161 フトン屋がフッ飛ばない理由を御存じですか? ‐1st part‐

文字数 1,149文字

 建設現場の様子見に立ち寄る有勅水さんを、布団屋のオヤジ一人が足止めして、御託を並べ立てている内は、まだ有勅水さんもストレスを溜めながらも、穏便に対応することができた。

 しかし、そこで新たに高塀へと激突したのが、布団屋の斜向かいにあるピザ屋の三輪バイクだったから、程経て局を結ぶという流れにはならなくなる。

 バイトの高校生は全身を強打。ヘルメットをしっかり被っていなかったせいもあって、意識不明および数箇所の複雑骨折という重傷で、緊急搬送される大事故になってしまった。

 まぁ命に別状はなく、意識もしっかり戻ったけれど、一時的な記憶の混乱なのか、事故直前の状況を尋ねると、これがまたわけのわからないことを口にしていたと言う。
 
 それまた<いきなり何者かが負ぶさって来た──>って、もはや最も陳腐なヤツを。
 だから驚き、バイクのスロットルも緩めずにふり返ってしまい、そのまま高塀へと一直線。

 夢か、現実か、わからないものの、
「その体、グチャグチャにして死ねぇや!」
 と言う、戦慄(わなな)き声をはっきり聞いたとの発言を、ケーサツ相手にまでしたために、むしろ話は、駆け馬に(むち)とこじれていった。
 
 なんと恥がましくも布団屋のオヤジまでが、自身の事故の瞬間にも、不可解な現象に見舞われていたと騒めき立てだしたから、風評もおもしろ可笑しく一気に広がる。

 そこで、噂に一山加えたのが、最初の被害者である妊婦。残念ながら、お腹の子だけは助からなかった。
 布団屋のオヤジが懸念した人死は、既に出てしまっていたことになる。

 それが、町内の一部の認識を変え、今では小規模ながら、高塀撤廃を求める住民運動になってしまっているのだった。
 そんな、疑心暗鬼で、怖気の逆巻く渦中の真っ只中が、有勅水さんの置かれている近状だから、ウチへ毎晩グレに来る気持もわからなくはない。
 
 緑内の事件以後、オレもY字路から殺害現場の搬入路への道筋は避けて、さらに遠廻りをして大学へと通っているものの、毎日こうして、問題の高塀の一部が見えてしまう道は利用している。
 そんな騒ぎになっていることを、話を聞くまでオレが気づきもしなかったのは、たぶん全てが表のバス通り側で行われているからだろう。
 向こうには同じ塀が使われていないし、そもそもY字路側には、本当に誰も近寄りたくないんだ。

 この界隈で語り調(しら)ばれた建設現場周辺での怪奇譚が原動力となって、布団屋のオヤジを、執拗な抗議行動の首唱者に押し立てていると言えるんじゃないか?
 オレとしては、そっちの方が恐ろしい……。

 とにかく、全くもってフザケた話なのに、だからって有勅水さんは、お門違いな抗議にも相手をしないわけにはいかない。
 有勅水さんが取り合わなくなれば、間違いなく、ただちに裁判沙汰になってしまう。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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