042 _______________ ‐3rd part‐
文字数 1,778文字
いやっ……そうじゃない、どして緑内がそんなことまで!
「おまえっ、ヤケに詳しくないか? ムッツリ観測し続けやがって、あそこにいたオレに気づいた時点で声かけろっての」
「別にぃ、単なる連想の想像だし。あそこの地主だった婆さんが死んだから、工事になったとしか聞いてない。そこに、さっきの有勅水さんの急用がつながっただけ~」
「ったく……」
「第一おまえの知り合いだなんて、怪しげだろうが両隣の女子たちにバレたかないね、声なんか絶対かけられるもんか」
こんの野郎~……まぁな、逆の立場だったら、オレも間違いなく見なかったことにするもんなっ。
「あぁそうそう、公園へのぬけ道の途中にあった洋館って、あの僊河青蓮の実家だったんだってね。水埜の言うお婆さんってのは、つまり僊河青蓮の母親ってことなんだろう? その、つい先日に亡くなった」
「誰だそれ、不倫‐心中ネタでもお得意にしてる脚本家かよ?」
「デザイナーだよ、一昨年に二度目のアカデミー賞をとった世界的に有名な。セイレネスって人気ブランド知らないのか?」
「あ~セイレネスなら無論知ってる。何を隠そう今日穿いているパンツ、セイレネスのだぜ」
「ウッソ!」
オレは思わず腰かけたまま、テーブルの下まで上体をヒネらせながら横にして、緑内が穿いているチノパンを覗き見る。
「そんな覗き込んだって見えやしねぇよ、イヤン、スケベ~」
「おまえ、パンツって下着の方かよ。意味ね~、それに勿体ね~」
「真のオシャレさんと言ってくれ。誕生日に妹のヤツがくれたんだ、勝負パンツのつめ合わせってな。あ、ってことは俺、今日は天王山だったのかぁ? 遅かりし由良之介たぁ、これ如何にぃ~」
いい加減、オレよりも根上が先に緑内の戯れまくりに呆れだした。
「ホントつき合いきれないね。次の講義も一緒とは、俺もガチで氏名順のセクション制なんて廃止を訴えたくなってくるよ」
オレももう、まともに緑内の相手をするのは止そうっと。
きっと、有勅水さんの魅力でおつむのネジが幾つか飛んじまったんだ。
……根上も、急に一人で考えを巡らせ始めたらしく、肘を突いた手で顎の先を抓みながら視軸でページでも捲るみたいに、繰り返し左から右へと眼球を動かしていた。
やっぱり根上も、どこかイカレたのかと自己確認しているのかも。
「根上、今度はオレがお茶淹れて来ようか?」
「ん? いや、お茶はいいよ……実はさ。水埜に聞きたいことがあったんだよ、その僊河青蓮の母親のことでさ。忘れるところだった」
「何? あらたまって」
「有勅水さんも、またまたとか言ってただろ? 近頃さ、目立ったニュースにこそなっていないけど、独居老人の自宅内での事故死ってのが結構多発してるんだ。オレがよく書き込みするスレでも、ちょくちょく話題になってる」
「何だぁ、根上おまえ、今どきまだBBSに書き込みなんかやってんの? アカウント登録が要らないヤツもあるからってか? 邪知深さ甚 だし~、共通の趣味を隠れ蓑にした純情出逢い系なんだろ、その実はっ」
「もう、そのテンション止めろよ緑内。いつまでもしつこいと、今度有勅水さんが大学に来たって、おまえにだけ声かけないぞ。そう言った立場ならオレとおまえじゃ違うんだからなっ」
「チェ~ッ。何だってんだよなぁ」
これはとり敢えず効いたみたいで、緑内は口唇を尖らせつつも音無 しくなった。
「で、その話の続きは?」
オレは緑内に念押しの意味を込め、大げさに根上の方へ向きなおる。
「……あのさ、その僊河青蓮の母親って、一体どんな風に亡くなったのかな? 詳しく教えて欲しいんだ。その件でこの前チョット書いたらさ、もっと詳しく情報をくれってせがまれちゃって……」
僊婆の死亡事故についても、別段新聞記事などにはなっていない。
あの日に出前をとった天ぷら屋の同級生は、オレよりも根上とつながりがあって、そこから諸事情が根上の耳にも届いていた。
どうやら、僊婆の家で単に留守番をしていたオレが、お重の受け下げの両方を応対したことから、事の一切に関わっているかのように根上へ伝わってしまったみたいだ。
そして根上の知り及ぶところでは、今年の四月から今月までの間に北関東を中心として、家屋内もしくは自宅の敷地内での事故により、二二人もの老人が死んでいて、その全てが世間的には何の疑いもなく葬送されていた……。
「おまえっ、ヤケに詳しくないか? ムッツリ観測し続けやがって、あそこにいたオレに気づいた時点で声かけろっての」
「別にぃ、単なる連想の想像だし。あそこの地主だった婆さんが死んだから、工事になったとしか聞いてない。そこに、さっきの有勅水さんの急用がつながっただけ~」
「ったく……」
「第一おまえの知り合いだなんて、怪しげだろうが両隣の女子たちにバレたかないね、声なんか絶対かけられるもんか」
こんの野郎~……まぁな、逆の立場だったら、オレも間違いなく見なかったことにするもんなっ。
「あぁそうそう、公園へのぬけ道の途中にあった洋館って、あの僊河青蓮の実家だったんだってね。水埜の言うお婆さんってのは、つまり僊河青蓮の母親ってことなんだろう? その、つい先日に亡くなった」
「誰だそれ、不倫‐心中ネタでもお得意にしてる脚本家かよ?」
「デザイナーだよ、一昨年に二度目のアカデミー賞をとった世界的に有名な。セイレネスって人気ブランド知らないのか?」
「あ~セイレネスなら無論知ってる。何を隠そう今日穿いているパンツ、セイレネスのだぜ」
「ウッソ!」
オレは思わず腰かけたまま、テーブルの下まで上体をヒネらせながら横にして、緑内が穿いているチノパンを覗き見る。
「そんな覗き込んだって見えやしねぇよ、イヤン、スケベ~」
「おまえ、パンツって下着の方かよ。意味ね~、それに勿体ね~」
「真のオシャレさんと言ってくれ。誕生日に妹のヤツがくれたんだ、勝負パンツのつめ合わせってな。あ、ってことは俺、今日は天王山だったのかぁ? 遅かりし由良之介たぁ、これ如何にぃ~」
いい加減、オレよりも根上が先に緑内の戯れまくりに呆れだした。
「ホントつき合いきれないね。次の講義も一緒とは、俺もガチで氏名順のセクション制なんて廃止を訴えたくなってくるよ」
オレももう、まともに緑内の相手をするのは止そうっと。
きっと、有勅水さんの魅力でおつむのネジが幾つか飛んじまったんだ。
……根上も、急に一人で考えを巡らせ始めたらしく、肘を突いた手で顎の先を抓みながら視軸でページでも捲るみたいに、繰り返し左から右へと眼球を動かしていた。
やっぱり根上も、どこかイカレたのかと自己確認しているのかも。
「根上、今度はオレがお茶淹れて来ようか?」
「ん? いや、お茶はいいよ……実はさ。水埜に聞きたいことがあったんだよ、その僊河青蓮の母親のことでさ。忘れるところだった」
「何? あらたまって」
「有勅水さんも、またまたとか言ってただろ? 近頃さ、目立ったニュースにこそなっていないけど、独居老人の自宅内での事故死ってのが結構多発してるんだ。オレがよく書き込みするスレでも、ちょくちょく話題になってる」
「何だぁ、根上おまえ、今どきまだBBSに書き込みなんかやってんの? アカウント登録が要らないヤツもあるからってか? 邪知深さ
「もう、そのテンション止めろよ緑内。いつまでもしつこいと、今度有勅水さんが大学に来たって、おまえにだけ声かけないぞ。そう言った立場ならオレとおまえじゃ違うんだからなっ」
「チェ~ッ。何だってんだよなぁ」
これはとり敢えず効いたみたいで、緑内は口唇を尖らせつつも
「で、その話の続きは?」
オレは緑内に念押しの意味を込め、大げさに根上の方へ向きなおる。
「……あのさ、その僊河青蓮の母親って、一体どんな風に亡くなったのかな? 詳しく教えて欲しいんだ。その件でこの前チョット書いたらさ、もっと詳しく情報をくれってせがまれちゃって……」
僊婆の死亡事故についても、別段新聞記事などにはなっていない。
あの日に出前をとった天ぷら屋の同級生は、オレよりも根上とつながりがあって、そこから諸事情が根上の耳にも届いていた。
どうやら、僊婆の家で単に留守番をしていたオレが、お重の受け下げの両方を応対したことから、事の一切に関わっているかのように根上へ伝わってしまったみたいだ。
そして根上の知り及ぶところでは、今年の四月から今月までの間に北関東を中心として、家屋内もしくは自宅の敷地内での事故により、二二人もの老人が死んでいて、その全てが世間的には何の疑いもなく葬送されていた……。