233 答え合わせは短兵急がマストかと ‐1st part‐

文字数 1,164文字

 午前零時を少し回った建設現場には、予感的中の徴候が見て取れた。
 
 オレの家財道具を置いたままになっているプレハブ小屋の窓からは、淡淡(あわあわ)とながらも間違いなく中からの光が確認できる。

 現在、あそこの鍵は有勅水さんが保管しているはず。ウチから帰る前に、トリノさんへ貸し渡したのなら、いくら有勅水さんでもリスク管理能力がなさすぎじゃないの? 

 ……今朝は気づかなかったけれど、プレハブが建つ傾斜地の中腹は既に、セイレーンたちを引き立たせるためのミッドエアーテラスとして完成しているみたいだった。

 そこへの階段口も、以前より数メートル移動され、丁度Y字路の分岐点に当たる位置から左曲がりの弓なりで延びている。
 これなら、より公園の東門へ近づくし、クルマがやって来るのも見通せて、道草コースの一区間としても申し分ないんじゃないかな。

 それに、緑内が殺されていた辺りもビルの変電設備が置かれてしまって、メーターやランプ類がガラス越しに放つ光で、周辺を清冽(せいれつ)と照らしている。
 きっと工事が完了したら、もうここを不吉だなんて口にする者などいなくなるばかりか、人通りは、前よりも増えそうな見場(みば)さえした。

 ──二重に並べ置かれた立入禁止のトラ板付きバリケードを二跨ぎして、コンクリートの色が暗さに映える階段へと侵入する。

 上がりしなは、踏面の幅がより広くとられているので、急ごうとすると、足を出すタイミングと段差の位置が噛み合ってくれず、どうにも生半だ。
 まぁ、目さえ慣れれば、不自由しない程度には安全灯も点っていることだし、ここは焦ったりせずに、工事の進み具合でもチェックしながら行くとしますか。

 ……二階建てと言っても、それ以上の高さがありそうな、縦よりも横幅の方が長いビルの方も、外観的には完成していると言ってよさそう。
 周りに組まれた足場と、それを蔽うように張られているネットシートの目隠しも、全てが済んだあとの除幕のために残されているカンジまでしてくるので、現在は主に内装工事がされているってことなんだろう。

 これもルネッサンス様式を模しているのか、大学の一、二号館がブロア城に代表されるフランス調とすれば、こちらはやはり、フィレンツェとかヴァチカンが色濃く出ている印象……無論あくまで、教科書なんかの写真で、オレが見知っているだけの印象でしかないんだけれど。

 お気に入りのセイレーン像が迎えてくれるテラスまで来ると。そこは、各辺の長さが微妙に違う白然とした四角形をしていて、残る三体の像も、また何の規則性も窺えないことから、妙な違和感を覚える配置となっていた。

 その上、まぁ確かに中空テラスだからなんだろうけれど、まだ完全に出来あがってはいないのか、これで設計どおりなのか? 傾斜地から張り出した側の縁には、手摺りになるような物が全くない。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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