106 さぁ大変で~す、また一人いなくなってしまったので ‐1st part‐

文字数 1,325文字

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 ミラノさんの厚意により、トリノさんが見立ててくれたセイレネスのダークスーツに身を包んでいるというのに、緑内の告別式では、全幅を根上任せにして、ただ惘惘(もうもう)と、式次第どおりに立ったり座ったりをするだけのオレだった。

 妖鳥のミスティックパワーも、今日ばかりは、オレの後ろ向き加減を層倍するのみ。
 喪服にしては、ネクタイからして黒がキレイすぎるんだ。それこそ、北イタリアの教会ならばしっくりきそう……。

 今回の葬儀も、悲しさの方はさっぱりだ。まるで、低俗なドッキリを仕掛け続けられているか、ドラマのエキストラでもしている気分。
 その、人一人が死んだという実感のなさに、物凄く恐縮してしまう。

 そればかりか、オレの前の列に座っていた緑内と同じセクション連中までが、このあとのリスケ、大学へ戻ってからをフツウに囁き合っている様子を見て、つくづく緑内が、勉強以外をまるでしてこなかった愚昧さを呪えてならない。
 本当に、全てがまだ、これからの奴だったんだって、オレたちは、まだ死ぬのは早すぎるんだって──。

 斎場をあとにする緑内を乗せたクルマを見送って、三三五五帰途につく人並みには、明王どもの姿もあった。
 川溜は欠席したようだけれど、江陣原は、いつもどおりに吽形のポジションで剣橋の隣を歩いている。
 眼鏡で目色まではわからないものの、それが自制による態度ならば大したものだ。

 そして、剣橋ともう二人の明王は、もうじき中高課程の六年生を終える、同級の残りの女子三人たちと、笑顔なんかを見せている。
 喪服は既に、それぞれのコートの下に隠されているので、恰も、同窓会の帰りといったカンジの和やかな雰囲気。
 まぁそれも仕方がない。今日、久しぶりに顔を合わせた中高課程の同級生たちは、手応えバッチリで、そろそろ海外の大学から届く入学許可を待つ者ばかりときているんだから……。

 根上が御遺族と一緒に骨揚げに行ってしまったために、オレも、夏前には日本を離れる連中にとり囲まれ、緑内の遺体発見時の状況をあれやこれやと尋ねられながら、最寄りの駅へと向かうハメになった。
 それもまた仕方がない。誰もがおもしろ半分で尋ねてきているわけではなく、犯人の目星さえも全くついておらず、何らかの事件に巻き込まれての殺害である可能性を発表しただけのケーサツに、みんな早くも業を煮やして、自らの推理で少しでも事件解決につなげようとしているカンジだし。

 こいつらの英知をもってすれば、必ずや犯人逮捕となるだろう、なんて期待は更更ない。
 オレとしても、こいつらの親類縁者の中に、ケーサツ関係のお偉いさんがいることを見越して、その人へ積極的に働きかけてもらうための情報開示のつもりだ。

 そう割りきってオレは、お巡りや捜査員に何度となく語った殺害現場と緑内の悲況を、有勅水さん経由で入手した警察庁情報と併せて、同級生たちへブチまけた。
 
 オレの話を喰いつき気味に聞くこいつらの反応の方が、警官たちよりもずっと好感触だ。その調子で、この凶悪事件を身内にバンバン喧伝してもらいたい。
 あの、ただの地方公務員どもは、非課税所得者でしかない学生なんかの訴えくらいじゃ、親身に動いてくれそうにないからね。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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