003 ______ ‐3rd part‐
文字数 1,489文字
あらためて素材的にはお嬢ちゃんで通用しなくもないのになぁと、ほんの少しばかり妙な口惜しさが感じられてくるものの、今それをオレが吐露したところで、葉植さんも、そのそこはかとない不気味さは変わりはしない、決して。
「あーの紅毛さん、こっちまで見てってくれるかなー?」
コーモー? あぁ紅毛碧眼 ね……葉植さんは微妙に言語体系がズレていて、しょっちゅう困惑させられる。
「とにかく折角の新作発表日なんですから、急いで準備を整えた方がいいですよ。手伝いましょうか」
「ウ~ンありがと。けどいー」
キメていてもいなくても間延びしている葉植さんだけれど、こういう点だけは感心させられてしまう。
自分の作品は興味をもってくれた客以外には触らせたくないという、アルティザン気質と言うか作家魂と言うか、一本スジの通ったところはあるようだから。
ここで葉植さんが売っているのはアロマキャンドルと固形石鹸。
お手製のオリジナル品で、成分や香料の調合にこだわりがあるだけでなく、その造形もエラく風変わり。
前作のテーマはアニマル‐アビューズ(動物虐待)だったから、愛らしい動物の形はしているものの毒毒しく着色されていて、使えばその可愛さを感じさせる部分から溶失するよう意図されていた。
無防備なキャラとは裏腹に、空恐ろしいモノを内に秘めていそうだよなぁこのコは──。
葉植さんとオレは同じ早生まれの一七歳だけれど、あまりにも発想が懸け離れすぎている。っていうか、とてもオレより先に一八になるようには全然見えないし、信じたくない。
精神的には早熟なのに、身体的に晩熟で服装によっては完全に小学生。まぁ育ちなんかクソ喰らえでも、一体どんな環境で暮せばそこまで体だけモタモタと成長して、そんな思考回路になるのやら? オレにはさっぱりわからない。
「そーゆえば今日、木曜だねー。ユールは唄いに来るかなー?」
所定のスペースでダンボール箱を開いた葉植さんは、陳列作業に間怠 っこしくとりかかりながら聞いてくる。
でもオレは、何も言えねぇ「…………」状態へ。敷かれた茣蓙の上に一つずつ葉植さんの基準で置かれていく、ヴィニル袋に入れられた艶やかな固体たちに目を奪われていた。
……キャンドルや石鹸たちは半透明な乳白色に、赤や黒、緑に青がマーブルのように散り透かしてある。
そこは問題ないけれど、自然と眉が顰まってしまうのは、それらがリアルな人体パーツの形状を成していることだった。
特に手首のキャンドルや眼球の石鹸なんかは、ヤケに精巧にできている。
燃え尽きるまで何年かかるんだよっ、とツッコみたい衝動に駆られる等身大サイズの髑髏までがデンッと据えられたあとからは、どう見ても男性器以外には考えられない形象がその周りに屹立し始めた。
そんなの、火を点けたら何が何だか判らなくなる。今回はチョット、おつき合いでも買うのは遠慮しておきたい……。
「先週は台風、先先週も途中から雨だったでしょー? 週一回の一時間ぽっちじゃー、却って面倒だろーし」
オレの中では疑義が溢れ出しているけれど、彼女に問い質したい欲求をとり敢えずガマン。
葉植さんから幾ら返答をもらっても、どうせオレには理解できやしないだろうし、混乱したままでは葉植さんの怪態な心算など推し量れる道理もない。
何しろ、こんな調子と様子でもウチの大学の在任名誉教授の御令孫ときているから。大蛇が蜷局 を巻いていることだけは明白な藪は、突突かない方が身のためだ。
「……どうでしょ? でも今日は好すぎるくらいの天気ですからね」
「あの歌声、また聞きたいのー、なんか耳に残っちゃってー」
「あーの紅毛さん、こっちまで見てってくれるかなー?」
コーモー? あぁ
「とにかく折角の新作発表日なんですから、急いで準備を整えた方がいいですよ。手伝いましょうか」
「ウ~ンありがと。けどいー」
キメていてもいなくても間延びしている葉植さんだけれど、こういう点だけは感心させられてしまう。
自分の作品は興味をもってくれた客以外には触らせたくないという、アルティザン気質と言うか作家魂と言うか、一本スジの通ったところはあるようだから。
ここで葉植さんが売っているのはアロマキャンドルと固形石鹸。
お手製のオリジナル品で、成分や香料の調合にこだわりがあるだけでなく、その造形もエラく風変わり。
前作のテーマはアニマル‐アビューズ(動物虐待)だったから、愛らしい動物の形はしているものの毒毒しく着色されていて、使えばその可愛さを感じさせる部分から溶失するよう意図されていた。
無防備なキャラとは裏腹に、空恐ろしいモノを内に秘めていそうだよなぁこのコは──。
葉植さんとオレは同じ早生まれの一七歳だけれど、あまりにも発想が懸け離れすぎている。っていうか、とてもオレより先に一八になるようには全然見えないし、信じたくない。
精神的には早熟なのに、身体的に晩熟で服装によっては完全に小学生。まぁ育ちなんかクソ喰らえでも、一体どんな環境で暮せばそこまで体だけモタモタと成長して、そんな思考回路になるのやら? オレにはさっぱりわからない。
「そーゆえば今日、木曜だねー。ユールは唄いに来るかなー?」
所定のスペースでダンボール箱を開いた葉植さんは、陳列作業に
でもオレは、何も言えねぇ「…………」状態へ。敷かれた茣蓙の上に一つずつ葉植さんの基準で置かれていく、ヴィニル袋に入れられた艶やかな固体たちに目を奪われていた。
……キャンドルや石鹸たちは半透明な乳白色に、赤や黒、緑に青がマーブルのように散り透かしてある。
そこは問題ないけれど、自然と眉が顰まってしまうのは、それらがリアルな人体パーツの形状を成していることだった。
特に手首のキャンドルや眼球の石鹸なんかは、ヤケに精巧にできている。
燃え尽きるまで何年かかるんだよっ、とツッコみたい衝動に駆られる等身大サイズの髑髏までがデンッと据えられたあとからは、どう見ても男性器以外には考えられない形象がその周りに屹立し始めた。
そんなの、火を点けたら何が何だか判らなくなる。今回はチョット、おつき合いでも買うのは遠慮しておきたい……。
「先週は台風、先先週も途中から雨だったでしょー? 週一回の一時間ぽっちじゃー、却って面倒だろーし」
オレの中では疑義が溢れ出しているけれど、彼女に問い質したい欲求をとり敢えずガマン。
葉植さんから幾ら返答をもらっても、どうせオレには理解できやしないだろうし、混乱したままでは葉植さんの怪態な心算など推し量れる道理もない。
何しろ、こんな調子と様子でもウチの大学の在任名誉教授の御令孫ときているから。大蛇が
「……どうでしょ? でも今日は好すぎるくらいの天気ですからね」
「あの歌声、また聞きたいのー、なんか耳に残っちゃってー」