194 兵法三六計 走為上de実際技巧 ‐1st part‐
文字数 1,532文字
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「人間ってのは、基本みんな同じ形態で、同じにしか動かない。体勢に応じて、拳や蹴りを繰り出せる角度も決まる。注意すべきは相手のリーチ、拳や蹴りが、どれほどの間合から届くのかを一瞥でつかめ。もう、相手の攻撃圏界を掌握したも同じだ」
宝婁センパイは、丸めた新聞紙で、自分の頭をリズムをとるかのように軽くたたきながら言う。
「……一瞥で、つかめなかったらどうするんです?」
「そん時は、一発もらうしかないな。相手の全てが痛いほどわから」
「エ~ッ、そんなぁ。刃物を握られてたら、それでお終いじゃないですか」
「だから、毎日こうして、実践モードで稽古してるんだろ? 人間は須らく経験と反復練習、特にこの古武術の流れを汲む躱閃術の基本は慣れだ。そうボヤいてる楯だって、高が二週間なのに、俺が、毎回変えてとる間合に充分適応を見せてるぜ」
「はぁ。ですかねぇ……」
「BREAKIN’ のテクとノりを入れたオレのアレンジも利いてる。ガリ勉しとかなくてよかったな、眼が悪かったら、どんなに鍛えても限界は近い。眼鏡は簡単に吹っ飛ぶし、コンタクトもズレる、まずボコられちまうからな」
「そうですかぁ? 今夜もオレ、既にボッコボコなんですけれど」
センパイは、これでも微妙に手加減してくれているんだろうけれど、体中がジンジンしている。
特に、目の上やら頬の横やら、毎日毎日、アザにならないのが不思議なくらいだ。
「まぁ、とり敢えず最後まで、俺の能書きを聞いとけって」
「あ、はい。勿論……」
「殴る、蹴る、そんな攻撃動作にも、必ず届くまでの時間幅がある。たとえ相手が刃物を握っていても、不意を衝かれない限り、一突きじゃ殺られやしない。その不意の一撃を凌げれば、攻撃は幾らでも躱せる、あとは楯が鍛えてる持久力勝負だ」
「はいっ……」
「そもそもパニクるから刺されちまうんだ。素手だろうと武器を握っていようと、相手はしっかりとした敵意でもって動いてるんだからな。とにかく楯も、それ相応の敵意を瞬間的に燃やして立ち向かわなけりゃ、端から勝負になんかならないってこった」
「はぁ……」
時間幅ねぇ。
蹴りはともかく、容赦なく繰り出されるセンパイの連打に、幅なんかカンジていられる余裕なんかない。
それを、どんな場合にでもカンジてしまえることこそが、この躱閃術、語意どおり、素速く身を躱す技芸の奥義なのかも知れないけれど……。
早、二週間ながらこの様だし。せめて、窮すれば通ずの感触くらいは欲しいのに。
「いいかよ楯? 何で俺が、今夜になって、こんな話をしてやってると思うんだ? せめて、いつもと違う気配くらいは察しろよなぁ」
「…………」そんなことを言われてもなぁ。
「それだよそれ。楯は、組み手中からして、何も考えてないよな」
「いえ、だって。そんな余裕なんかないですもん、って言うか、手を組ませないようにするのに、組み手って言うのは変じゃないですか?」
「屁理屈言うなよ。体やワザを鍛えるのは、楯が思ってるほど難しくない。問題は意識、一緒に意識力も鍛えていかないと無意味ってこった。襲って来た相手以上の敵意を、一瞬に燃え上がらせるってのも、要は意識だ。楯にはそこからの練習が必要みたいだからな」
「でもぉ、意識するって、何をすればいいんです?」
「おりゃっ──」
いきなりセンパイは、新聞紙を丸めた棒を振り下ろして来た。
それをオレは間一髪で躱す。
でもセンパイの更なる追撃、今度は返す腕で振り上げた新聞紙の先が、オレの仰け反った顎を思いっきり掠めた。
そして、オレが完全に体勢を崩したところへ新聞紙の第三打が、避けたくても、避けたい向きとは逆を行く、オレの鼻先へとヒットした。
……じんわ~り、けれど物凄く痛いぃ。
「人間ってのは、基本みんな同じ形態で、同じにしか動かない。体勢に応じて、拳や蹴りを繰り出せる角度も決まる。注意すべきは相手のリーチ、拳や蹴りが、どれほどの間合から届くのかを一瞥でつかめ。もう、相手の攻撃圏界を掌握したも同じだ」
宝婁センパイは、丸めた新聞紙で、自分の頭をリズムをとるかのように軽くたたきながら言う。
「……一瞥で、つかめなかったらどうするんです?」
「そん時は、一発もらうしかないな。相手の全てが痛いほどわから」
「エ~ッ、そんなぁ。刃物を握られてたら、それでお終いじゃないですか」
「だから、毎日こうして、実践モードで稽古してるんだろ? 人間は須らく経験と反復練習、特にこの古武術の流れを汲む躱閃術の基本は慣れだ。そうボヤいてる楯だって、高が二週間なのに、俺が、毎回変えてとる間合に充分適応を見せてるぜ」
「はぁ。ですかねぇ……」
「BREAKIN’ のテクとノりを入れたオレのアレンジも利いてる。ガリ勉しとかなくてよかったな、眼が悪かったら、どんなに鍛えても限界は近い。眼鏡は簡単に吹っ飛ぶし、コンタクトもズレる、まずボコられちまうからな」
「そうですかぁ? 今夜もオレ、既にボッコボコなんですけれど」
センパイは、これでも微妙に手加減してくれているんだろうけれど、体中がジンジンしている。
特に、目の上やら頬の横やら、毎日毎日、アザにならないのが不思議なくらいだ。
「まぁ、とり敢えず最後まで、俺の能書きを聞いとけって」
「あ、はい。勿論……」
「殴る、蹴る、そんな攻撃動作にも、必ず届くまでの時間幅がある。たとえ相手が刃物を握っていても、不意を衝かれない限り、一突きじゃ殺られやしない。その不意の一撃を凌げれば、攻撃は幾らでも躱せる、あとは楯が鍛えてる持久力勝負だ」
「はいっ……」
「そもそもパニクるから刺されちまうんだ。素手だろうと武器を握っていようと、相手はしっかりとした敵意でもって動いてるんだからな。とにかく楯も、それ相応の敵意を瞬間的に燃やして立ち向かわなけりゃ、端から勝負になんかならないってこった」
「はぁ……」
時間幅ねぇ。
蹴りはともかく、容赦なく繰り出されるセンパイの連打に、幅なんかカンジていられる余裕なんかない。
それを、どんな場合にでもカンジてしまえることこそが、この躱閃術、語意どおり、素速く身を躱す技芸の奥義なのかも知れないけれど……。
早、二週間ながらこの様だし。せめて、窮すれば通ずの感触くらいは欲しいのに。
「いいかよ楯? 何で俺が、今夜になって、こんな話をしてやってると思うんだ? せめて、いつもと違う気配くらいは察しろよなぁ」
「…………」そんなことを言われてもなぁ。
「それだよそれ。楯は、組み手中からして、何も考えてないよな」
「いえ、だって。そんな余裕なんかないですもん、って言うか、手を組ませないようにするのに、組み手って言うのは変じゃないですか?」
「屁理屈言うなよ。体やワザを鍛えるのは、楯が思ってるほど難しくない。問題は意識、一緒に意識力も鍛えていかないと無意味ってこった。襲って来た相手以上の敵意を、一瞬に燃え上がらせるってのも、要は意識だ。楯にはそこからの練習が必要みたいだからな」
「でもぉ、意識するって、何をすればいいんです?」
「おりゃっ──」
いきなりセンパイは、新聞紙を丸めた棒を振り下ろして来た。
それをオレは間一髪で躱す。
でもセンパイの更なる追撃、今度は返す腕で振り上げた新聞紙の先が、オレの仰け反った顎を思いっきり掠めた。
そして、オレが完全に体勢を崩したところへ新聞紙の第三打が、避けたくても、避けたい向きとは逆を行く、オレの鼻先へとヒットした。
……じんわ~り、けれど物凄く痛いぃ。