257 世界の果てに立たされた先は ‐1st part‐
文字数 1,475文字
……あの、はち切れんばかりに固肥りした責丘さんの体から、果たして如何ほどの脂肪が刮 ぎとれたのか?
それが混ぜ込まれてできたキャンドルや石鹸を、葉植さんのお得意さん連中は、喜んで買い求め、室内に薫香を漂わせたり手や顔を洗ったりして、愉悦に浸っていたことを想像してしまうと……。
いや! オレも実際、ムッシューが点していたのをテント内で嗅いじまってたぁ。あれだって違うとは言いきれない気がするし、確認なんて、したくもないしっ。
怖気 で全身が薄っすらと粟立つ上に、顳の奥からも鈍い痛みをカンジてくる──。
「まさか、今日ウチに置いて行ったヤツにも使ってるっ?」
あれには、おハルだけでなくミラノもじかに触っていた。それも、電灯に翳して、目睫も目睫で眺めていたんだし!
「心配ないよ、もうないから。あの最新シリーズ『ウルティマ‐ツーレ』には使っていない。でも楯クン、あれを見たのに気づかなかったんだね?」
「何……に?」
オレが気づいたのは、あれを包んでいた新聞広告のコピーから、葉植さんが届けたモノだということだけだ。
「あのキャンドルの内層に、散らしてある星にだよ。あの作品、緑内昴一郎の所持品だった写真から、インスピレーションをもらってできたんだ」
「あぁ……」
「強盗を偽装するために彼から奪ったバッグには、天体写真も入っていた。一角獣座NGC2237、所謂バラ星雲と、彼の名前の由来なんだろう、プレアデス星団を撮影したモノなんかが」
「スバル、だね……」
「結構キザだよねー。僊河姉妹へのプレゼントに違いないから、まずは商品を店へ卸す前に、渡しておくのが一応のスジかと思って」
「…………」
「無論、あのキャンドルから細片を集めたって、証拠になんかならない。あれは何万部と刷られた図鑑から、複写して使っただけ。彼の写真は、専門機関しか撮影できないネガから引き伸ばしたオリジナルだろうから、調べ尽くしたスマホと一緒に、完全に処分させてもらった」
……あれが、ポスターかフォトプリントの細片だろうって判断はオレもしていた。でもまさか、緑内の写真が原拠になっていただなんて。
「何が、一応のスジなんだよ……」
どこまでも放言されないよう、そうツッコむのが精一杯。
そんなオレの胸の内を、今の葉植さんが斟酌してくれるとも思えないけれど。
しかし……疑う余地などまるでなく、見事なまでに欺かれていた……いや、騙されていたわけじゃないよな、オレは、葉植さんを信じていたんだ。
だから、裏切られた、と言うべきなんだろうけれど……でも、それも、どうにもしっくりこない。
なぜか、気分的には裏切られた時のモノとは、明らかに違っているし。
この感情を正直に表現してしまえば、期待に違わず、とうとう危惧していたとおりの不結果をしでかしてくれた、と言うのが最も近そう。
オレはただ、それがショックなだけで……それも、漠然と、葉植さんが直面した数数のリアルが凄絶すぎて、ただビビりきっているだけのようなカンジがする。
しかも、それを、ただ信じたくなくって、目の前にいる葉植さんも、しゃべり方がいつもと違うだなんて言う、つまらない拘泥から拒んで、退けたがっているだけ。
自分からここへ押しかけて、ここまで真相を聞いてしまっておきながら、早 オレは毎度のごとく、空嘯き通す心がまえだけは固まっているんだ。
やはり毎度と同様、オレには何もできやしないんだって。
でもそれって……オレは疾うに葉植さんがした事、された事、葉植さんの全部、存在そのモノを、納得していることになりはしないだろうか──。
それが混ぜ込まれてできたキャンドルや石鹸を、葉植さんのお得意さん連中は、喜んで買い求め、室内に薫香を漂わせたり手や顔を洗ったりして、愉悦に浸っていたことを想像してしまうと……。
いや! オレも実際、ムッシューが点していたのをテント内で嗅いじまってたぁ。あれだって違うとは言いきれない気がするし、確認なんて、したくもないしっ。
「まさか、今日ウチに置いて行ったヤツにも使ってるっ?」
あれには、おハルだけでなくミラノもじかに触っていた。それも、電灯に翳して、目睫も目睫で眺めていたんだし!
「心配ないよ、もうないから。あの最新シリーズ『ウルティマ‐ツーレ』には使っていない。でも楯クン、あれを見たのに気づかなかったんだね?」
「何……に?」
オレが気づいたのは、あれを包んでいた新聞広告のコピーから、葉植さんが届けたモノだということだけだ。
「あのキャンドルの内層に、散らしてある星にだよ。あの作品、緑内昴一郎の所持品だった写真から、インスピレーションをもらってできたんだ」
「あぁ……」
「強盗を偽装するために彼から奪ったバッグには、天体写真も入っていた。一角獣座NGC2237、所謂バラ星雲と、彼の名前の由来なんだろう、プレアデス星団を撮影したモノなんかが」
「スバル、だね……」
「結構キザだよねー。僊河姉妹へのプレゼントに違いないから、まずは商品を店へ卸す前に、渡しておくのが一応のスジかと思って」
「…………」
「無論、あのキャンドルから細片を集めたって、証拠になんかならない。あれは何万部と刷られた図鑑から、複写して使っただけ。彼の写真は、専門機関しか撮影できないネガから引き伸ばしたオリジナルだろうから、調べ尽くしたスマホと一緒に、完全に処分させてもらった」
……あれが、ポスターかフォトプリントの細片だろうって判断はオレもしていた。でもまさか、緑内の写真が原拠になっていただなんて。
「何が、一応のスジなんだよ……」
どこまでも放言されないよう、そうツッコむのが精一杯。
そんなオレの胸の内を、今の葉植さんが斟酌してくれるとも思えないけれど。
しかし……疑う余地などまるでなく、見事なまでに欺かれていた……いや、騙されていたわけじゃないよな、オレは、葉植さんを信じていたんだ。
だから、裏切られた、と言うべきなんだろうけれど……でも、それも、どうにもしっくりこない。
なぜか、気分的には裏切られた時のモノとは、明らかに違っているし。
この感情を正直に表現してしまえば、期待に違わず、とうとう危惧していたとおりの不結果をしでかしてくれた、と言うのが最も近そう。
オレはただ、それがショックなだけで……それも、漠然と、葉植さんが直面した数数のリアルが凄絶すぎて、ただビビりきっているだけのようなカンジがする。
しかも、それを、ただ信じたくなくって、目の前にいる葉植さんも、しゃべり方がいつもと違うだなんて言う、つまらない拘泥から拒んで、退けたがっているだけ。
自分からここへ押しかけて、ここまで真相を聞いてしまっておきながら、
やはり毎度と同様、オレには何もできやしないんだって。
でもそれって……オレは疾うに葉植さんがした事、された事、葉植さんの全部、存在そのモノを、納得していることになりはしないだろうか──。