278 心霊現象よりも怖いモノ ‐1st part‐

文字数 1,333文字

 なので当然葉植さんは、変わらぬ調子でオレへ説き明し続けてくれる。

「セイレーンたちの外殻にも、同じモノが使われてるー だから、きっと~電磁波を透過し易くて、増幅までもしそうな新素材なんだー」

「え? あのボディーも同じ材質だったの? でも塀よりも艶やかだし、重厚感もあるように思うんですけれど」

「それは、像全体が、ムッシュさん渾身の刮磨(かつま)によって仕上げられてるからだねー。しかし楯クンってー、物事の捉え方にムラありすぎ。変なトコ目敏いクセしてー、ハズしちゃいけない要所要所が大雑把でー。これからボクの方が気をつけないと、先が思いやられそー」

 ムラがありすぎって……要するに、オレはやっぱり生半ってことなのか?
 とうとう葉植さんにまで、こんな時に、こんな所で、確然と呆れられちまうとは。

「でもまぁ、それは今更どうしようもないんで。思いやられちゃう前に、なんとか概要がつかめるよう話を続けてくださいよ」
 
「やれやれー。地磁気ってゆーのは、通常四五〇ミリから五〇〇ミリガウスで安定しているけど、羽撃きのポーズをしたセイレーン、全力の独唱を一身に浴びたそこだけ、桁違いに跳ね上がるだろーね。俗にゆ~恐烈な心霊スポットが、局地的かつ一時的にできてたわけ」

「心霊スポットですか? ……あんなカンジだなんて」

「脳ミソでも、側頭葉は特に磁気の乱れには敏感なのー。たった一ミリガウスでも、ダイレクトに受ければ影響が出ちゃうー。電線やTVアンテナとか、日常的なモノは〇・一ミリガウス程度しかないから大丈夫なだけー。どー楯クン? 話しはつかめてるー?」
 
「えぇ、まぁ……」
 ガウスはさておき、心霊スポットってことなら、オレもクラスの連中とワイワイやった記憶があるし。
 遥か昔、初等課程の四年の頃だったと思うけれど──。

 異常な地磁気が計測される場所には、笠間城跡や青木ヶ原樹海、高野山なんかが有名だ。
 いずれも地下に大きな断層があって、断層に力が加わりズレることで発電する、その圧電効果によって磁場が大きく乱れる。
 そして、地下断層などがなくても、やはり、墓場も科学的根拠のある心霊スポットだ。
 墓石には、磁鉄鉱を多く含む花崗岩が使われてるから、温度差などで石の内圧が変化して、膨張や収縮により磁気が強まる。
 中には、磁鉄鉱がもつ磁界の向きが一方向になっている強力な石があって、お参りをしているだけでも側頭葉が影響を受けて、幻覚を見るという理屈と一緒だろう。

 姫路城や松山城も、怪奇現象が多発する心霊スポットに名を連ねていたはずだ。その城壁にも、花崗岩が使われているから。
 そしてやっぱり、その土地に纏わる伝承がネタとなった幻覚を見る。

 城址ならば、血塗れの落ち武者や、斬り捨てられた恨めしげな家臣。
 墓石が密集しているような墓地ならば、お参りに来た故人や急逝した顔見知り。
 自殺の名所ならば、陰鬱で恨めしげな人影。

 要は、恐怖心から連想されたイメージを、脳が、直接目で見た映像であると錯覚する。
 そいつが、幽霊や怨霊の正体。心霊現象は、目で見たり、体験するんじゃなく、脳がダイレクトに恐怖を誤認識するってことなんだ。

……そういったことを、オレに話して聞かせてくれた一員が、根上だったよなぁ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み