135 _______________ ‐3rd part‐

文字数 1,529文字

 ま、いいか。

 どうせ問い詰めたところで、またガキのあしらいをされるに決まっているし、どうであれ、オレは、有勅水さんに一応ゴネてみせたあとで、許すってことも決まってるんだし。
 これも、もはや慣れなんだって、言えないでしょうかナフサさん……。

 想起されたあの超偉丈夫には、鬼レアな今のオレの高ぶりも急速冷却されちまうよねぇ。

 でもって思い返してみれば、オレは全然何も知らなかったわけではなく、この時期にこうなることは去年しっかりと説明されていたんだし。
 ただ単に、オレがこうなるってことをしっかり認識できていなかった、それどころか、すっかり忘れてしまっていただけで──。

 なんだかやっぱりアホガキだよなぁ、オレ……誤解されたまま通話をきられて、むしろラッキーだったのかも。
 だけど、とりあえず、有勅水さんと言葉を交わせてよかった。過剰な自意識や妄想による誰かの視線までもが、どこかへ消散してくれていた。

 ……オレも早く、働くオトナになりたいよ。そうすれば、毎日仕事に追われて、イチイチ魂消たり、腹を立てているヒマがなくなるだろうし。

 でもなぁ、追われても、オレがバリバリ片づけられるような仕事って、一体何なんだろ?
 要するにオレは、

ってタイプの人間じゃないんだ。
 何が起こるか予測のつく範囲で、わかかりきったことに精を出せて始めて、愉しさとかにまで気をまわしていける歯車タイプ。

 結局、今のところは、オレが何の歯車なのかがわかっていない、だから困る。
 今日みたいに、いきなり怪態なからくりに嵌められたって、上手いこと機能なんかできやしない、だからツラい。

 人生、思うようにならないからこそ、生きていることに飽きないんだ。なんて言う人の気が知れないね。
 自分なりに必死コいてガンバったのに、一つも思うように上手くいった(ためし)がないオレには、物凄い嫌味だ。
 
 ……なんだか、やっぱりオレってアホガキ。去年から全然成長できてないみたい。
 嗚呼、早く帰ってレポートをバリバリ書きたいぃ。



 デパートをあとにしてからは、ミラノさんととりあえず明治通りに出て、ぶつかった竹下通りを原宿駅に向かって歩いてみた。 
 けれども、ヴィーを発見することはできず終い。

 無一文の上、財布の中のメタリックなカードと同様に、桁ハズレな限度額でクレジットとキャッシングが利くスマホまでもっていない現在だから、ヴィーは絶対に仲間に助けを求めるはずだ。

 しかし、これ以上捜すにしても心当たりなんか全然ないし、それならば、むしろ反対の方角になる恵比寿を目指すべきだった気もする。

 ──もっと歩き廻りたいと駄駄を捏ねるミラノさんを、(なだ)(すか)しつつ家へと帰ってみたが、やはりヴィーは戻っていない。
 なのでオレは、待ちぼうけにされたことに憤慨する熱血・ド・トリオから、非難の矢面に立たされるハメにまでなった。

 そしてオレが、「当分ここへは、帰って来ないかもしれませんよ」と告げると、ド・トリオは暫しの協議。
 その末に、男性秘書のハーヴァー・ド・鵠海(こくみ)を残し、スタンフォー・ド・新城(しんじょう)とオックスフォー・ド・牛津(うしつ)の女性秘二人で、ヴィーの捜索へと出かけて行った。
 メインぬきでは、さすがに必勝セミナーは開講できないし。

 でも、そんなことオレには関係ない。
 脱いだ礼装、と言うより、セイレネスの真髄であるネラストロ(黒系)‐コーデ一式を丁重にハンガーへ掛け終えたあとは、それらの余清(よせい)に浸りつつ、ダイニングテーブルでレポートの続きを書き始めることにする。

 レポートを書いていれば、ミラノさんも邪魔はしてこないし、それに何より、PCのキーをたたいているのが、今のオレには一番落ち着ける。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み