248 「…………」 ‐1st part‐

文字数 1,205文字

「ボクが誘いかけた、ドローンによる気配とスピーカからの音を勝庫織莉奈が追えば、根上クンも、クルマを降りてついて来ざるを得ない」

「…………」

「そうして、勝庫織莉奈を、曲がり角の先まで来させてしまえば、一応ボクも男なんで、包丁一本で従わせることはできる。あとの作業の一切は、改造エアガンの銃口を向けて、根上クンに命じればいいんだし」

「……やっぱり。脅されて、根上は……」

「彼が、自分の度ハズレた猟奇趣味の負い目から、ジェントルにふるまおうとするタイプだってことは、把握済みだしね。エアガンの殺傷能力の方も、今は()きメイカー名を出しただけで理解してくれた」

「……根上は、悪くない。そんな風に言わないでよ」

「悪口じゃないよ、ただボクのつけ入る隙が、そこにあったことを述べてるだけ。彼から聞き出すのは簡単だった。ボクにとってマズい情報をどこまで知ってて、どこかに保存してないかってことをね。悪くないとは思えないけど、確かにウソの吐けないヤツだった」

「…………」

「人は処世術として、ウソを並べ立てるタイプと、余計なことは黙っておこうとするタイプに大別できる。彼はアッパレなぐらい、ウソより沈黙で凌ごうとする性分だね」

「…………」

「ウソを並べ立てる人間はスグわかるけど、信用できないってことがはっきりするだけで、発言の一体どれがウソで、どれが真実かまでは、判別しきれないから厄介だよ」

「…………」

「勝庫織莉奈は、そんなウソをウソで固める性分、現実でも〈ルエ・テイルワル〉のまんま。だからボクだって、したくもない拷問に、本腰を入れなくてはならなかったんだ」

「…………」

「そもそも、根上クンから情報を引き出すためにしたことだけど、彼を殺して見せたあとは、さすがに彼女も正直になってくれたよ。何しろまだ一三歳だからね、演歌の呪いについての諸諸を、手書きで保存している可能性がたっぷり、案の定ノートで丸一冊もあった」

「…………」

「彼女の部屋に忍び込んで、始末する方が一苦労だったよ。彼女に交換させた空の財布や、トートバッグも仕舞っておかなければならない」

「…………」

「ブロック塀から木の枝にぶら下がって、一階の屋根に飛び移るのも、夜露で塗れた瓦を二階の窓まで歩くのも、このボクには冷や汗モノだ。移動には、現地調達しておいた原付バイクを使ったけど、まだ寒くて、夜が長い時季だってことにも助けられた」

「……バイク、乗れたんだ? それに、そんな大胆なことまで」

「人を殺しておいて、警察の目までを欺こうってゆうんだ、当然のことでしょ。繊細なことだって、勿論ミスなくキッチリやらなくちゃいけない」

「…………」

「怨みなどない根上クンの胸を、さも深い怨みがあるかのように何度も刺したり。実際ボクしか握っていなかった包丁に、二人の指紋を残したり。根上クンの出血を、勝庫織莉奈へ返り血のように付着させるのだって、精微さが要求される作業だ」

「…………」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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