142 時効がなくなってツラいのは犯人だけじゃないんだよね ‐1st part‐

文字数 1,264文字

 激痛から我に返った時には、コンロ台と冷蔵庫の狭間にすっぽり、オレの仰向けに倒れた上体がハマっていた。

 さらには、オレの胸から下にもミラノさんが乗っかかっていて、痛いわ、重いわ、息苦しいわ……。

 何でこんな目に遭ったのか? オレはまた、知らず知らずに、ミラノさんの癇に障ることまで言ってしまっていたのか?

「大丈夫だよ水埜楯っ」

「ん~ホント? ミラノさん、どこもぶつけたりしてない?」

「違うんだよ。私がオトナになれたら、水埜楯の子供を産んで、幸せに育ててあげるんだよ」

「……って?」

「やっぱりオトナになれなくたって、水埜楯と出会えたから、私はずぅ~と幸せだよ、ノイローゼなんかならないない。今は古代ローマじゃないもん、プレブスもパトリキも関係プ~。一〇歳で、水埜楯をリフラフとまで言っちゃった同級生の方が、クズクズ人間だよっ」

「──それじゃミラノさん、ホントに?」

「ウンウン。嬉しい嬉しい、好きじゃなくならないでくれて」

「それは、別に当然でしょ。それより、ホントにオレの、人の心の中が見えるわけっ?」

「ウ~ン、よくわかんないよ。私には、私の目で見てるモノが一番はっきり見えてるもん。でもなんか、ただ何となくわかるんだよ。声とか音とかも聞こえてくるし、ニオイや味や、触ったカンジまで一緒になって、ユラユラしてるんだよ」

「……ユラユラ?」

「別に手を握らなくてもいいんだよ。手を握っちゃうのは、ユラユラだけじゃなくてグルグルもしてたりするから、それを押さえるためなんだよ。押さえきれない時がほとんどだけど、つい押さえたくなっちゃうんだよ」

「……それって、やっぱり見えているからじゃないの?」

「違うんだよ。私に見えているモノが、ユラユラしたりグルグルするわけじゃないもん」

「…………」う~ん、オレにもさっぱりわからない──。

「だけどまだまだ、水埜楯の同級生を殺した男が誰なのかは、教えられないんだよ」
 
「へっ?」

「ヴィーは今ね、ロビーの天井まで吹きぬけてて広~い、壁いっぱいいっぱいに天国の画が描かれてる、たぶん病院にいるよ」

「そこって──」宝婁センパイんチの病院だ!

「ヴィーが自分の首をナイフで刺して死のうとしたのを、止めようとして、逆に大ケガさせちゃった友達と一緒にだよ」

「……ガチで?」

「ヴィーはね、気分が好くなるクスリを、その人からもらって呑んで、大暴れしたんだよ」

「って……」

 でも、クスリだなんて……隣町近辺で、まだ危険ドラッグじゃないとか言って売られてる幻覚ハーブとかか? それをヴィーが?

「ヴィーのこと、医者がケーサツに通報するべきだって言ってて。その医者は、ケガさせた友達と違って、おカネをいっぱい払うことじゃ許してくれそうもないから、入院しないで、スグ違うどこかわかんないトコへ移されちゃう」

「そりゃ、センパイんトコなら当然の対応だけれど……わかんないトコって、どこなんだろ一体?」

 それも、知識にない日本のどこかなら当然か。情景とかが具体的にわかっても、ミラノさんには、オレにわかるようになんて説明できないだろうし。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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