098 ________________ ‐2nd part‐

文字数 1,776文字

 オレは、明王どもの一瞬唖然とした表情に内心で

! もう、意気揚揚でミラノさんと玄関へ向かう。

「水埜楯、顔がスケベエになってるぅ」
 
「違います、これはね、したり顔って言うんです。ミラノさんもオレを驚かせて、しょっちゅうしているでしょ?」

「したい顔? やっぱり、なんだかスケベエじゃん」

 ……じゃん、だってミラノさんが。
 こりゃ、随分早ばやと、オレたちに侵染(しんせん)されちゃったもんだよねぇ。愛いヤツ愛いヤツ。

 ミラノさんとオレが、朝メシと着替えを済ますまで、既に今日のスタンバイがOKだったトリノさんに、明王どもの相手をしてもらう。
 さすがにイタリア語だと、ついていけない者が出るようで、しばらくすると一六畳のLD半分では、ネイティヴも舌を巻きそうな、クィーンズイングリッシュが飛び交うようになっていた。
 
 朝っぱらから消化に悪い光景だ。
 トリノさんにはちゃんと日本語が通じるんだから、フツウに会話すればいいものを。 
 まあ、親の反対がなかったら、間違いなく海外に出られる連中だから、わからなくもないけれど。

 ──間もなく、着替えを終えてミラノさんも下りて来るはず。
 なのでオレは、ドア横の壁際からホワイトボードを、明王どもが座しているソファーの方へと移動させた。
 これは熱血・ド・トリオが持ち込んだ代物だけれど、試験が終わってからは、ちゃっかり我が家のアナクロ掲示板としても重宝させてもらっている。
 そこには、今日以降の言づけも書き殴られているようだから、裏面を向けて設置しておく。
 資料を留めるためのマグネットも、一箇所に集めて準備は完了。

 高がそれだけのことなのに、明王五人が、厳粛な面持でオレの動きに視線を注いでいた。
 なんかビビるも、喰いつきの方はバッチリみたい。

 何せ、一応この会のプランニングはV&Mジャポン。セイレネスの、本格的な日本進出に際して、ターゲット世代からの公聴会という御名目。
 しかも、日本から世界へ発信する限定ラインのモニター調査を、僊河青蓮の娘たちが直接に行おうという、鬼ガチな趣向だ。
 つまり、自分の意見が、セイレネスの国内展開に反映されてしまうってんだから、こいつらにして緊張するのも当然と言っちゃあ当然。

 そして、明日にも熱血・ド・トリオが再襲来する。
 また誰がいようが、おかまいなしに必勝セミナーをブチカマしてくれることだろうから、この五人が引き込まれるのは時間の問題……。

 オレが推察するに、熱血・ド・トリオたちは、ヴィーの叔父さんの代議士先生とやらから、

、ぐらいにしか命じられていないんだと思う。
 だから、実のところ全力でヴィーを教えるだけであって、ヴィーの成績が好かろうが悪かろうが、特待生になろうがなるまいが、そこまでの結果は求められていないからどうでもいい。

 そろいもそろった優秀なド・トリオが、ヴィー一人にちまちまと、自分たちがかつて歩んだ道筋をなぞるだけなんて、本当はおもしろくないに決まってる。
 自分たちの実力をセミナーを通じて誇示できる相手は、多ければ多いに越したことはなく、その凄さを熟解してくれる者なら、尚のこと大歓迎に違いない。

 生粋の附属あがりである文科学部生、それもヴィー同様の現役特待生で、あるあらゆる意味で白眉(はくび)な五人ともなれば、トリオの矜持が放っておけるわけがないんだ。

 この五大明王と同一の知識ベース、スタートラインが一緒で、果たしてヴィーに特待生の座が防衛できるか?
 それで、もし防衛しちまったなら仕方がない。オレも潔く、優秀さってヤツを、ヴィーにも認めてやろうじゃないか!
 これは、そういう作戦。

 自宅の研究室と助手を貸与しただけで、まんまとノーベル賞を受賞した奴だっているんだから、女神様のお膳立ての上、自宅のLDを提供して、不当な特待生を駆逐したって罰は当たらないはずだ。

「おはよお御座いま~す、お邪魔するわよぉ」

 おっ、グッドタイミング。有勅水さんのお出ましだ。

 メッセージを送ってから、まだ三〇分も経っていない。
 毎度の女神パワー、その一つ飛耳長目(ひじちょうもく)で、既にこっちへ向かっていたのかもしれないな。

 V&Mの社員じきじきから一言挨拶があれば、剣橋よりも攻撃的で口喧しい草豪や、どこまでも警戒心が強そうな江陣原も、完全に納得してくれることだろう。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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