078 _____________________ ‐3rd part‐
文字数 1,788文字
ナフサさんたちはここへ到着するや否や、ビル側の作業員たちに熟視されてはマズいテントの一式を片づけて、その間、有勅水さんはコンヴィニと鯛焼き屋まで使いっ走り。
今し方の休憩は、いつもより早い時間に呼び集められた、ナフサさんたち六人の遅い朝食タイムだったというわけだ。
有勅水さんとしては、ナフサさんたちにここへ一番乗りして欲しかったのだけれど、急なことだし、朝の渋滞にも引っかかって九時過ぎの到着がやっと。
着いたら着いたで
その苛立ちは当然のごとく、断りもナシにデリケートなあつかいを要するテントをバラしてしまったムッシューへ、
ムッシューは、何の予兆も気配もなく、いつの間にか正気を取り戻しているそうだけれど、今回は、実にムッシューらしく間が悪かったよねぇ。
暗い内に叩き起こしていたとしても、この時期まだ寒くてツラいから、どの道、有勅水さんの御機嫌は損ねてしまったに違いない。
ムッシューなりに気を利かせたつもりだろうに、それでガミガミ詰られたんじゃ、逃げ出すのはむしろムッシューのセオリーだ。
そしてアテもなく、ほとぼりを冷ましていたところをオレたちに発見された。
まぁそれならば、いつにないノりの好さでもって、キャンドルも買いに行こうと言うものだよなぁ……。
他愛 ない疑問は、やっぱり答えも他愛なかった。
おそらく、あの一瞬ゾッとした幻聴らしき声も、葉植さんの自己完結している言い破りも、縦縞と横縞の謎も、結局は、他愛のない説き明かしで腑に落とせてしまえる他愛ない理合 や事由 が待っていると思えてならない。
幻聴と言うとビビるけれど、空耳と言い替えちゃえば何でもないし。
葉植さんがどれだけ博覧強記に理論武装をしていようとも、独りでやり続けるバスケが、どんだけ虚しいかが、実感としてなんかまるでわかっちゃいないんだし。
どうせ自己嫌悪はするんだから、姑息に立ち廻った自分の姑息さにのみ嫌悪して、実害の方はやっぱり避けるのが基本、これは絶対にハズせやしない。
キャンドルの模様にしても、所詮はほんの一興、心ばかりの付加価値でしかないもんねぇ。
中途半端に窺知 をして、無知‐蒙昧さから動揺し、あれやこれやと腐心するだけでヘロヘロに疲れてしまうオレ。
ボコボコの不完全なクセして、洗練された完璧を求めて止まない……不完全だからこそ、欠落を少しでも埋めようって、どうにか体裁を整えているんだという、ポーズだけは見せたい変な見栄っ張り。
ないモノを中途半端にねだってしまうがゆえの、自分ですらも、わけがわからん自家撞着。
だからオレだけ、オレの周りにいるみんなのように、毅然と割りきった生き方ができないんだ。
何事も自己判断のみで、
一旦は斬り捨てて諦めておきながら、あとから拾いなおしをして、斬ったことからして後悔する……やっぱり、後悔するハメになるのかなぁ?
まあ、巧くはいかないんだろうな、やっぱ。こんな調子で実行に移してもマズいし
……いや、違うよな。やっぱり潔くないだけなんだオレは。
「やっぱり、美味しくはなかったかしら?」
「ヘっ!」ヤバッ、ブツブツ口に出しちゃっていたみたい……。
「でもいい品なのよ、値段からして。ナフサったら、インスタントだろうが、淹れる人の心入れによって味が決まるだなんて言うの」
「……あ。いえ……」
「それじゃ、まるで私が、おもてなしの気持がない仕事本位の事務的人間みたいじゃない? そのクセして、男のコより私に淹れて欲しがるんだから、変なトコだけ妙に日本人っぽいのよねナフサはっ」
「そうだったんですね。でもオレ、チョット全く別の考え事をしちゃってただけで……」
「ひょっとして、新しいデザインの修正の件? 私の顔を見て、厳しい現実を思い出しちゃった?」
「え~と、それは、今日中にはムリかもですけれど。明日の朝イチか、遅くても有勅水さんが帰宅しちゃうまでには何とかできると思います」
「そお? まぁ冷めかけた鯛焼きでも齧って、元気にお悩みなさいな少年よ。悩めるのは少年の特権なんだから」
だなんて、有勅水さんは特大サイズの袋の口をオレに向けた。
今し方の休憩は、いつもより早い時間に呼び集められた、ナフサさんたち六人の遅い朝食タイムだったというわけだ。
有勅水さんとしては、ナフサさんたちにここへ一番乗りして欲しかったのだけれど、急なことだし、朝の渋滞にも引っかかって九時過ぎの到着がやっと。
着いたら着いたで
腹減ったぁ
、鯛焼き食べたい
! なもんだから、有勅水さんの虫の居所だって悪くなる。その苛立ちは当然のごとく、断りもナシにデリケートなあつかいを要するテントをバラしてしまったムッシューへ、
どおしてもっと早く連絡しなかったのよっ
! と向けられたみたいだ。ムッシューは、何の予兆も気配もなく、いつの間にか正気を取り戻しているそうだけれど、今回は、実にムッシューらしく間が悪かったよねぇ。
暗い内に叩き起こしていたとしても、この時期まだ寒くてツラいから、どの道、有勅水さんの御機嫌は損ねてしまったに違いない。
ムッシューなりに気を利かせたつもりだろうに、それでガミガミ詰られたんじゃ、逃げ出すのはむしろムッシューのセオリーだ。
そしてアテもなく、ほとぼりを冷ましていたところをオレたちに発見された。
まぁそれならば、いつにないノりの好さでもって、キャンドルも買いに行こうと言うものだよなぁ……。
おそらく、あの一瞬ゾッとした幻聴らしき声も、葉植さんの自己完結している言い破りも、縦縞と横縞の謎も、結局は、他愛のない説き明かしで腑に落とせてしまえる他愛ない
幻聴と言うとビビるけれど、空耳と言い替えちゃえば何でもないし。
葉植さんがどれだけ博覧強記に理論武装をしていようとも、独りでやり続けるバスケが、どんだけ虚しいかが、実感としてなんかまるでわかっちゃいないんだし。
どうせ自己嫌悪はするんだから、姑息に立ち廻った自分の姑息さにのみ嫌悪して、実害の方はやっぱり避けるのが基本、これは絶対にハズせやしない。
キャンドルの模様にしても、所詮はほんの一興、心ばかりの付加価値でしかないもんねぇ。
中途半端に
ボコボコの不完全なクセして、洗練された完璧を求めて止まない……不完全だからこそ、欠落を少しでも埋めようって、どうにか体裁を整えているんだという、ポーズだけは見せたい変な見栄っ張り。
ないモノを中途半端にねだってしまうがゆえの、自分ですらも、わけがわからん自家撞着。
だからオレだけ、オレの周りにいるみんなのように、毅然と割りきった生き方ができないんだ。
何事も自己判断のみで、
Yes
!No
! と快刀乱麻になんて一刀両断していけない。一旦は斬り捨てて諦めておきながら、あとから拾いなおしをして、斬ったことからして後悔する……やっぱり、後悔するハメになるのかなぁ?
まあ、巧くはいかないんだろうな、やっぱ。こんな調子で実行に移してもマズいし
……いや、違うよな。やっぱり潔くないだけなんだオレは。
「やっぱり、美味しくはなかったかしら?」
「ヘっ!」ヤバッ、ブツブツ口に出しちゃっていたみたい……。
「でもいい品なのよ、値段からして。ナフサったら、インスタントだろうが、淹れる人の心入れによって味が決まるだなんて言うの」
「……あ。いえ……」
「それじゃ、まるで私が、おもてなしの気持がない仕事本位の事務的人間みたいじゃない? そのクセして、男のコより私に淹れて欲しがるんだから、変なトコだけ妙に日本人っぽいのよねナフサはっ」
「そうだったんですね。でもオレ、チョット全く別の考え事をしちゃってただけで……」
「ひょっとして、新しいデザインの修正の件? 私の顔を見て、厳しい現実を思い出しちゃった?」
「え~と、それは、今日中にはムリかもですけれど。明日の朝イチか、遅くても有勅水さんが帰宅しちゃうまでには何とかできると思います」
「そお? まぁ冷めかけた鯛焼きでも齧って、元気にお悩みなさいな少年よ。悩めるのは少年の特権なんだから」
だなんて、有勅水さんは特大サイズの袋の口をオレに向けた。