022 ディーヴァ(歌姫)って魔物だったり? ‐1st part‐
文字数 1,220文字
▼
僊婆は一応変死扱いということで、嘱託の監察医でもある宝婁センパイの叔父さんが顔を利かせて検案を行い、宝婁総合病院おかかえのエンバーマーにより、御遺体然とした体裁となって夕暮れ前に帰って来た。
その合間に鹿爪 らしく警察が現れたものの、僊婆の死因が既に、階段を踏みはずしての転落事故による頸骨骨折で間違いないとわかっていためか、ざっと形式的な検証だけを済ませて退きあげて行った。
僊婆とは幼馴じみである商店街の顔役連中が手配した葬儀社によって、通夜の支度もきっちりと済まされている。
オレと葉植さんだけが
寒いくらいに空調されたがらんどうのリヴィングに設えられた祭壇の中央、納棺されて横たわる僊婆は、今度はあまりにも端厳な姿。
午前中に見た時とはまた違う意味で、オレの中では現実味が失われた存在と化していた。
でも、ネジ曲がったままで固まっていた腕や脚をきちんと修復してもらえてよかった。これで漸くR.I.P.(安らかに眠ってください)と、心から祈れるというものだろうし。
実感が湧かない内に、そう祈ってしまうのもなんだけれど……。
「じゃー楯クン、お願いー」
葉植さんに促され、庭に面したリヴィングの引き戸を開ける。
室内に籠っていた冷気が、傾きつつある照り込みに尚も灼 き続けられている大気と鬩 ぎ合い、涼しいとまでは言えないにせよ、オレが立っているこの縁側がここで一番快適そうだ。
そしてもう片側の引き戸も、角度を見ながら開き具合を調節する。
エアコンの送風が外気の侵入に負けて、リヴィングの温度が上がってしまうのはマズいから──OK、こんな具合だな。
お棺がある高さから、よく聴 こえるはず。
オレは葉植さんへ合図を返す。
夕陽を受けた草葉が輝く庭の南東側を背にして立つユールが、一つ咳払いをすると、集まっていた御近所さんたちの騒めきはピタリと止んだ。
その微温 くも閑寂 とした空気が、完全に収まるのを確認し終えたかのようにユールは小さく頷き、そして唄いだす──。
前列を占める年寄り連中は、広場の時と同じように各各が持参した折り畳みイスに座っているから、チョットした独演会といった雰囲気には変わりない。
でも、前に聴いた時より声域も透明度も数段高いだろうアカペラで唱される知らない歌は、その詩が英語に似た発音だということと、曲調がレクイエムっぽいということしかオレにはわからない。
わからないけれど、イスに座るほぼ全員がそれに聴き入り、思い思いに嗚咽を洩らし始めている。
オレにも、何やら胸の深い所を打つ、凛としたパワーがカンジられずにはいられない……。
僊婆が認めた彼女を、オレも恭順に、小ナマイキさまでも引っ包めて受け容れてやってもいいかな、と思えるようになったことは確かだ。
僊婆は一応変死扱いということで、嘱託の監察医でもある宝婁センパイの叔父さんが顔を利かせて検案を行い、宝婁総合病院おかかえのエンバーマーにより、御遺体然とした体裁となって夕暮れ前に帰って来た。
その合間に
僊婆とは幼馴じみである商店街の顔役連中が手配した葬儀社によって、通夜の支度もきっちりと済まされている。
オレと葉植さんだけが
チョット頼む
と軽くみんなに託されて、特に用事もなく漫然と留守番役を引き受けていたのだけれど、最近の葬儀屋の手際の良さには、ただただ感服させられるばかりだった。寒いくらいに空調されたがらんどうのリヴィングに設えられた祭壇の中央、納棺されて横たわる僊婆は、今度はあまりにも端厳な姿。
午前中に見た時とはまた違う意味で、オレの中では現実味が失われた存在と化していた。
でも、ネジ曲がったままで固まっていた腕や脚をきちんと修復してもらえてよかった。これで漸くR.I.P.(安らかに眠ってください)と、心から祈れるというものだろうし。
実感が湧かない内に、そう祈ってしまうのもなんだけれど……。
「じゃー楯クン、お願いー」
葉植さんに促され、庭に面したリヴィングの引き戸を開ける。
室内に籠っていた冷気が、傾きつつある照り込みに尚も
そしてもう片側の引き戸も、角度を見ながら開き具合を調節する。
エアコンの送風が外気の侵入に負けて、リヴィングの温度が上がってしまうのはマズいから──OK、こんな具合だな。
お棺がある高さから、よく
オレは葉植さんへ合図を返す。
夕陽を受けた草葉が輝く庭の南東側を背にして立つユールが、一つ咳払いをすると、集まっていた御近所さんたちの騒めきはピタリと止んだ。
その
前列を占める年寄り連中は、広場の時と同じように各各が持参した折り畳みイスに座っているから、チョットした独演会といった雰囲気には変わりない。
でも、前に聴いた時より声域も透明度も数段高いだろうアカペラで唱される知らない歌は、その詩が英語に似た発音だということと、曲調がレクイエムっぽいということしかオレにはわからない。
わからないけれど、イスに座るほぼ全員がそれに聴き入り、思い思いに嗚咽を洩らし始めている。
オレにも、何やら胸の深い所を打つ、凛としたパワーがカンジられずにはいられない……。
僊婆が認めた彼女を、オレも恭順に、小ナマイキさまでも引っ包めて受け容れてやってもいいかな、と思えるようになったことは確かだ。