308 ______________ ‐1st part‐

文字数 1,183文字

 葉植さんが、身の安全の保証はできないと直隠(ひたかく)しにしていた、ミラノもただアタリとだけで、言明を避けていた忌名(いみな)だったのに、とうとう確然と言われて確然と聞いちまった。
 それも、ヴィーなんかから唐突に、まるで脈絡もなく……。

 この状況も、やはり関係ないオレなんかが、ヘタに事件の真相に近づきすぎたその咎殃(きゅうおう)ってことなんだろか? 

「どうなのぉ? どうなんだよ楯っ。正直に言わなきゃ刺す! モォ~答え次第じゃガチに刺すっ!!」

「……な、何なんだよ……そりゃぁ一体……」
 
「アタシが、アタシがこの一箇月、どんだけ死ぬ思いをして、今のアタシになったか知らないだろっ。誰のためにそんなガンバったと思ってんだ! モォ~ヤダッ、全部ヤダヤダッ。モォ絶対ガンバんない、全部やめたっ」

「…………」

「あれだけやっても手に入らない楯なんか、モォ要らないっ。楯にそんな価値ない! 今のアタシには、楯以上の男が選りどり見どりでウジャらけてんだからぁ!! ユールに掠めとられるくらいなら、楯なんかアタシが壊して、ダメダメの台ナシにしてやるうぅっ!!!」

 がぁ! ──さ、刺されたっ。
 ……と言うより、ナイフの刃が、オレの首の付け根辺りから、鎖骨を過ぎて、ズブズブ下へと、裂きメリ込んでいっちまう……痛いのに、痛いとか言ってるレヴェルじゃないっ。

≪──ミラノォ、オレ、やっぱりダメダメだった……結局ヴィーに、鍛えた体で、自信があったはずの体力で負けちまったぁ──≫

 失いかけた意識は、階段を転がり落ちる衝撃と、それが伝わった傷口からの火を噴くような激痛で、しっかりと戻ってしまった。

 ……しかし、そのお蔭で体を庇い、どうにかナイフの刺さり具合を、さらに悪化させずに済ますことができた。

 もう、本当に痛いんだか、熱鉄を注がれてるのか、感覚的にわからないけれど、こういう場合も、この、刺さってるナイフは抜かない方がいいんだろか……。

 あらためて、オレから突き立つ柄の根元を見てみれば、かつて一度だけ目にしたことがある大量の血が、大切な今日おろしたてのブルゾンを、とり返しがつかないくらい汚してる……。

 それ以前に、もう掻い繕うのもムリそうに切り裂かれて、オレの劣弱な大胸筋の上部とともに、パックリ口を開けていやがる。
 ホント台ナシだ。これって、買うと高いのにぃ……。

 ったく。中にミラノ特製スパイダーニットも着てたってのに、襟刳(えりぐ)りの上から刃先が喰い込んだもんだから、全く役に立ってくれてない──。

 ……血って、物凄く錆臭いモノなんだな。
 それと、骨とか筋肉とか、皮膚一枚でしか隔てられていないってのに、自分の中身だとはまるで思えない。

 存外、何とも言えないキレイさなんだぜ。おまえは、それに気づけてたかよ緑内?

 ……きっと根上も暗くって、よく見えやしなかったろうな……。 
 
 なんだか、とっても静かだった──。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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