123 ____________________ ‐3rd part‐

文字数 1,024文字

 そして、止める間もなくミラノさんが手を放すと、葉植さんは間髪容()れずに身を翻し、何度も躓きながらバタバタと遁走……。
 そのヨレた後ろ姿からも、悲愴さが伝わってくるほどだ。

「あははぁ。葉植木春菊って、やっぱり愉しい愉しい」

「って、それでいいのかなぁ?」

「いいのいいの。さぁ行こう水埜楯、ヴィーだってこれでいいんだよ」

 あっけらかんと、ミラノさんはニコニコ顔で手を伸ばしヴィーとつなぎなおして、何事もなかったように歩きだす。

 オレが気にし始めた周囲の目など、全くもって頓着せずだ。

まあ、この期に及んで気になったオレの方がズレているんだろうけれど。

 ──「葉植さんに、何しちゃったのミラノさん?」

 オレが並んで尋ねると、当然のように手をつないでくれてミラノさんは言う。

「握手じゃん。私は、葉植木春菊とも仲好しになりたいんだよ」

「ン~、でもそれにしちゃぁ物凄い嫌がりようだったよね。思いっきり握り締めたんでしょ? ミラノさん結構握力強いから」

「チョットだよ。しょうがないない、挨拶が終わる前に逃げようとするからだもん」

 葉植さん、ミラノさんが単に苦手といったレヴェルじゃないな。
 実は、自分からは無遠慮なまでに触れても、他人からは触られるのを一切許さない、身勝手で選り好みをする潔癖症だったりして……。

「大丈夫かなぁ。駆けてった方向は合ってても、あの動転ようだから、また迷わなければいいんだけれど」

「大丈夫だよ。気が動転してればしてるだけ、本能的に来た道を引き返すんだよ。それに、葉植木春菊はその辺の神経、私よりも全然しっかりしてるんだよ」

「……なんか、どこかで聞いたような。随分と利いた風なこと言うなぁミラノさん」

「だって、よくわかってるんだもん」

「え? ……よく、だなんて、何がどう?」

「私と葉植木春菊は似てるんだよ。今度会ったら日本語でも言っといて、

って。水埜楯のことだって、私はよ~くわかってるんだよ。だから水埜楯の味方をしてるんだよ」

「ウ~ン、何を根拠にそう言ってるのか知らないけれどさ。まぁ今度遇った時に、ちゃんと伝えておきますよ、忘れてなかったらですけれど……」

「わかってるわかってるぅ。水埜楯が、ちゃんと忘れちゃうこともだよ」

「…………」

 ミラノさんは含み笑いを見せるけれど、なんだか今度はラファエル級。
 言いようもないモヤつきなんか瞬間的に癒されて、ありとあらゆるこの場の不都合を、ちゃんと忘れちゃうくらい。 
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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