274 _____________ ‐3rd part‐

文字数 1,326文字

 何が気紛れモードだか? ミラノも、愉しいことになってるとか言っていたけれど、とんでもない。

「だからー、この彼女たちは、現代の冥界神によって創造された怪物。勇気と知恵と幸運をかね備えた英雄が現れるまで、人間の愛欲や情痴に溺れ易いとゆー、宿罪を裁くのが、セイレーンたちの機能なんだよ」

「機能って、それで片づけちゃ……」

「その結果として、事故る人が出たとしてもー、それは自業自得ってことなんだ」

「いや、そこまでは自業自得じゃないでしょ? やっぱり……」

「それ以外の大多数の人人は、やはり神話のオルペウスやイアソンのよーに、歌声の誘惑に勝って、無事行き過ぎてるんだからー」

「そんな……神話を引き合いに出されても」

「ボクの聞いた話だとー、その胎児は事故の前から死んでたー。クルマを運転していたオバサンがー、家で身重(みおも)の娘とケンカして、突き飛ばしちゃったんだー」

「えぇっ?」

「それで、娘の体調が急変したから、家に救急車を呼べなくてー、自分でクルマで運ぶ途中に事故ったのー。セイレーンたちは、その母親の言ーのがれに利用されたにすぎないねー」

「それってホントに?」

「ホントー。その娘は不倫相手の子供を身籠っててー、未婚の母になろーとしてた。だからオバサンは、もースグ産まれるってゆー時期なのに猛反対。毎日のよーに言ー争ってて、その内そんなことになるんじゃないかーって、近所の人たちに多からずだけど不安視されてた」

「……そう、だったんですか……」

「大体、下の道路は、記念公園の周囲は全~部が徐行区間だよ。それをきちんと守っていればー、セイレーンたちの歌声を聴いたとしても、曲がりきれずに事故るなんてことはないー」

「じゃぁ……布団屋のオヤジも、ピザ屋のバイトも、事故の直接の原因は、自分にあるってわけ?」

「そー。第一、あのオヤジ、何時に事故ったと思ってるー?」

「……さぁ? その辺は、聞いたとしても忘れちゃってます……」

「ちょうどボクらが、今夜ここへ集まりだした頃だよー。そもそも何で、こんな(おそ)くにここにしたかってゆーと、町の自警団とお(まわ)りのパトロールが、朝刊の配達時間までは来ないからなんだ」

「……そんなことまで?」

「ボクは、ムッシュさんがザ・レルム・オブ・ザ・シェイズじゃないかーと、遅まきながら、このセイレーンたちが完成しちゃってから、思うようになってー。彼女たち自体や、歌声を鑑賞するため、チョクチョクここへお邪魔してたんだー。だからよく知ってるのー」

「チョクチョクお邪魔って、どうやって? 布団屋のオヤジが事故った頃なら、まだ高塀が、ここを囲っていたはずだよね?」

「そんなのー、本気で入ろーとすれば誰だって入れるよ。一度入っちゃえば、ボクのやりたーい放題の自由自在だし」

「…………」

 なんだか、ホントとんでもないよなぁ、この人は。……って、人なんだろか? ガチに、マジで。

「だからー、ここへ忍び込んだボクが警戒しながら、塀の外へ出て帰る時ー、深緑のジャガーが、公園の東門付近に駐まってるのを、何度か見かけた。布団屋のオヤジが、そこで何をしてたのかとゆーと、

だねー。バカップルが現れないかと張り込んでたんだー」

「のぞき? ……まだ、かなりの寒空だったのに?」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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