087 _______________ ‐3rd part‐
文字数 1,716文字
「おそらくは、ですけれど。ホント、急遽頼まれまして、ほとんど何も説明されていないんです。なので、逆に色色と教えていただくことになるかもしれませんけれど、有勅水さんの許にはちゃんと送り届けますんで、申しわけありませんが御協力をお願いします」
どうにも無様だけれど、そう述べるだけで精一杯。
それでもタママヨ、いや、トリノさんから「えぇ」と、ほんの軽くだけれど、頷いてもらえて一安堵。
一方、姉のミラノさんにおいては、先ほどと寸分も違わぬ
まるで、トリミング嫌いな毛むくじゃらイヌみたいに、ふわクルンとした前髪の隙間から、あどけない好奇的な眼差しを向けてくれている。
……頼りない日本のガキが物珍しいんだとしても、なんか憎めないと言うか、どうにも稚 いと言うか。
とにかく何をどう思われようとも、彼女の、この天真な微笑みを消してしまう失態だけはしたくない、そんな気持がオレの中で湧いていた。
ひょっとすると、ただミラノさんは、日本語がわからないだけのかも。
「えっと、まずはどうしましょう? 夕食にはチョット早い時間ですよね。お腹の空き具合はどうですか? 物凄く空いてるようなら、空港内か近辺で、食べたい物が食べられる店を探しますけれど」
主にトリノさんへ尋ねてみると、その返事も待たずにミラノさんがゆらり動き出した。
ホント、ふわふわ大きな動物が立ち上がって歩いて行くみたい。
「では行きましょうか。ミラノには、何かアテがあるようなので」
「あ、はい……」
オレも、ここは一応、ミラノさんのあとについて行くトリノさんに従うしかなさそう。
「悪いわね、ミラノはフリーウィーリング(自由気まま)なので。私には、何もかまわなくていいので、なるべくミラノの傍で、目を離さないでいてくれると助かるわ」
「はい、わかりました。でもミラノさんも日本語で話して通じるんでしょうか? オレ、イタリア語は全然できませんし、英語も日常会話程度ならガンバれますけれど、普段の会話に使うの嫌なんですよね、ガチガチのレシーヴドスタンダードですから。特にNYなんて所から来た同年代の人には、鼻で笑われちゃうんでしょうし」
「さぁ、どうなのかな? 実は私も、一緒に過すのは随分と久しぶりなので。でも、ミラノに言葉は関係ないので、大丈夫だと思う」
「はぁ……」
チョットばかり嫌な予感が掠めたけれど、たぶん、身ぶり手振りで語りかければわかってくれるって意味だと解釈しておきたい……おくしかない。
解釈はしきれないまま、早速オレは言われたとおり、速足でトリノさんをぬかしミラノさんを追う。
スグ後ろにまで近づくと、ミラノさんは、ゆらゆら歩みを止めぬままふり返り、オレの方へと手を伸ばしてきた。
ついなりゆきで、反射的にその手をとってしまったものの、ミラノさんはにっこり度を強めて正面へ向きなおり、つないだ手を歩調に合わせて振りだすという、全くもって上機嫌な御様子。
……女のコと手をつないで歩くなんて、かれこれ幼い頃の従姉妹以来、だから実質初めてじゃないかっ?
けれど舞い上がってはいられない。相手は僊河青蓮の、セイレネスの御令嬢!
光栄に思う反面、畏れ多すぎて、脚になんだか震えが走るわ、気分はずっしりガッシリと重く強張ってくるわ……。
「大丈夫大丈夫。私は、怖い人じゃぁないないんだよ」
「は、はい?」なんだぁ、日本語大丈夫だったんだミラノさん。
「水埜楯が思ってるほど、カワイ~人でもないないけどねっ」
そうオレを見て明るく言うけれど……「どう言う、意味でしょう?」
「掌に冷や汗タップリコンだよ。びちゃびちゃだよ水埜楯」
「あ、すみませんっ──」
慌てて手を離そうとしたのに、ミラノさんは、オレの人差し指と中指をがっちり掴んで離してくれない。
想像以上に反応が速く、握力もありそう……。
「ウンウン、愛 いヤツ愛いヤツゥ。日本人ってだから好きだよっ。心配ないない、私が愉しくしてあげるあげるっ」
手をしっかりと握りなおされて、オレは、歩くペースを上げたミラノさんに牽引されているも同然でヨロケ行く不体裁ぶり。
なんだか、またしても大変な目に遭いそうだ……。
どうにも無様だけれど、そう述べるだけで精一杯。
それでもタママヨ、いや、トリノさんから「えぇ」と、ほんの軽くだけれど、頷いてもらえて一安堵。
一方、姉のミラノさんにおいては、先ほどと寸分も違わぬ
ゴッキゲ~ン
と言った表情のまんま。まるで、トリミング嫌いな毛むくじゃらイヌみたいに、ふわクルンとした前髪の隙間から、あどけない好奇的な眼差しを向けてくれている。
……頼りない日本のガキが物珍しいんだとしても、なんか憎めないと言うか、どうにも
とにかく何をどう思われようとも、彼女の、この天真な微笑みを消してしまう失態だけはしたくない、そんな気持がオレの中で湧いていた。
ひょっとすると、ただミラノさんは、日本語がわからないだけのかも。
「えっと、まずはどうしましょう? 夕食にはチョット早い時間ですよね。お腹の空き具合はどうですか? 物凄く空いてるようなら、空港内か近辺で、食べたい物が食べられる店を探しますけれど」
主にトリノさんへ尋ねてみると、その返事も待たずにミラノさんがゆらり動き出した。
ホント、ふわふわ大きな動物が立ち上がって歩いて行くみたい。
「では行きましょうか。ミラノには、何かアテがあるようなので」
「あ、はい……」
オレも、ここは一応、ミラノさんのあとについて行くトリノさんに従うしかなさそう。
「悪いわね、ミラノはフリーウィーリング(自由気まま)なので。私には、何もかまわなくていいので、なるべくミラノの傍で、目を離さないでいてくれると助かるわ」
「はい、わかりました。でもミラノさんも日本語で話して通じるんでしょうか? オレ、イタリア語は全然できませんし、英語も日常会話程度ならガンバれますけれど、普段の会話に使うの嫌なんですよね、ガチガチのレシーヴドスタンダードですから。特にNYなんて所から来た同年代の人には、鼻で笑われちゃうんでしょうし」
「さぁ、どうなのかな? 実は私も、一緒に過すのは随分と久しぶりなので。でも、ミラノに言葉は関係ないので、大丈夫だと思う」
「はぁ……」
チョットばかり嫌な予感が掠めたけれど、たぶん、身ぶり手振りで語りかければわかってくれるって意味だと解釈しておきたい……おくしかない。
解釈はしきれないまま、早速オレは言われたとおり、速足でトリノさんをぬかしミラノさんを追う。
スグ後ろにまで近づくと、ミラノさんは、ゆらゆら歩みを止めぬままふり返り、オレの方へと手を伸ばしてきた。
ついなりゆきで、反射的にその手をとってしまったものの、ミラノさんはにっこり度を強めて正面へ向きなおり、つないだ手を歩調に合わせて振りだすという、全くもって上機嫌な御様子。
……女のコと手をつないで歩くなんて、かれこれ幼い頃の従姉妹以来、だから実質初めてじゃないかっ?
けれど舞い上がってはいられない。相手は僊河青蓮の、セイレネスの御令嬢!
光栄に思う反面、畏れ多すぎて、脚になんだか震えが走るわ、気分はずっしりガッシリと重く強張ってくるわ……。
「大丈夫大丈夫。私は、怖い人じゃぁないないんだよ」
「は、はい?」なんだぁ、日本語大丈夫だったんだミラノさん。
「水埜楯が思ってるほど、カワイ~人でもないないけどねっ」
そうオレを見て明るく言うけれど……「どう言う、意味でしょう?」
「掌に冷や汗タップリコンだよ。びちゃびちゃだよ水埜楯」
「あ、すみませんっ──」
慌てて手を離そうとしたのに、ミラノさんは、オレの人差し指と中指をがっちり掴んで離してくれない。
想像以上に反応が速く、握力もありそう……。
「ウンウン、
手をしっかりと握りなおされて、オレは、歩くペースを上げたミラノさんに牽引されているも同然でヨロケ行く不体裁ぶり。
なんだか、またしても大変な目に遭いそうだ……。