234 _______________ ‐2nd part‐
文字数 1,341文字
今まで昇って来た階段と、さらに上への階段とは、これまた平行につながる位置関係にないし、うっかり行き過ぎれば、テラスから落ちて、二階以上は確実にある高さから、下の植え込みへ突っ込むことになってしまう。
位置によっては、植え込みではなく、ゴツゴツとした大きな庭石にダイヴすることにもなるし、その時はとても軽傷では済みそうにない。
そして、セイレーンたちも……おハルには、昼間に観た方がいいとか、言いなしておいてなんだけれど、こんな薄い雲がかかる柔弱な月明かりにもかかわらず、彼女たちは、その存在を妙趣とばかりに魅せつけていた。
実像の表面に現れている陰影が、まるでもう一つ別の人型を、シルエットで浮かび上がらせているかのように見せる。
オレが動いてアングルを変えると、その黒い人型も、滑らかに、微妙に表情を変化させながらついて来るカンジ。
これらも、シベルネティゼとして造られているんだから、必ず何らかのパフォーマンスを行うようプログラミングされているはずだ。
ボディーの内側に組み込まれていた電装品からでは、オレにはその機能まで断言などできないけれど、目にした時の寸感としては、オーディオ機器の類ではないかと思った。
美しく謎めいた歌声で人を惑わせ、船を座礁までさせるという、セイレーンたちがモチーフだから、たぶんこの一隅に、音楽でも奏でるんじゃないのかな?
ただ、それをフツウにやったのでは、シベルネティゼと呼ぶまでもないし、近所迷惑になるだけだから、自動制御で、アクティヴノイズコントロールも同時に行うんじゃないだろか?
本当に、このセイレーンたちに四囲された限定空間でしか、歌声が聴こえないという演式だとしたなら、それはムッシューが熱く語っていたとおり、駄法螺でも妄誕でもなく、とんでもない現象がここで起きることになりそうだし……。
よし。その辺のことを話題にすれば、既にミラノたちと葉植さんの間に、不和なムードが漂い始めていたとしても、その場凌ぎくらいにはできそうだ。
一先ずは様子見のため、プレハブには静かに近づき、中がどんな雰囲気なのかを把握しておくべきだろうな。
オレがここまで来ているってのに、ミラノがまだ、何のリアクションもとらないことが気にもなってくるし。
葉植さんと真剣に話し込んでいて、そこまで意識がまわらないのだとしたら、やはり、タイミングも計らずに戸を開けて、三人の内談に水を差してしまう方が不躾ってもんだ。
オレは、プレハブ小屋の側面の戸に躙り寄り、とり敢えずサッシの隙間へ耳を欹てた──。
こちらの内側は、カーテンまでしっかり閉まっている上、オレの本棚が塞いでいるので、状況は全く視認できない。
クレセント錠もかけてあって、中の話し声もイマイチよく聞こえてこなかった。
なので、窓のガラスに直接耳を押し当ててみると、今度は、思いのほかよく聞こえてきてドキリ。
それで、思わず生ツバを呑み下した音に、再度ドギマギしてしまう──。
「お待たせしちゃって申しわけなーい。まー、これでも飲みながら、ゆった~りボクの話を聞いてよー。毒なんか入れてないからー」
……ま、葉植さんの調子は至っていつもどおり。なので、オレの緊張も、円滑洒脱と緩んでいってくれちゃうぅ。
位置によっては、植え込みではなく、ゴツゴツとした大きな庭石にダイヴすることにもなるし、その時はとても軽傷では済みそうにない。
そして、セイレーンたちも……おハルには、昼間に観た方がいいとか、言いなしておいてなんだけれど、こんな薄い雲がかかる柔弱な月明かりにもかかわらず、彼女たちは、その存在を妙趣とばかりに魅せつけていた。
実像の表面に現れている陰影が、まるでもう一つ別の人型を、シルエットで浮かび上がらせているかのように見せる。
オレが動いてアングルを変えると、その黒い人型も、滑らかに、微妙に表情を変化させながらついて来るカンジ。
これらも、シベルネティゼとして造られているんだから、必ず何らかのパフォーマンスを行うようプログラミングされているはずだ。
ボディーの内側に組み込まれていた電装品からでは、オレにはその機能まで断言などできないけれど、目にした時の寸感としては、オーディオ機器の類ではないかと思った。
美しく謎めいた歌声で人を惑わせ、船を座礁までさせるという、セイレーンたちがモチーフだから、たぶんこの一隅に、音楽でも奏でるんじゃないのかな?
ただ、それをフツウにやったのでは、シベルネティゼと呼ぶまでもないし、近所迷惑になるだけだから、自動制御で、アクティヴノイズコントロールも同時に行うんじゃないだろか?
本当に、このセイレーンたちに四囲された限定空間でしか、歌声が聴こえないという演式だとしたなら、それはムッシューが熱く語っていたとおり、駄法螺でも妄誕でもなく、とんでもない現象がここで起きることになりそうだし……。
よし。その辺のことを話題にすれば、既にミラノたちと葉植さんの間に、不和なムードが漂い始めていたとしても、その場凌ぎくらいにはできそうだ。
一先ずは様子見のため、プレハブには静かに近づき、中がどんな雰囲気なのかを把握しておくべきだろうな。
オレがここまで来ているってのに、ミラノがまだ、何のリアクションもとらないことが気にもなってくるし。
葉植さんと真剣に話し込んでいて、そこまで意識がまわらないのだとしたら、やはり、タイミングも計らずに戸を開けて、三人の内談に水を差してしまう方が不躾ってもんだ。
オレは、プレハブ小屋の側面の戸に躙り寄り、とり敢えずサッシの隙間へ耳を欹てた──。
こちらの内側は、カーテンまでしっかり閉まっている上、オレの本棚が塞いでいるので、状況は全く視認できない。
クレセント錠もかけてあって、中の話し声もイマイチよく聞こえてこなかった。
なので、窓のガラスに直接耳を押し当ててみると、今度は、思いのほかよく聞こえてきてドキリ。
それで、思わず生ツバを呑み下した音に、再度ドギマギしてしまう──。
「お待たせしちゃって申しわけなーい。まー、これでも飲みながら、ゆった~りボクの話を聞いてよー。毒なんか入れてないからー」
……ま、葉植さんの調子は至っていつもどおり。なので、オレの緊張も、円滑洒脱と緩んでいってくれちゃうぅ。