０４３　贄たちは自らロックオンされていく　‐１ｓｔ　ｐａｒｔ‐

　北関東というのが引っかかりはするけれど、とは言っても一番多くて栃木の五人、茨城と群馬で各三人ずつ。
　茨城でも、北部の県境である利根町などと同等あつかいにして、福島県南の郡山市やら、長野の上田市などまでも引っくるめて、北関東と呼んじまうにはムリがありすぎ。

　そもそもその辺りに集中しているのは、単にそうした話題がやり取りされるスレで幅を利かせている常連たち、ＤＧ（ディスカッション‐グループ）連中の生活圏と一致しているだけのようだし、全国的に見れば完璧に言わずもがなだ。

　ただ、不謹慎にもおもしろそうなのは、その二二名の死者の内、七〇パーセントを超える一六人が共通項でくくり出せた点だろう。

　それが、田宮謡(たみや・うたい)という演歌歌手の後援会員だったこと。

　残りの老人たちも、演歌好きではあったらしく、やはり田宮謡の曲を何らかの形でよく聴いていた。
　紅白歌合戦にもここ数年連続出場している人気歌手らしいけれど、オレは、大晦日は格闘技派なので皆目わからない。
　でも日本人離れした顔立ちにポップで奇抜な着物姿と、最近では子供向け番組のレギュラーコーナーでも唄っているため、幅広い層から支持されているとのこと。

　……でも。ならば、ますますもって独居老人の自宅内事故死と、その田宮謡を結びつけるのにはムリがあるんじゃないだろうか？

「あぁ『くいつけＰマン！』なら知ってる知ってる。あの人アラフォーだったのかよぉ、もっと若いと思ってた。ウサギみたいなフワフワの着物で、キビキビ踊るんだよこれがまた」

「おまえはロリだけでなく、熟女趣味までありやがったのか……」

「好みなら年齢は関係ないってこった。番組のコーナーに、テラちゃんとルナちゃんが紹介してくれる

本日の銀河系

ってのがあってさ、それが侮れないんだって」

「まったく、何がだよ？　知らんけど」

「ＮＡＳＡやＪＰＬからの中継だの、すばるやハッブルの最新映像なんかも使われててさ。水埜も、成績がクソ悪いクセしてＴＶすらロクに見ないとは、相当なＢＯＺＯ（愚漢）だな」

　クッソ。この、クズ星人間めぇ……。

「で、話を戻すと、ＤＧの古馴なじみの一人が、実はかなり歳サバ読みの御年配だったようでね。リアルでは、田宮謡の後援会で北関東支部長をやっていたんだ。イヴェントにつけ、公式サイトに申し込みをした人たちをチェックしていたもんだから、書き込まれていた事故で亡くなった方方(かたがた)の苗字が記憶とヒットしたんだな」

　根上にしては得意げに話すけれど、オレも「フ～ン……」と、緑内同様の相槌しか入れられないよなぁ。

「あらためて名簿の原本と照合したら、ほかにもマッチしてさ。それをきっかけに、似たような話が出るわ出るわ。今どきまだとか言うけどさ、それを書き込んだ御老翁(ごろうおう)だって、ついうっかり自分の正体をバラしちまうくらい興奮したってことだろう？」

「……おまえの興奮からして、人のこと言えないカンジだったんじゃね？」

「だけど緑内、こんな偶発的で芋蔓式に物事が判明するなんてこと、滅多にないよ。　関わる人数が多ければ多いほど、それが起こる確率もアップする、そのワクワク感を憶えたら簡単にはやめられないね。大前提として、書き込めるハードルが低くなければ始まらないだろうしさ」

　そりゃ掃部と書いてカモンとか、四阿でアズマヤだなんて苗字、フツウ読めない。
　何度も、イヴェントへの申し込みの状況などを一覧画面でチェックしていたからこそ、参加者たちの氏名が記憶に残るし、どこかで見ればすぐ目にも留まるだろう。

　けれど、そこから先はやっぱり、そのヤバげな掲示板ならではの、牽強付会もいいところじゃないか？
　小説から映画といった本格ミステリーやホラー作品のトリックやらギミックを、あれやこれやと論評するようなトコだそうだから……。

　大体、オレなんかから得た情報までをどうするのかと根上へ問えば、

田宮謡の曲を老人に独りきりで聴かせ続けると死ぬ

だなんていう最新の都市伝説、をよりリアルにする邪(よこしま)な目論見で、僊婆のことをオレに尋ねてきているんだから呆れ果てちまう。

　渋クサく小節を利かせていた演歌歌手が、朝の番組で子供相手に愛嬌をふりまくようになったのも、

忌まわしさを払拭させるイメージアップ作戦

とまで詭弁を弄して、虚報を煮詰めているカンジだし。

　まぁ、大勢を巻き込んでワクワクしたいって気持はわからなくもないけれど、それ、顕かな脳内麻薬中毒症状だって根上……。