272 再考 布団屋が潰れない理由 ‐1st part‐
文字数 1,365文字
「こっち側に来れば大丈夫ー、彼女たちの歌声は届いてこないから、眩惑されずに済むのー」
「ええ。……ここだと、ガチに笑い声も鼻歌も聴こえないや。アクティヴノイズコントロールまで使われてるとか?」
「でも従来どおりの、スピーカから逆位相の音を出して、音圧ゼロにしてるんじゃーないと思う。振動‐共鳴する材質で造った物体と、DMA素子との組み合わせで、音を出す仕組みもあるから、方式の特定まではねー」
「……けれど、とにかく凄い、って言うより異様でしたって……」
「一人で動かず聴いてたら、その効果は完璧だよー。センサーが局地的だけど、捕捉したターゲットを狙い続けるんだ」
「……局地的、って、オレが立たされた位置が一番狙われ易いわけですよね」
「だから、蹴飛ばしてゴメンねー。あのままだと楯クン、テラスから落っこちちゃうーかもだった。ボクの力じゃー、フツウに押してもダメでしょ~」
「いえ、どうもでした。危ないとは思ってたんだけれど。なんか、背中から誰かに覆い被されって……あれっ? やっぱり今はないや、感触は残ってるのに。なんかじんわり、皮膚の表面だけが痺れてるカンジ」
「それも全~部、セイレーンたちの歌声なのー、よーくわかったでしょ? さーかかってきなさい。せめて三、四聞くらいで百全に納得しよーね、ボク一人で楯クンに、百聞させるのは疲れるからー」
そう釘をうたれてしまっては、溢れる疑問も、おいそれと口にできないじゃん……。
「でもとり敢えず、オレに負ぶさってギュ~ッと締めつけていた正体を教えてよ。それで、かなり落ち着けそうですから」
「そー? 楯クンを襲ったおんぶオバケの正体は、強力な電磁波だねー。そこの、セイレーンたちがいる、テラスをかねた踊り場から下までの階段は、ここと違って、フツーのコンクリートじゃーないんだ」
「……フツウじゃ、ないってのは?」
「強誘電体と一時的な保磁力は強いけどー、減磁するのも早い磁性体が交ぜてある特殊な建築材料。それで、全体が幾つもの、変形パラボラアンテナを寄せ集めたような構造物にされてるのー。今さっき、楯クンが転んで手を突いた時、ビミョ~に平らじゃないってこと、気づかなかったー?」
「……それどころじゃなかったんで。すみません……」
そんな微妙なことなんか、わかるはずがないってのっ。
けれど、ムッシューが、テラスの床になっている部分に寝転んでは、金タワシで頻りに擦っていた……あれって、掃除やストレス発散ではなく、アンテナとしての精微な凹面の具合を、手仕事で調節していたってことだったのか?
「しょーがないけど、謝ることでもないよー」
「……でも、そんなビミョーな造りだと、これから人が通行すれば、磨り減ったり、歪んだりして、機能を果たさなくなるんじゃないですか?」
「そこがムッシュさんの神神しさー。人間どもが横行闊歩に踏み込んで来るのを、セイレーンたちも、当然ただ歓迎はしなーい。美しい歌を聴かせる一方、おんぶオバケも起こして忌避させるー。それが自然の摂理ー、この世は須らくバランスってことだねー」
んん? その、自然の摂理とやらが考慮されている作品だから、ムッシューは神神しいってことなのかな……。
「それで、忌避なわけですか?」
「セイレーンたちはねー、歌声として、さまざまな周波数の電磁波を出力するのー」
「ええ。……ここだと、ガチに笑い声も鼻歌も聴こえないや。アクティヴノイズコントロールまで使われてるとか?」
「でも従来どおりの、スピーカから逆位相の音を出して、音圧ゼロにしてるんじゃーないと思う。振動‐共鳴する材質で造った物体と、DMA素子との組み合わせで、音を出す仕組みもあるから、方式の特定まではねー」
「……けれど、とにかく凄い、って言うより異様でしたって……」
「一人で動かず聴いてたら、その効果は完璧だよー。センサーが局地的だけど、捕捉したターゲットを狙い続けるんだ」
「……局地的、って、オレが立たされた位置が一番狙われ易いわけですよね」
「だから、蹴飛ばしてゴメンねー。あのままだと楯クン、テラスから落っこちちゃうーかもだった。ボクの力じゃー、フツウに押してもダメでしょ~」
「いえ、どうもでした。危ないとは思ってたんだけれど。なんか、背中から誰かに覆い被されって……あれっ? やっぱり今はないや、感触は残ってるのに。なんかじんわり、皮膚の表面だけが痺れてるカンジ」
「それも全~部、セイレーンたちの歌声なのー、よーくわかったでしょ? さーかかってきなさい。せめて三、四聞くらいで百全に納得しよーね、ボク一人で楯クンに、百聞させるのは疲れるからー」
そう釘をうたれてしまっては、溢れる疑問も、おいそれと口にできないじゃん……。
「でもとり敢えず、オレに負ぶさってギュ~ッと締めつけていた正体を教えてよ。それで、かなり落ち着けそうですから」
「そー? 楯クンを襲ったおんぶオバケの正体は、強力な電磁波だねー。そこの、セイレーンたちがいる、テラスをかねた踊り場から下までの階段は、ここと違って、フツーのコンクリートじゃーないんだ」
「……フツウじゃ、ないってのは?」
「強誘電体と一時的な保磁力は強いけどー、減磁するのも早い磁性体が交ぜてある特殊な建築材料。それで、全体が幾つもの、変形パラボラアンテナを寄せ集めたような構造物にされてるのー。今さっき、楯クンが転んで手を突いた時、ビミョ~に平らじゃないってこと、気づかなかったー?」
「……それどころじゃなかったんで。すみません……」
そんな微妙なことなんか、わかるはずがないってのっ。
けれど、ムッシューが、テラスの床になっている部分に寝転んでは、金タワシで頻りに擦っていた……あれって、掃除やストレス発散ではなく、アンテナとしての精微な凹面の具合を、手仕事で調節していたってことだったのか?
「しょーがないけど、謝ることでもないよー」
「……でも、そんなビミョーな造りだと、これから人が通行すれば、磨り減ったり、歪んだりして、機能を果たさなくなるんじゃないですか?」
「そこがムッシュさんの神神しさー。人間どもが横行闊歩に踏み込んで来るのを、セイレーンたちも、当然ただ歓迎はしなーい。美しい歌を聴かせる一方、おんぶオバケも起こして忌避させるー。それが自然の摂理ー、この世は須らくバランスってことだねー」
んん? その、自然の摂理とやらが考慮されている作品だから、ムッシューは神神しいってことなのかな……。
「それで、忌避なわけですか?」
「セイレーンたちはねー、歌声として、さまざまな周波数の電磁波を出力するのー」