013 最悪の痛み分け ‐1st part‐
文字数 1,881文字
こんなでも、ヴィーは、多大な寄付金とともに入学してきたと言う土地開発会社を母体としたコングロマリットの会長令嬢。
さらには与党議員の姪御 でもあって、コンパを仕切ってくれていた助手志望の院生たちの尻拭いにより、教授陣が顔を出す前に大わらわかつ内内に事態は収拾されたとびっきりのもて余し者。
由緒だけは正しい在栖川大学の伝統ある文科学部において、創始以来初めての暴力による不祥事になっちまうところだったんだ……。
それではヴィーとセンパイ、両者の口汚い誹謗中傷合戦も臨界を迎え、いよいよフィジカルに激突しようとカウントダウンを刻む中、オレは
センパイの手はまだオレの右肩を握り締めていたけれど、それを削ぎ落とすように腕を回し込み、今度はオレがセンパイの両肩を掴み押さえてこちらを向かせる。
「何だ楯! ケンカを売ってきたのはあいつの方だぞっ。止めるなら俺じゃなくあの箱馬 女にしやがれっ」
「そんな女子相手に、ムキになることないじゃないですかぁ。さっきの話、ちゃんと説明しますから」
「俺はだなぁ、世界を流れ歩いてフェミニストをきっぱり辞めたんだっ、実質男が女より強い国なんてありゃしない。んでもって、売られたケンカは必ずその場でキャッシュレス払いの丸買いだっ! まだまだ全然言い足りねぇ。あの手の身のほど知らず木偶 ビッチにゃ、どうせ、どれだけ言おうが効きやしねぇんだ!」
「なら、言うだけムダじゃないですか。ほらぁ、子供連れの奥さんたちが降りて来ましたよ、一先ずは商売しましょセンパイ」
「おまえも所かまわずセンパイって言うな、だから二五の男盛りをオヤジ呼ばわりされちまうんだぞっ。そんな形骸化したパワーストラクチャーってヤツも大っ嫌いだし、俺がいつおまえを後輩あつかいしたってんだっ? 敬意もないクセに見え透いたセンパイ呼ばわりはよせ!」
知らんけれど、癇癪 の鉾先 がオレに向いてきた。そうなるとどうすりゃいいのかわらなくなる……。
「オイそこ、白髪ハゲのとっちゃん坊や、何を楯にまで絡んでんのよっ。あんたの相手はアタシでしょ、ウダウダやってないでサクッと決着つけちゃおうじゃないの!」
「あぁっ? お~し、望むところだ。おまえなんか、柳生新陰流の極意
「チョ、センパイ!」
オレの両腕を振り払い立ち向かおうとするセンパイを慌てて羽交 い締めにする。
こうもオレにあっさり止められるようでは、ヴィーの馬力に敵うわけがないしっ。
でも、まろばしがどういったワザなのか想像もつかないけれど、IQの方は確実にサタン級であろうセンパイのことだ、それがどんなにエゲツない手だとしても、必勝が計算されていることだけは間違いない。
今度こそはヴィーが、センパイの一族が主だった科の医師を勤めるこの地域の救急指定病院へ担ぎ込まれることになるかも……。
いずれにせよ、バックにまで曲者がぞろぞろ控えていそうなこの二人、家同士の抗争になんかへ発展したら物凄~くヤバい。
裁判沙汰になってオレが証人として喚問されることにでもなったら……。
いかんいかん、こんな危急時だってのに、悠長に先走って意識にじめじめした想念までを渦巻かしてど~するんだよ?
そんなことは後まわし、って言うか、今そうならないようにできるのはこのオレだけなんだから気張らないと。
とにかく、このままではヴィーの方から肉弾をカマして来そうな勢いなので最後の手段、センパイを抱え上げてこの場から退散しようと全力を振り絞った──けれどその直後のこと、
「みんな大変! お婆ちゃんが、僊河 のお婆ちゃんが死んじゃったぁっ」
里衣さんの息を乱した叫喚に、脚をバタつかせ踠 いていたセンパイもフリーズ。
オレも固まりながら、そんなまさかと耳を疑う気持ばかりで何のリアクションもとれずにいた。
ヴィーを含めたここの全員が動きを止めているみたい。
……いやいや、これはきっと、この荒れ場を収拾させようとした咄嗟の狂言なのでは? さすがは里衣さん!
感謝までが瞬間的に湧き起こると同時に、里衣さんは、たとえ方便でも人を殺したりはしないんじゃないか? といった反立もオレの意識のバックグラウンドを占領する。
はてさて真実は一体どっちだ?
石段の降り口で、何事かという表情で佇立する主婦や子供たちを駆けぬいて、さらに足を速める里衣さんの強張った面持からは、やっぱり、とても嘘っぱちだとは思えない。
「……放せよ楯。こいつはガチだぜ」
その一言で、オレの両腕はセンパイの重さの実感を取り戻した。
さらには与党議員の
由緒だけは正しい在栖川大学の伝統ある文科学部において、創始以来初めての暴力による不祥事になっちまうところだったんだ……。
それではヴィーとセンパイ、両者の口汚い誹謗中傷合戦も臨界を迎え、いよいよフィジカルに激突しようとカウントダウンを刻む中、オレは
いざガッチンコ
! となる前に腰を上げた。センパイの手はまだオレの右肩を握り締めていたけれど、それを削ぎ落とすように腕を回し込み、今度はオレがセンパイの両肩を掴み押さえてこちらを向かせる。
「何だ楯! ケンカを売ってきたのはあいつの方だぞっ。止めるなら俺じゃなくあの
「そんな女子相手に、ムキになることないじゃないですかぁ。さっきの話、ちゃんと説明しますから」
「俺はだなぁ、世界を流れ歩いてフェミニストをきっぱり辞めたんだっ、実質男が女より強い国なんてありゃしない。んでもって、売られたケンカは必ずその場でキャッシュレス払いの丸買いだっ! まだまだ全然言い足りねぇ。あの手の身のほど知らず
「なら、言うだけムダじゃないですか。ほらぁ、子供連れの奥さんたちが降りて来ましたよ、一先ずは商売しましょセンパイ」
「おまえも所かまわずセンパイって言うな、だから二五の男盛りをオヤジ呼ばわりされちまうんだぞっ。そんな形骸化したパワーストラクチャーってヤツも大っ嫌いだし、俺がいつおまえを後輩あつかいしたってんだっ? 敬意もないクセに見え透いたセンパイ呼ばわりはよせ!」
知らんけれど、
「オイそこ、白髪ハゲのとっちゃん坊や、何を楯にまで絡んでんのよっ。あんたの相手はアタシでしょ、ウダウダやってないでサクッと決着つけちゃおうじゃないの!」
「あぁっ? お~し、望むところだ。おまえなんか、柳生新陰流の極意
まろばし
でイチコロにしてやるっ」「チョ、センパイ!」
オレの両腕を振り払い立ち向かおうとするセンパイを慌てて
こうもオレにあっさり止められるようでは、ヴィーの馬力に敵うわけがないしっ。
でも、まろばしがどういったワザなのか想像もつかないけれど、IQの方は確実にサタン級であろうセンパイのことだ、それがどんなにエゲツない手だとしても、必勝が計算されていることだけは間違いない。
今度こそはヴィーが、センパイの一族が主だった科の医師を勤めるこの地域の救急指定病院へ担ぎ込まれることになるかも……。
いずれにせよ、バックにまで曲者がぞろぞろ控えていそうなこの二人、家同士の抗争になんかへ発展したら物凄~くヤバい。
裁判沙汰になってオレが証人として喚問されることにでもなったら……。
いかんいかん、こんな危急時だってのに、悠長に先走って意識にじめじめした想念までを渦巻かしてど~するんだよ?
そんなことは後まわし、って言うか、今そうならないようにできるのはこのオレだけなんだから気張らないと。
とにかく、このままではヴィーの方から肉弾をカマして来そうな勢いなので最後の手段、センパイを抱え上げてこの場から退散しようと全力を振り絞った──けれどその直後のこと、
「みんな大変! お婆ちゃんが、
里衣さんの息を乱した叫喚に、脚をバタつかせ
オレも固まりながら、そんなまさかと耳を疑う気持ばかりで何のリアクションもとれずにいた。
ヴィーを含めたここの全員が動きを止めているみたい。
……いやいや、これはきっと、この荒れ場を収拾させようとした咄嗟の狂言なのでは? さすがは里衣さん!
感謝までが瞬間的に湧き起こると同時に、里衣さんは、たとえ方便でも人を殺したりはしないんじゃないか? といった反立もオレの意識のバックグラウンドを占領する。
はてさて真実は一体どっちだ?
石段の降り口で、何事かという表情で佇立する主婦や子供たちを駆けぬいて、さらに足を速める里衣さんの強張った面持からは、やっぱり、とても嘘っぱちだとは思えない。
「……放せよ楯。こいつはガチだぜ」
その一言で、オレの両腕はセンパイの重さの実感を取り戻した。