164 ツナグには拿捕者の意味があるそうな ‐1st part‐
文字数 1,259文字
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ミラノさんから行くように言われた図書館には、一号館と二号館をつなぐ格好で位置するヴェスティビュール(連廊)から入ることになる。
閲覧スペースの座席数や書庫の蔵書量は、かなりの規模なものの、全ては地下に設えてあるため、地上の一階には、そこへ通じる階段口とエレヴェーターホール、そして、吹きぬけての二階部分には、一号館と二号館を結ぶ連絡橋路が渡る。
造りは、歴史を物語るくらい旧 いので、アトリウムと呼べるほどモダニスティックな雰囲気はないにしろ、優秀な評価を受けた美術学科の学生の作品が飾られる、展示会場としての機能も果たしている。
さてさて。来たのはいいけれど、どうすりゃいいんだろ?
二重の自動扉をぬけて中を見渡す──と、フロア中央で、去年のクリスマスから置かれっ放しな廃材利用のオブジェの奥、休憩用の丸テーブルに上婾さんがいた。
胸に大きな白ぬきでNSAとプリントされた、紺のスウェットシャツを着ている。
そしておそらくは、彼女の隣で突っ伏している藍色のスウェットシャツが筌松さんだろう。
とり敢えずオレは、その丸テーブルへ足を向けた。
あらためて思い返せば、彼女たちとは、根上が殺される前に話して以来。
なんか、たちまち歩みが重くなるけれど、見目麗 しさに幾分疲れが出ている上婾さんと、バッチリ目が合ってしまったから、もうあとには退けやしない。
「ども、なんか久しぶり。今日はどしたの? こんな早めから」
上婾さんは、オレの声にも無反応な筌松さんをチラ見すると、軽く鼻音をたててから答えてくれた。
「おはよう。うんホント、なんか久しぶりね。私たちはバイト明けなの、下の図書館で書庫整備のね。一晩中いろんなデータのチェックだったから、トシは眼精疲労の限界を超えちゃったんだって。だから、チョットここで休んで行こうって」
「そうなんだ? 道理で文科に学内バイトがまわってこないわけだな」
「水埜クンだったよね。今日はこんな早めから勉強?」
「ん~まぁチョットね、調べ物を」
「チョットあんた、美夏と会話させてあげたんだから、そこの自販機で、シアジニンたっぷりのハスカップ100を奢りなさいよっ」
眠っていると思っていたら筌松さん、顔すら上げずにタカりにかかってきやがるとは! この人も相変わらずみたいでよかったよかった。
「はいはい、今行って来きますって。でも実はオレ、附属あがりでもビンボーなんだよねぇ、理工の奴らと一緒にされたら困るんだけれど」
「そんな配慮、今の私にはないのっ。みんな美夏ばっか、私は、医薬部外品の一本も恵んでもらえない、モォ~なんて不憫 なのかしらっ。親を恨みたくないから、男を代表してアンタに当たってやってんのっ」
一種のヒステリー症状なのか? 筌松さんは、枕にしていた両腕を伸ばすと、掌でバチバチとテーブルをたたき始めた。
「彼女、何グレちゃってるの?」オレは上婾さんに聞いてみる。
「え、えーっとそのぉ……」
──実のところ上婾さん、バイトの途中で睡魔に屈し、最後まで御高眠あそばしてしまっていたらしい。
ミラノさんから行くように言われた図書館には、一号館と二号館をつなぐ格好で位置するヴェスティビュール(連廊)から入ることになる。
閲覧スペースの座席数や書庫の蔵書量は、かなりの規模なものの、全ては地下に設えてあるため、地上の一階には、そこへ通じる階段口とエレヴェーターホール、そして、吹きぬけての二階部分には、一号館と二号館を結ぶ連絡橋路が渡る。
造りは、歴史を物語るくらい
さてさて。来たのはいいけれど、どうすりゃいいんだろ?
二重の自動扉をぬけて中を見渡す──と、フロア中央で、去年のクリスマスから置かれっ放しな廃材利用のオブジェの奥、休憩用の丸テーブルに上婾さんがいた。
胸に大きな白ぬきでNSAとプリントされた、紺のスウェットシャツを着ている。
そしておそらくは、彼女の隣で突っ伏している藍色のスウェットシャツが筌松さんだろう。
とり敢えずオレは、その丸テーブルへ足を向けた。
あらためて思い返せば、彼女たちとは、根上が殺される前に話して以来。
なんか、たちまち歩みが重くなるけれど、
「ども、なんか久しぶり。今日はどしたの? こんな早めから」
上婾さんは、オレの声にも無反応な筌松さんをチラ見すると、軽く鼻音をたててから答えてくれた。
「おはよう。うんホント、なんか久しぶりね。私たちはバイト明けなの、下の図書館で書庫整備のね。一晩中いろんなデータのチェックだったから、トシは眼精疲労の限界を超えちゃったんだって。だから、チョットここで休んで行こうって」
「そうなんだ? 道理で文科に学内バイトがまわってこないわけだな」
「水埜クンだったよね。今日はこんな早めから勉強?」
「ん~まぁチョットね、調べ物を」
「チョットあんた、美夏と会話させてあげたんだから、そこの自販機で、シアジニンたっぷりのハスカップ100を奢りなさいよっ」
眠っていると思っていたら筌松さん、顔すら上げずにタカりにかかってきやがるとは! この人も相変わらずみたいでよかったよかった。
「はいはい、今行って来きますって。でも実はオレ、附属あがりでもビンボーなんだよねぇ、理工の奴らと一緒にされたら困るんだけれど」
「そんな配慮、今の私にはないのっ。みんな美夏ばっか、私は、医薬部外品の一本も恵んでもらえない、モォ~なんて
一種のヒステリー症状なのか? 筌松さんは、枕にしていた両腕を伸ばすと、掌でバチバチとテーブルをたたき始めた。
「彼女、何グレちゃってるの?」オレは上婾さんに聞いてみる。
「え、えーっとそのぉ……」
──実のところ上婾さん、バイトの途中で睡魔に屈し、最後まで御高眠あそばしてしまっていたらしい。