030 ____________ ‐3rd part‐
文字数 1,320文字
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インレグを一箇月も経たない内に中断し、復学することに決めたため、オレは再び容赦なく規則正しい朝に追われる毎日へとパラダイムシフト!
と、軟弱さをごまかすためにも言っておきたい単なる軌道修正へ。
自ら外に赴かなくても社会の荒波の方から家にやってきてくれる、言うまでもなくヴィーとそのダチどもだ。
だから途端にインレグを消費するのが勿体なくなって、躊躇も引け目もおかまいなしに大学へと舞い戻り、何喰わぬ顔で後期の講義を受け始めた。
そもそも小教室を使う必修科目以外の講義は、氏名順でふり分けられたセクションでもバラバラだし、最初から影の薄いオレを、気に留める唯一の存在であるヴィーの影がやたら濃いときてるから、わざわざオレに面と向かってこれまでの無断欠席を詰るような物好きもいやしない。
そして毎朝、とにかく半睡半覚だろうとピカピカに拭かれたダイニングテーブルへ着いてしまえば、里衣さんが眠気も吹っ飛ぶ美味さの朝食で活を入れてくれるので、一限目から脳ミソも鈍いながらフル回転。
後期の単位も、ガンバってテストに備えれば、またどうにか落とさずに済みそうだ。
それと、どうでもいい事だけれど、今度はヴィーの方が宣材写真の撮影やら早速のオーディションやらで、代返が必要な状況になっていた。
出版社から紹介されたプロダクションに所属したそうで、まだ仕事らしい仕事一つもしちゃいないってのに、調子ブッコキまくりぃの、勘違いも甚だしすぎぃので、益益手がつけられなくなってくる。
これでヴィーには大敵となるセンパイがいなかったら、恵比寿のマンションを完全に引き払って、何から何までデカくて邪魔なヴィーだけでなく、クソ山のごとき衣裳が我が家を埋め尽くしたことだろう──。
そんなこんなで今朝も大学へ向かっていると、恰も鎮守の森のようだった僊婆んチの裏庭、今はもう、丈長な鉄材を互い違いに組み合わせた塀で、すっかり囲われてしまった建設現場が見えてくる。
色付きだした葉樹も、わずかに頭を出している部分だけしか窺えない。
その鉄の塀に沿ってY字路を曲がると、広場への入口だった所には、意想外にもムッシューの姿があった。
足を速めながらも熟視をすれば、髪は後ろで一つに束ねられ、汚れのないどうやら新品の紺ツナギを着ていた。そしてらしくもなく、腰に手を当てて胸を張り、顎までクッと上げて建設現場の方を眺めている……。
「ボンジュール、ムッシュー。どうしたんですこんなトコで?」
「やあ、おはようギャルソン。どうしたって? この僕の格好を見てわからないかい」
体ごとこちらを向いたムッシューは、まるで晴れ着を自慢するみたいに、両腕を目一杯広げて見せた。
どこで手に入れたのか、そのツナギの胸ポケットの上には
「これから本格的に仕事へとりかかるのさ水埜クン、やっと僕のアトリエができたんでね」
そうムッシューが戻した鼻先の指す方向には、やはり高い塀で両側を塞がれたこちら側の資材搬入路があった。
突き当たりにはさらに明るい銀色をしたシャッターが閉じている。
おそらくは、その内側に、アトリエが設置されたと言うことなんだろう。
インレグを一箇月も経たない内に中断し、復学することに決めたため、オレは再び容赦なく規則正しい朝に追われる毎日へとパラダイムシフト!
と、軟弱さをごまかすためにも言っておきたい単なる軌道修正へ。
自ら外に赴かなくても社会の荒波の方から家にやってきてくれる、言うまでもなくヴィーとそのダチどもだ。
だから途端にインレグを消費するのが勿体なくなって、躊躇も引け目もおかまいなしに大学へと舞い戻り、何喰わぬ顔で後期の講義を受け始めた。
そもそも小教室を使う必修科目以外の講義は、氏名順でふり分けられたセクションでもバラバラだし、最初から影の薄いオレを、気に留める唯一の存在であるヴィーの影がやたら濃いときてるから、わざわざオレに面と向かってこれまでの無断欠席を詰るような物好きもいやしない。
そして毎朝、とにかく半睡半覚だろうとピカピカに拭かれたダイニングテーブルへ着いてしまえば、里衣さんが眠気も吹っ飛ぶ美味さの朝食で活を入れてくれるので、一限目から脳ミソも鈍いながらフル回転。
後期の単位も、ガンバってテストに備えれば、またどうにか落とさずに済みそうだ。
それと、どうでもいい事だけれど、今度はヴィーの方が宣材写真の撮影やら早速のオーディションやらで、代返が必要な状況になっていた。
出版社から紹介されたプロダクションに所属したそうで、まだ仕事らしい仕事一つもしちゃいないってのに、調子ブッコキまくりぃの、勘違いも甚だしすぎぃので、益益手がつけられなくなってくる。
これでヴィーには大敵となるセンパイがいなかったら、恵比寿のマンションを完全に引き払って、何から何までデカくて邪魔なヴィーだけでなく、クソ山のごとき衣裳が我が家を埋め尽くしたことだろう──。
そんなこんなで今朝も大学へ向かっていると、恰も鎮守の森のようだった僊婆んチの裏庭、今はもう、丈長な鉄材を互い違いに組み合わせた塀で、すっかり囲われてしまった建設現場が見えてくる。
色付きだした葉樹も、わずかに頭を出している部分だけしか窺えない。
その鉄の塀に沿ってY字路を曲がると、広場への入口だった所には、意想外にもムッシューの姿があった。
足を速めながらも熟視をすれば、髪は後ろで一つに束ねられ、汚れのないどうやら新品の紺ツナギを着ていた。そしてらしくもなく、腰に手を当てて胸を張り、顎までクッと上げて建設現場の方を眺めている……。
「ボンジュール、ムッシュー。どうしたんですこんなトコで?」
「やあ、おはようギャルソン。どうしたって? この僕の格好を見てわからないかい」
体ごとこちらを向いたムッシューは、まるで晴れ着を自慢するみたいに、両腕を目一杯広げて見せた。
どこで手に入れたのか、そのツナギの胸ポケットの上には
望洋建設
と黄色の糸で刺繍が入っている。「これから本格的に仕事へとりかかるのさ水埜クン、やっと僕のアトリエができたんでね」
そうムッシューが戻した鼻先の指す方向には、やはり高い塀で両側を塞がれたこちら側の資材搬入路があった。
突き当たりにはさらに明るい銀色をしたシャッターが閉じている。
おそらくは、その内側に、アトリエが設置されたと言うことなんだろう。