___ _______ ‐2nd part‐

文字数 1,518文字

「確かに女子相手には損ばっかしてるよ。あ、そうそう話は違うんだけど、この辺の事情に詳しいなら近所に水埜って家があるの知らない? なんか下宿屋みたいになってて、若い連中が如何わしくも毎晩のように出入りしてるらしいんだ。どこだか知らないか?」

「貴様、あの何も彼もが今一つはっきりしない男の友人か?」

「な~んだ、キミも水埜の奴からパーティーに呼ばれてたのかよ?」

「パーティー? なんだ、また誰かの誕生日でも祝うのか。小マメなことだな? まぁ美味い(さかな)で、酒を飲む方便にすぎないのだろうが」

「嘘か真か知らんけどさ、有名デザイナーの僊河青蓮の娘とやらが来てるんだそうだぜ。話のタネに行っとかないか、一緒に?」

 緑内は、精一杯爽やかに笑って見せたが、無論、明るさが全然足りず、彼女に届くはずもない。

「そうか。よくわからんが、ならば一曲唄いに行ってもいい」

「そうこなくっちゃ。今日は、星の巡りが好さそうだなっ」

 彼女の返答から、水埜と彼女の関係が、さほど親しいモノではないと読み取った緑内は、今度は、子供のように無邪気な歓笑を満面に浮かべる。

「……星だと? 今この空の、一体どこに見えると言うのだ?」

 今日は夕方から曇りだしていて、現在は月も出ておらず、当然ながら、月明かりすら射してはいない。

「アハ、なんかオモロいなキミ。俺は緑内昴一郎って言うんだ、気安くスバルと呼んでくれ。水埜のリフラフとは友達でも何でもない、今夜のパーティを主催してるV&Mの有勅水さんと親しいんだ。まぁヨロシク頼むぜ」

「私はユールだ。で? 貴様の話の続きはどうなったのだ?」

「あぁそうだった。ならとり敢えず、その重たそうなトランクとギター置きなよ。軽口を省略しても、チョイ長い説明になりそうだから」

「慣れているから平気だ、かまわず始めてくれ」

「じゃぁ俺が持ってやるよ、貸してみそ?」

「結構だ。要らぬ気などまわさなくていい」

「お節介だとわかっていても、俺は根っからの親切なんだ。気づいちゃうと、気になって仕方がない。大事に扱うから信用しろって」

 緑内はまず、彼女が提げるトランクに当たりをつけて手を伸ばす。

「遠慮する。本当にかまわないでくれ」

 ユールが断る言葉や口調が淡白なせいもあって、緑内は軽く手探りをして、彼女が握るトランクの把手の隙間を見つけ、自分の指を掛け入れる。

 ──が次の瞬間、緑内は目の前でだしぬけに生じた光で、笑顔をまんま(しか)め面にして、その(まぶ)しさを避けることになった。

 そして緑内は、反射的に胸のポケットへ、トランクを掴んでいない方の手を突っ込んで、スマグラを探った。カメラと撮影用アクセサリーの重量があるショルダーバッグが肩からズリ落ち、その邪魔をする。

「オォイ誰だよっ、いきなりライトなんか照射しやがって。眼に直射を喰らっちまった、視細胞の代謝が悪くなったらどうす──」

 最後まで言いきることなく、緑内は、その場でガクリと両膝を突く。

 それからようやく、頭頂部から走った電撃のような痛みが、既にとり返しのつかないダメージを、自分に与えていた事実に戦慄する──。

 頭が重い、それに物凄く熱い部分がある。
 そこへあてがおうと、咄嗟に上げた両手だったが、何故か途中で阻む物があった。

 眼球を目一杯上へと向けて見るけれども、緑内には、それが一体何なのか、もはやまともには知覚できていない、認識できない……。

 意識が途切れいく緑内の体は、彼お得意の物理法則に従って、ただ地面へと崩れ落ちるしかなかった──。

「……大丈夫かユール? こいつに何された?」

「別に……殺すまでもなかったことだ」

「だってこいつ、何か出そうって動きをしただろ? トランクも奪おうとしてたし……」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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