286 ________________ ‐3rd part‐

文字数 1,309文字

 トリノさんが、歩き難そうな横向きの体勢をとってまで、オレへ手を差し出してくるから渡さないわけにもいかない。

「それで、一体何カラットあるの?」
 オレはトリノさんの掌へ返したあとで聞いてみる。

 ピアスを撃ち出したPK能力については、きり出さない方が身のためのような気がするし。

「六・八五カラットだったかな。最初は50口径と同サイズの七・五四カラットだったけど、何度かカットを変えてあるので半端な数値なの。ダイヤは油脂類に馴染み易くて、付着すると表面が曇って輝きが損なわれてしまうので」

「へぇ~、そうなんだ? じゃぁ葉植さんは、目測も凄いんだなぁ」

……油脂類という言葉に引っかかるけれど、それについても言及は避けておく。

「50BMGは一二・七×九九ミリNATО弾のことなので、径のサイズ的には、〇・四一ミリも違う」

「キビし~。……それじゃぁ、ほかのピアスに付いてる宝石も、ほとんどが七カラットくらいあるんだ? 手にしてみて、やっとカラットって単位が実感できたかな」

「そう?」

「……すみませんね、広い世界の片隅も端っこ育ちなもんで──ぁあ! 今オレ、じかに触っちゃった。油脂類って人の皮脂だってそうでしょ?」

「そんな神経質になることないわ。このピアスは、ほかのモノと比べると実用性の方が高いので。私だって、こうして手にしてしまっているわけだし」

「……実用性、ですか?」

 しかも、何度かカットしなおしていると言うことは、つまり……やっぱ、会話がなくなるのがツラくても、黙っているのが賢明みたい。

「ダイヤは最も硬い部類でも、その硬度は表面を引っ掻いた時の傷つき難さなので、靭性はサファイアよりも低くて砕け易い。つまり人を攻撃する場合、筋肉に当っても貫通するだけ。でも頭部を狙えば、確実に硬い頭蓋骨があるので、破砕すればホロゥポイントみたいな威力が得られる」

「ホロゥポイントって……それでなくたって、トリノさんの強さは文句ナシでしょうにっ」
 やっぱ、大口径の銃に込める殺傷能力が高いダムダム弾ってヤツだろ?

「法律では裁けない代わりに、高価で美しすぎる弾丸になるけど、今回も無事で何よりだったわ」

「…………」

 口があんぐりしかけたところで、ミラノがニマニマ顔で話頭を転じてくれる。

「ねぇねぇ楯、トリノがね、密かにポールをNYへ行かせようと企んじゃってるんだよ。でもでも、ホントに行かせちゃったら楯は困っちゃう?」

「えっ、センパイを?」

「誤解を招く言いまわしをしないでミラノ。企図はしているけど、企んではいないので」

 また唐突な……その極端なまでの脈絡のなさが物凄い違和感だけれど、話がドヤバな激流へと向かっていただけに、ここは渡りに舟と乗っかってしまうのが、ミラノへも感謝を示すことになりそうだ。

「う~ん、センパイがいなくなったら、困るって言うより淋しくなるけれど。でも、センパイなら是非とも行くべきなんだろうなぁ。しかし行くかな実際問題? センパイの場合、行こうと思えば、いつだって行けるわけだからさ」

「彼には何か、日本にこだわる特別な理由があると言うの?」

 おっ、トリノさんも喰いついてきた。もうすっかり普段どおりの調子で──。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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