092 _______________ ‐2nd part‐
文字数 1,521文字
なんだか、寒さも手伝って身震いがしてくる。
勿論そんな心霊的な現象など信じられないから、オバサンの常軌の逸し具合にだけれど。
でも、オバサンを、こんな風に奇矯 にさせる何かが起きたことは確かだな。普段は至ってまともそうな人だったはずだから。
「アラァ~、やってくれちゃったのねぇ。警察に因縁つけられるんじゃないかしら? 明日はただでさえ忙しいってのに」
ここまで急いで来たらしく、そうこぼす有勅水さんも、白い吐息が弾んでいた。
そして、コートの上から引っかけていたマフラーを、オレの首に手際良く巻きつけてもくれる。
「寒いのにゴメンね水埜クン。それで、もおチョット待ってて」
有勅水さんは、まるで早撃ちのようにとり出して、何一つ確認せずにかけたスマホを耳元へと運び、出た相手へ事故が起きてしまったことを、愚痴りながらも敬語で伝え始めた。
どうやら年上の同僚に、これからスグの補修作業を依頼するようお願いしているみたいだ。
とにかく工事現場の塀だから、とり敢えず明日、明るくなってから、というわけにはいかないんだろう。
お次は有勅水さん、通話を終えたスマホをかまえて、クルマが突っ込んでいる部分を中心に事故の状況を撮り始めた。
また何か騒がしくしているオバサンも気になるけれど、有勅水さんの行動もかなり怪しげなふるまいに映る。
しかし、内蔵されているカメラ性能がいくら高くたって、所詮はスマホの付属機能。夜の、それも野外の事故現場を、肉眼同様レヴェルの映像として撮影するには難があった。
そこで有勅水さん、今度は近くに突っ立っていた中間管理職風のオジサンを捕まえて、クルマが突っ込んだ塀には、工事中を示す標識や、進路を誘導するタイガーカラーの表示がちゃんとあること。 塀の内側から道路へ事故の原因になるような、強い照明なんかは一切洩れていないこと。などを丁寧なまでに説き聞かせだす。
おそらく、さっき嘆いていた警察への対応のための、証人づくりをしているんだ。証拠映像が上手くいかなかったもんだから。
スマホをマイクのように扱っているところから察するに、オジサンとの会話を録音しているのではあるまいか?
もしそうなら、なんて念の入れようだろう。
僊婆の死亡事故の件を、一手に引き受けたことで、警察のウザさが身に沁みているのかもしれないけれど、またその機転の良さが、却って不審感を懐かれることになるんじゃないのかなぁ?
いつもの鮮やかな笑顔と、憎めない押しの強さで、オジサンと名刺交換ばかりか、いざという時の証言のお願いまで取りつけた有勅水さんは、オジサンに深深と頭を下げてから、オレの方へ戻って来る。
「お待たせぇ。熱ぅ~い紅茶でも飲みに行こっか? 体を温めにチョットだけ。このまま水埜クンを、あの寒いプレハブに帰らせて、風邪でもひかせたらマズいもんねっ」
「えっ? これから業者が、塀の補修作業に来るんじゃないんですか? それに警察への対応とかは?」
今やパトカーの、けたたましく横暴そうなサイレン音も、遅ればせながら、聞こえてきていることだし……。
「いいわよ。塀の指示はもう出したし、別に事故の瞬間を目撃してるわけじゃないんだから。それにたぶん、チョットお茶するくらいなら、警察はまだウロウロしてるわよ。塀をなおすのもそれからになるし……あぁ~、長い夜になりそうだわぁ」
「そう言うことですか……でも有勅水さん、この塀をつくってる溝型材って、ほとんどが鉄じゃなかったんですね? あんなにこまかく砕けちゃって、一体何でできているんです?」
オレは、突っ込んだクルマ周辺の路面を指し示すことで、これまで、すっかり欺かれていた無念も込めた主張に代えておく。
勿論そんな心霊的な現象など信じられないから、オバサンの常軌の逸し具合にだけれど。
でも、オバサンを、こんな風に
「アラァ~、やってくれちゃったのねぇ。警察に因縁つけられるんじゃないかしら? 明日はただでさえ忙しいってのに」
ここまで急いで来たらしく、そうこぼす有勅水さんも、白い吐息が弾んでいた。
そして、コートの上から引っかけていたマフラーを、オレの首に手際良く巻きつけてもくれる。
「寒いのにゴメンね水埜クン。それで、もおチョット待ってて」
有勅水さんは、まるで早撃ちのようにとり出して、何一つ確認せずにかけたスマホを耳元へと運び、出た相手へ事故が起きてしまったことを、愚痴りながらも敬語で伝え始めた。
どうやら年上の同僚に、これからスグの補修作業を依頼するようお願いしているみたいだ。
とにかく工事現場の塀だから、とり敢えず明日、明るくなってから、というわけにはいかないんだろう。
お次は有勅水さん、通話を終えたスマホをかまえて、クルマが突っ込んでいる部分を中心に事故の状況を撮り始めた。
また何か騒がしくしているオバサンも気になるけれど、有勅水さんの行動もかなり怪しげなふるまいに映る。
しかし、内蔵されているカメラ性能がいくら高くたって、所詮はスマホの付属機能。夜の、それも野外の事故現場を、肉眼同様レヴェルの映像として撮影するには難があった。
そこで有勅水さん、今度は近くに突っ立っていた中間管理職風のオジサンを捕まえて、クルマが突っ込んだ塀には、工事中を示す標識や、進路を誘導するタイガーカラーの表示がちゃんとあること。 塀の内側から道路へ事故の原因になるような、強い照明なんかは一切洩れていないこと。などを丁寧なまでに説き聞かせだす。
おそらく、さっき嘆いていた警察への対応のための、証人づくりをしているんだ。証拠映像が上手くいかなかったもんだから。
スマホをマイクのように扱っているところから察するに、オジサンとの会話を録音しているのではあるまいか?
もしそうなら、なんて念の入れようだろう。
僊婆の死亡事故の件を、一手に引き受けたことで、警察のウザさが身に沁みているのかもしれないけれど、またその機転の良さが、却って不審感を懐かれることになるんじゃないのかなぁ?
いつもの鮮やかな笑顔と、憎めない押しの強さで、オジサンと名刺交換ばかりか、いざという時の証言のお願いまで取りつけた有勅水さんは、オジサンに深深と頭を下げてから、オレの方へ戻って来る。
「お待たせぇ。熱ぅ~い紅茶でも飲みに行こっか? 体を温めにチョットだけ。このまま水埜クンを、あの寒いプレハブに帰らせて、風邪でもひかせたらマズいもんねっ」
「えっ? これから業者が、塀の補修作業に来るんじゃないんですか? それに警察への対応とかは?」
今やパトカーの、けたたましく横暴そうなサイレン音も、遅ればせながら、聞こえてきていることだし……。
「いいわよ。塀の指示はもう出したし、別に事故の瞬間を目撃してるわけじゃないんだから。それにたぶん、チョットお茶するくらいなら、警察はまだウロウロしてるわよ。塀をなおすのもそれからになるし……あぁ~、長い夜になりそうだわぁ」
「そう言うことですか……でも有勅水さん、この塀をつくってる溝型材って、ほとんどが鉄じゃなかったんですね? あんなにこまかく砕けちゃって、一体何でできているんです?」
オレは、突っ込んだクルマ周辺の路面を指し示すことで、これまで、すっかり欺かれていた無念も込めた主張に代えておく。