109 名探偵多くして事件迷宮に入る ‐1st part‐

文字数 1,143文字

 モタモタしている内に次の犠牲者が出てしまう惧れがある現在、オレのこうした言い分が、ケーサツの根本理念である実証主義に反した感情論だと、怜悧(れいり)な同級生たちから笑われようとも、オレはいつもみたいに口籠り、そのまま引き下がってしまうわけにはいかない。

 緑内は、煙たがられはしても、決して恨まれる人間ではないと、持物を無抵抗で手放しちまうヘタレでも決してないってことを、同級生たちへ説き続けた。

 もう、葬式になんか出たくないって強烈な思いが、そうさせたと言える。

 だって、今尚ウチの近くでのうのうと暮らしている奴が犯人だとしたら、新たな被害者は、またオレと関係のある人かもしれないんだから。

 それと、今日の式には、またも出張で来られなかった有勅水さんが、昨晩ウチで夕食を一緒にした際、独り言みたいに呟いた緑内の印象にも、強烈に後押しされていた。
 
「あのコは、自分から危険に身を晒すような真似をするタイプじゃないわよねぇ。敵いそおもない相手ならヘンに意地を張ったりしないで、逃げるが勝ちって高笑いしてるってカンジで。もし写真を撮ったんだとしても、それこそ上手に隠し撮りしそお」

 そう言ってくれたんだ、有勅水さんが。

 緑内とは、あれから食堂棟でもう一度、合わせて二度ばかりランチを一緒に食べたきりの有勅水さんだけれど、オレもそのとおりだと思う。

 勉強ばかりしていた緑内は、その外見とは違って、勉強だけしかできない青瓢箪ではない。
 何せ、一〇〇メートルは一〇秒フラットに迫るタイムで走ったし。垂直跳びの記録も一メートル以上あって、オレにそれだけあればダンクができたのにと、ガチで悔しがったことを憶えている。

 ……その程度しかないのがまたツラい、緑内との思い出と呼べそうなのが。

 だから、どんなに趣味嗜好を貶されようが、カノジョいない歴一八年だろうが、あいつは態度もデカけりゃ、自信もたっぷりだったんだ。
 あいつはホントに、人類として高性能な部類に入る奴なんだ、ただ星狂いなだけで……。

 緑内が、何の抵抗もなく脳天をカチ割られたのなら、それは、いきなりに不意を衝かれたからだとしか考えられない。
 それにあの日、ウチを目指していた緑内が、何ゆえあの搬入路のある通りへ入ったのかが、どうしても解せない。

 バスで来ようと、普段どおり地下鉄で来ていようと遠廻りになるし、あの搬入路で、あの時間帯に何か事件を起こすのも、目撃するのも、暗すぎる気がする。

 オレが、建設現場内のプレハブハウスで生活していることは、緑内に話していなかったし、知っていたとしても、ワザワザ来るはずもないんだし。

 ケーサツの主張どおりに、緑内が何か事件を目撃したんだとしたら、やはりそのY字路付近から搬入路の間でということになるんだろう。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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