116 ________________ ‐2nd part‐

文字数 1,626文字

 とにかくヴィーは、仕事が終われば、大学の二年目がスタートして、セクションの誰よりも先に歳をとることになる。
 それも二十歳を迎えるとなれば、何かしら逸るモノがあるんだろう。特にヴィーみたいな、本質的な部分で親の言いなりになっている変種ギャル女子には……。

「チョットォ、何黙りこくってシカトしようとしてるわけっ? こういう時は、間にいる楯が険悪ムードを収拾するのが礼儀でしょ。アタシはともかくミランを誰だと思ってんのよっ」

「そうだよそうだよ、私たちは最終的に水埜楯に責任転嫁するんだから、仲好しが険悪になっても、掘りゴタツが冷めるまでバイバイするわけには行かないんだよ。もしヴィーがガチでいなくなったら、愉しくないじゃん」

 ──ほとぼりが冷めるまで、じゃないのそれ?
 責任転嫁なんて言葉は知ってるクセして……ミラノさん、ムダ口が多くなったためだと思うけれど、微妙に日本語が破綻し始めているよな。

 しかし、それをツッコむ気分でも、二人の言い分に異議を唱える気分でもない。地球がオレを中心に回っていないことは、骨身に沁みてわかっているし。

「はいはい。二人とも、折角みたいだから仲好くしましょ。で、これからどこへ連行してくれるつもりだったわけ?」

「渋谷だよ。六本木や恵比寿だと、捜索されたら見つかり易いんだよ。それに私、原宿にも行ったことないない、行くっきゃないないのっ」

「そうよぉ、気晴らしにパーッとお買物して、体に悪そうなモノ食べ歩いて、色んなショップと物と人をウォッチングして、明日への英気を養うんだもん。だよね~っ?」

「だよね~っ」

 渋谷だぁ? 何もそんなガヤガヤした所へ、ワザワザ今日行かなくたっていいのにぃ……まあ、今日じゃなくたって、セイレネスのアイテムを買いに行く以外は、あのスクランブル交差点の向こうへ足を踏み入れたくはないんだけれど。

「もうそろそろ、ランチタイムねぇ。ミランはしゃぶしゃぶ食べたことあるぅ? 怪しい名古屋人の女将がやってて、お肉やお魚より、デザートの方が評判なお店知ってるんだけど、そこ行ってみよっか?」

「ないない行きたいそこ。怪しい名古屋人も見たい見たい」

 ったく。こいつら、オレが同級生の葬式帰りだってことを、間然するところもなく度外に置いていやがるな。
 その辺り、今ならオレが温和しく従うだろうとか、いざとなったら、元気づけのためだと言いのがれようって狙いに決まってる……。

 とにかく、自分の欲求にストレートで生きられる奴は羨ましいよ。
 オレなんか、その欲求からして、ほとんど(もや)に包まれちまっているもんだから、ストレートに生きようがないんだよなぁ。

 ──しゃぶしゃぶ屋が、ランチタイムの始まりとともに開店するまでの間、並びにあったゲーセンで時間を潰すことにもなった。

 プリクラ巡りにはウンザリだが、感心することに、ヴィーはクレーンゲームが鬼ウマで、自分のための限定キティを難なく一発でゲットしたあとは、ミラノさんがねだるぬいぐるみを片っ端から大量捕獲。
 店員にお願いしてゴミ袋を二枚もらい、それにつめて持ち運ぶのは、当然のようにオレの役目……。

 そんな流れで、しゃぶしゃぶ屋へと雪崩れ込む。
 二人は、デザートがメインみたいなコースメニュー。オレには、二人が味見したいメニューをアラカルトで注文して、これまた、運ばれてくる皿を試食程度に抓んでは、鬼のように残しやがる。
 食べきれない数と量が出てくるとわかっているなら、コースなんか頼まなけりゃいいのに、それでは満足いかないときてるから、オレのない食欲がますます萎える。

 コテコテの名古屋弁をあやつる年齢不詳な女将も、チラリチラリとじっくり観賞。
 なるほど、マリー・アントワネットの肖像を思い出させる見事なプーフの髪型がかなり怪しい。

 それもペン立て代わりに、オーダーをとったあとにはボールペンをその髪へと刺して、ほかのテーブルから呼ばれる頃には、奥へ埋まって出てこない。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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