036 _________ ‐3rd part‐

文字数 1,472文字

 オレは、オレのままでは社会に通用しない、そう思い知らされた。大学へ進んで、そのマズさがヤバすぎるってことだけははっきりした。

 在栖川の制服や校名入りのジャージから、私服へと着替えた途端、オレは、他人にはちょうどいいエゴの吐き捨て場になってしまう。
 かと言って、もう制服には戻れない。附属校のジャージも着られない。
 まぁ、制服やジャージを着ていた校内でも、やはり周りから完全にナメられていたことには変わりがなかったんだけれど……。

 それも、どうにかやっとこさ、オレを知る者がほとんどいない環境になったっていうのに、半年以上も経ちながら、制服やジャージに匹敵するアーマーが未だゲットできていない。

 ……セイレネスだ、とにかくセイレネスのジーンズが欲しい。
 ロゴ入りのTシャツも二枚じゃ全然足りない、もっと、もっと欲しいぃ。
 寒くなったら、左袖にセイレーンの型押しがあるライダースジャケットも渇望することになるだろう。
 ナメられないように、ナメられないように、自分のエゴを抑制できないようなアンポンタンどもからナメられないように──。

 精神や意識、人間の中味はそういきなりには変えられない。
 だから、まずは外側から守備力を高めて時間稼ぎだ!

 バイトだバイト、こうなりゃ頭が良いフリをして家庭教師をやっちまうかぁ!
 法学科や経営学科へ進む者とまだ一緒にいる教養課程の学生証を振り翳し、近所の塾講にでも納まっちまおうかっ?
 実力がバレてクビになるまで、ジーンズの一本分くらいは稼げるんじゃないだろうか。
 上手くすればその間にも、ムッシューを手本にした処世術を確立できるかもしれないし!

 そう、ムッシューの無敵さの極意は、オレが思うに結構シンプル。
 
 一、どうせ謝るのなら怒りだされる前に謝る。
 二、余計なことは一切せずに、自分がやりたいことのみをして、あとは相手に

? と、ブチギレられるまで黙ってる。
 三、言いわけは、

と相手が音をあげるまで続ける。
 四、居づらくなったら片意地張らずに、スグその場から一目散に離脱する。
 五、前髪をウザいくらい伸ばす。

 とり敢えずはこの五つで、ムッシューは行路難と言うか人間関係の縺れ合いから、極めてナチュラルに聾桟敷(つんぼさじき)へと追いやられ、結果温(   ぬく)とく目的を達成しているような気がするんだ。
 オレには、ムッシューも無敵‐最強としか言いようがない。

 前髪も、ムッシューくらい長くすれば、シールドが張れて他人に目色が読まれ難くなる。
 もう、オン・ザ・眉毛を口喧しく押しつける体育教師はいないんだから、試さない手はないだろう。
 そうやって、少しずつ、おかしくなく閉鎖的な外見にしていけば、他人に気安く呼び止められる回数が減るんじゃないか? 
 そうなりゃ自然と、嫌な目にも遭わないで済むようになるはずだっ。

 まぁその無敵を目指すための五箇条は、簡潔であっても、完遂するのは容易とまでは言いきれない。
 オレにはこれまでにないレヴェルでの、
 度胸(実は図太さ)、
 根性(実は頑迷さ)、
 忍耐(実は諦念)、
 フットワークの軽さ(実は逃げ足の速さ)、
 といった、
 やはりオレの未熟さから、ムッシューを観察できるまで本質をつかめず、完璧に徒疎(あだおろそ)かにしていたモノが要求されることになる。

 しかしオレの中途半端なウィットや機転、洞察力、状況判断力なんかを鍛えなおすよりも、すっかり捨てちまう方が、ずう~っと楽で即効性があるに違いないから。

 最低限度の努力と苦労は、何をやるにしたって致し方のないことだしね……。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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