010 オーグレス(女鬼)まで来襲 ‐1st part‐
文字数 1,549文字
有勅水さんたちが気にもかけずに通り過ぎ、石段を昇り始めると、ヴィーはズンズンと肩で風を切り一直線にこちらへと向かって来る。
できればダッシュで逃げたいところだけれど、残される商品が可哀想だし、居座り続けられても傍迷惑。
またしても歩き難そうな、今日は厚底サンダルをガコガコと石畳に響かせて、ヴィーは再びオレのノルアドレナリン分泌を煽ってくれやがる……。
チョイエロカワセレブだか知らないけれど、パンクとサイケをごっちゃにした七〇年代ファッションが一応基調となっているとかで、ヴィーは、今日もまた直視をできる限り避け続けたいケバい格好。
ドギツい中にも明確なコードがありそうな残存ギャル系やら聖林 カブレ系やらの方が、まだ見慣れることができるだけマシに思う。
あんな、クロイワオオケマイマイみたいなイヤリングに、アオミオカタニシを串刺しにしたかのようなネックレス。
ド紫にピンクの土星がいっぱい飛んでいる体のラインに張りついたノースリーヴやら、箍骨 で膨らませた裾にスタッドが並ぶウルトラミニのスカート。トドメに、如何わしくガーターで留めた網目のオーヴァーニーハイソックス……。
あれらは果たして、どこをどう探して入手していやがるんだろうか?
大体、あの風体の一体どこがエロくて可愛いんだろ?
ムリヤリ語末にセレブなんて贅言をしているのも、ただ単にカネがかかっているんだとひけらかしたいだけ。
それに、あのブロンドの外巻きカールに真紅のカチューシャ、この暑さだってのに、ヅラとは異常気象までオチョクろうってか?
大体がまだ昼休みじゃないじゃんか、何ゆえ大学へ行かずにここへ来るんだよ?
でも、来るなら来いヴィー、まだ有勅水さんの後ろ姿が見えている今のオレはいつものオレとは違うんだっ。
と、珍しく意気込んでみたっていうのに、ヴィーは手前でピタリと止まり、毛絲さんに向かって、「キャサリン、サヴァサヴァ~。今日もメ~ッチャ、キモカワじゃなぁいぃ?」などと、一転して安穏なおしゃべりを始めやがるからズルッとくる。
「サヴァサヴァ~。ヴィーだって相変わらずプリティエストなのぉ」
「スクープ聞いちゃってよキャサリ~ン、実は『mⅰnx』の編集部から連絡があったの。男子モデルとの絡みがある号だけスポットでどうかってぇ」
「ウッソー、それマジ凄くなぁい?」
「ほらアタシってば、スーパーサイズなもんだからぁ、その辺にウジャラケてるちんまいコたちとじゃつり合いがとれないのよ~。でねでね、その方がレギュラーなんかよりインパクトがあって、読者の注目度も高いんだってぇ」
「それでそれで、いつ頃から載っちゃうわけ? スタイリストやメイクも一新されるのっ? ガーゴイル樋嘴 様とか、血塗 まりぃ様とかになったりしてぇ?」
「ヤダァ、それってただキャサリンの好みなだけじゃ~ん。来週出版社の方に来てくれって言うからぁ、とり敢えずその時に教えてくれるかも~。でも、もしもそう言う関係にコネとかできたら、キャサリンにも紹介したげるからねっ」
「キャーッ雑誌出たら買えるだけ買って、知り合い全員に配るからねっ。そーだわ、ウチの店でお祝いパーティーやっちゃおうよ!」
……知らんけれど。なんか、瞬く間にすっかり風向きが変わったみたいだ。
まぁそれならそれで、オレとしては大変ありがたい、むしろ余計な気力と体力を消費せずに済むと言うもの。
さて。
オレは再び枕箱の抽斗 を引き開けて、名刺と五千円札がちゃんと入っていることを確認する──もう一度触れたら、煙とともに消滅してしまいそうな現実感のなさは否めない。
なので、またスグにしっかりと閉じた。
有勅水さんと交わした会話も記憶の限りプレイバックしてみる。
……新作ねぇ、それも可愛らしいヤツかぁ。
できればダッシュで逃げたいところだけれど、残される商品が可哀想だし、居座り続けられても傍迷惑。
またしても歩き難そうな、今日は厚底サンダルをガコガコと石畳に響かせて、ヴィーは再びオレのノルアドレナリン分泌を煽ってくれやがる……。
チョイエロカワセレブだか知らないけれど、パンクとサイケをごっちゃにした七〇年代ファッションが一応基調となっているとかで、ヴィーは、今日もまた直視をできる限り避け続けたいケバい格好。
ドギツい中にも明確なコードがありそうな残存ギャル系やら
あんな、クロイワオオケマイマイみたいなイヤリングに、アオミオカタニシを串刺しにしたかのようなネックレス。
ド紫にピンクの土星がいっぱい飛んでいる体のラインに張りついたノースリーヴやら、
あれらは果たして、どこをどう探して入手していやがるんだろうか?
大体、あの風体の一体どこがエロくて可愛いんだろ?
ムリヤリ語末にセレブなんて贅言をしているのも、ただ単にカネがかかっているんだとひけらかしたいだけ。
それに、あのブロンドの外巻きカールに真紅のカチューシャ、この暑さだってのに、ヅラとは異常気象までオチョクろうってか?
大体がまだ昼休みじゃないじゃんか、何ゆえ大学へ行かずにここへ来るんだよ?
でも、来るなら来いヴィー、まだ有勅水さんの後ろ姿が見えている今のオレはいつものオレとは違うんだっ。
と、珍しく意気込んでみたっていうのに、ヴィーは手前でピタリと止まり、毛絲さんに向かって、「キャサリン、サヴァサヴァ~。今日もメ~ッチャ、キモカワじゃなぁいぃ?」などと、一転して安穏なおしゃべりを始めやがるからズルッとくる。
「サヴァサヴァ~。ヴィーだって相変わらずプリティエストなのぉ」
「スクープ聞いちゃってよキャサリ~ン、実は『mⅰnx』の編集部から連絡があったの。男子モデルとの絡みがある号だけスポットでどうかってぇ」
「ウッソー、それマジ凄くなぁい?」
「ほらアタシってば、スーパーサイズなもんだからぁ、その辺にウジャラケてるちんまいコたちとじゃつり合いがとれないのよ~。でねでね、その方がレギュラーなんかよりインパクトがあって、読者の注目度も高いんだってぇ」
「それでそれで、いつ頃から載っちゃうわけ? スタイリストやメイクも一新されるのっ? ガーゴイル
「ヤダァ、それってただキャサリンの好みなだけじゃ~ん。来週出版社の方に来てくれって言うからぁ、とり敢えずその時に教えてくれるかも~。でも、もしもそう言う関係にコネとかできたら、キャサリンにも紹介したげるからねっ」
「キャーッ雑誌出たら買えるだけ買って、知り合い全員に配るからねっ。そーだわ、ウチの店でお祝いパーティーやっちゃおうよ!」
……知らんけれど。なんか、瞬く間にすっかり風向きが変わったみたいだ。
まぁそれならそれで、オレとしては大変ありがたい、むしろ余計な気力と体力を消費せずに済むと言うもの。
さて。
オレは再び枕箱の
なので、またスグにしっかりと閉じた。
有勅水さんと交わした会話も記憶の限りプレイバックしてみる。
……新作ねぇ、それも可愛らしいヤツかぁ。