を受けた学費免除の特待生か、オレみたく早ばやと海外の大学への進学をあきらめるしかない者のいずれかだけ。
 そうだからこそのセンパイ呼ばわりなんだ。

 初等課程の一学年は五〇名足らずでスタートし、途中で編入者が一〇名ほど加わって、約六〇名による小中高一貫教育。
 中高課程卒業後の進路を決めるまでには、学年どころか全課程を通して知らない者などいなくなる。
 学校行事や特別授業で下の課程が上の課程の協力を得る場合もあるので、オレには記憶がなくても、センパイには、ガキンチョだったオレの面倒を見た思い出があるなんて奇縁も起こり得てしまう。
 そんな教育環境を純粋培養と言うのなら、事実上、他大学への進学を学校側に拒まれるくらい養護されていたセンパイは、無菌保護の超純粋培養じゃんかよっ。

 それに、オレの脆弱さは、おそらく免疫力不足からじゃない。きっと生得的なモノで、一生涯弱く脆いままなんだ。
 色色な社会経験をしても鍛えられていかず、ただ過敏な部分が摩滅し麻痺していく、実のところそう思えてきてならない。

 一年目からインレグを使って足掻いてみようと決心したまではよかったものの……。
 なんか、何かもっと自分にしっかりとした自信をつけてから、それで商売なり何なりを始めないと、いつまでも武器がなくって、受身のまま逃げ場を探すだけで疲弊しきってしまうだけじゃなかろうか。

 若いから許されている特権をどんどんムダに費やして、何のために生きるのかがわからない内に、何で生きているのかわからなくなってくる。
 生きているだけで精一杯になっちまう……それはそれで楽になるということなんだろうけれど、そりゃ早いトコ楽にはなりたいけれど、オレがオレであるための肝心なモノまでが、間違いなく(むし)りとられていくカンジがしてならないんだよなぁ。

 それでは全然、オレが存在している意味がない。
 まぁ端からオレという存在に意味などないことは承知しているんだけれど、そう諦観して、この先を生きて行くのもあまりに虚しい、まだ早いんじゃないかとも思えてならないし……。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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