039 ____________ ‐3rd part‐
文字数 1,724文字
この時期リクルートスタイルでキメた女子学生がいないこともない。
けれど、顔は南を向いていても提げているゼロハリバートンに見間違いはなく、首からもヴィジターであることを示すIDプレートが下げられている。
今日の有勅水さんは、薄茶のパンツスーツというシックな出で立ち。
その如何にも秋らしい装いに、つい一〇日ほど前までのバカ陽気が嘘のように思えた。
「緑内ぃ、密かに観測してるって言う金星ちゃんを拝ませてくれるなら、オレの女神様を紹介してやってもいいけれど、どう?」
「はん、どうって、何だそれ?」
「なら決まりね、胸潰すなよなっ」
有勅水さん、一体ここに何の用なのかは知らないけれど、オレは二人の先頭に立って歩みを速めた。
このままこちらを向かなければ、有勅水さんまで驚かすことができる。
──だってのに、有勅水さんのいるスグ手前で、わずかな出っ張りに蹴躓 いてしまった!
声は何とか押しコロせたのに、オレの背負っていたデイパックのジップが開いていたみたいで、弾みで飛び出した缶ペンケースがアスファルトをたたいて派手に鳴り、無様なまでに中身をバラまく。
慌てふためいて収拾を図るも、遅かりし──こっちを見返った有勅水さんと、バッチリ目が合っちまった。
「今、私をビックリさせようとしたんでしょぉ?」
ニヤリとすると有勅水さんは、足元へ跳ね転がった消しゴムを拾い上げてくれた。
……躓いたのは、女神にイタズラしようとした天罰だったのかも。
「どうもすみません……でも、どしてこんなトコに?」
受けとった消しゴムも、そのままデイパックへ突っ込みながら聞く。
とにかく謎だし、金星のお次はお月様だなんて、なんだかチョット……。
「勿論、水埜クンを捜しに来たに決まってるじゃないの。ポールさんが、この時間ここで待ってれば、必ず見つかるって教えてはくれたんだけど……ね、私もしかして、彼に嫌われてるのかしら?」
「あぁいえ、逆に物凄く関心があるんですよ、冷淡な態度や意地悪までするのは。センパイもバリバリ仕事して実績をあげたいタイプだから、有勅水さんが物凄く羨ましいんでしょうね」
「……そおなの?」
「素直すぎる煩わしさだけれど、腹が癒れば治まりますから。当分気にしないか、真っ向から相手をして、当分を一気に縮めるしかないですね」
「ホントおもしろい素直さねぇ」
「て言うか、大人げなくすることで、もういいオトナだなんて思わせない手口じゃないですかセンパイは?」
「それいいかもぉ……またここも、こじんまりと整ってはいるけど、なんかごたごたと煩わしい雰囲気のキャンパスなのね。眺めてて飽きないわぁ」
笑顔を強める有勅水さんは、軽く辺りへと視線をふり向けながら言う。
「……そうですか? 都心にある大学はどこも大体こんなカンジだと思いますよ。御体裁 程度でも、ここみたく中庭やらグラウンドがあるだけまだマシな方です」
「そおなのねぇ……」
「ええ。理工学部の専門課程なんかまるで巨大なコンクリートの塊で、一応キャンパスと言われていますけれど、一歩踏み込んだら土の地面もなければ、こうして見上げたって空もないんです。アークって蔑称で呼ばれているくらいですから」
「アーク? それって聖書に出てくるノアの方舟 のこと?」
「ですね。震害対策とかで建物全体が水に浮かんでるような構造をしているんです。それと、世界が滅ぶような事態になっても屁でもなく助かって、そこから人類の復興が充分できそうって皮肉までが込められているわけです」
「へ~、そおなんだぁ……」
しっかり首をふって、辺りを見渡しだす有勅水さんだった……。
「それで用って……あ、オレのデザインの商品化が決まったんですか?」
「ン~それはまだなんだけど、まぁ大丈夫よ。今日はその件じゃないの。詳しくはお昼食べながらにしましょうよ。ここ私も入れるんでしょう? なんか中もおもしろそおだし」
「ええ、でもその理工学部の連中が一緒なんですけれど、いいですか?」
そう後ろへと目をやれば、緑内と根上は鯱張 って、視線もオレを透き通し、有勅水さんに釘づけだ。
有勅水さんへは失敗したものの、この二人にしこたま泡を吹かせてやれたようだから、一応ヨシとしとこうか。
けれど、顔は南を向いていても提げているゼロハリバートンに見間違いはなく、首からもヴィジターであることを示すIDプレートが下げられている。
今日の有勅水さんは、薄茶のパンツスーツというシックな出で立ち。
その如何にも秋らしい装いに、つい一〇日ほど前までのバカ陽気が嘘のように思えた。
「緑内ぃ、密かに観測してるって言う金星ちゃんを拝ませてくれるなら、オレの女神様を紹介してやってもいいけれど、どう?」
「はん、どうって、何だそれ?」
「なら決まりね、胸潰すなよなっ」
有勅水さん、一体ここに何の用なのかは知らないけれど、オレは二人の先頭に立って歩みを速めた。
このままこちらを向かなければ、有勅水さんまで驚かすことができる。
──だってのに、有勅水さんのいるスグ手前で、わずかな出っ張りに
声は何とか押しコロせたのに、オレの背負っていたデイパックのジップが開いていたみたいで、弾みで飛び出した缶ペンケースがアスファルトをたたいて派手に鳴り、無様なまでに中身をバラまく。
慌てふためいて収拾を図るも、遅かりし──こっちを見返った有勅水さんと、バッチリ目が合っちまった。
「今、私をビックリさせようとしたんでしょぉ?」
ニヤリとすると有勅水さんは、足元へ跳ね転がった消しゴムを拾い上げてくれた。
……躓いたのは、女神にイタズラしようとした天罰だったのかも。
「どうもすみません……でも、どしてこんなトコに?」
受けとった消しゴムも、そのままデイパックへ突っ込みながら聞く。
とにかく謎だし、金星のお次はお月様だなんて、なんだかチョット……。
「勿論、水埜クンを捜しに来たに決まってるじゃないの。ポールさんが、この時間ここで待ってれば、必ず見つかるって教えてはくれたんだけど……ね、私もしかして、彼に嫌われてるのかしら?」
「あぁいえ、逆に物凄く関心があるんですよ、冷淡な態度や意地悪までするのは。センパイもバリバリ仕事して実績をあげたいタイプだから、有勅水さんが物凄く羨ましいんでしょうね」
「……そおなの?」
「素直すぎる煩わしさだけれど、腹が癒れば治まりますから。当分気にしないか、真っ向から相手をして、当分を一気に縮めるしかないですね」
「ホントおもしろい素直さねぇ」
「て言うか、大人げなくすることで、もういいオトナだなんて思わせない手口じゃないですかセンパイは?」
「それいいかもぉ……またここも、こじんまりと整ってはいるけど、なんかごたごたと煩わしい雰囲気のキャンパスなのね。眺めてて飽きないわぁ」
笑顔を強める有勅水さんは、軽く辺りへと視線をふり向けながら言う。
「……そうですか? 都心にある大学はどこも大体こんなカンジだと思いますよ。
「そおなのねぇ……」
「ええ。理工学部の専門課程なんかまるで巨大なコンクリートの塊で、一応キャンパスと言われていますけれど、一歩踏み込んだら土の地面もなければ、こうして見上げたって空もないんです。アークって蔑称で呼ばれているくらいですから」
「アーク? それって聖書に出てくるノアの
「ですね。震害対策とかで建物全体が水に浮かんでるような構造をしているんです。それと、世界が滅ぶような事態になっても屁でもなく助かって、そこから人類の復興が充分できそうって皮肉までが込められているわけです」
「へ~、そおなんだぁ……」
しっかり首をふって、辺りを見渡しだす有勅水さんだった……。
「それで用って……あ、オレのデザインの商品化が決まったんですか?」
「ン~それはまだなんだけど、まぁ大丈夫よ。今日はその件じゃないの。詳しくはお昼食べながらにしましょうよ。ここ私も入れるんでしょう? なんか中もおもしろそおだし」
「ええ、でもその理工学部の連中が一緒なんですけれど、いいですか?」
そう後ろへと目をやれば、緑内と根上は
有勅水さんへは失敗したものの、この二人にしこたま泡を吹かせてやれたようだから、一応ヨシとしとこうか。