096 ____________________ ‐3rd part‐
文字数 1,257文字
「コート前開 けてまで主張しなくていいですっ。そう言うのもスケべを挑発する行為になるんだから、気軽にやっちゃダメダメッ」
また世話が焼けることに、ミラノさんは、ウチのような両脇にスグ壁がある狭い階段以外、昇れても、降りることができない。
ここの石段も、帰りはオレが手を引いてやらないとダメ。
もう呆れる方が先で、テレも抵抗もなく手をつなぐことができるけれど、ミラノさんの驚異はそれだけに留まらない。
このわずか一昨日と昨日で、さまざまな欠点と言うか、欠陥が判明した。
一人では、広い場所の中央を突っきることができないし、下りエスカレーターもムリ。のみならず、狭くても閉塞感があるエレヴェーターまで全くダメ。
炭酸飲料でも窒息しそうになるわ、ラーメンや蕎麦もうどんは啜れないわ。
あり得ないのは、熱いとか冷たいという認識を維持し続けられないみたいで、口に入れちゃったあとから大騒ぎになる。
それと、右と左がガチでどっちかわからなくなる。
もう、ホントこれまでよくも生きてこれた、よくもこんなに大きく育ったと、感心しちまう超天然大ボケぶり。
本当にトリノさんと一卵性双生児なのかと疑いたくなる。
……そもそも、日本とイタリアの混血で金髪ってあるんだろうか? 肌だって、東欧人種並みに白いんじゃないかと思うし。
ひょっとして、先天的な色素細胞異常によるアルビノなのではあるまいか?
それに、僊婆の享年が八二歳、僊河青蓮だって確か華甲を過ぎているはず。
なのにオレと同じ歳くらいの娘だなんて、また随分な高齢出産ってことになる。全ては、高度な不妊治療をあれこれと施した末の、因業ってヤツなのかもしれない。
だからと言ってはなんだけれど、勝手にそう思っているオレの心緒には、早くも何をされようとも許せてしまえるミラノさんがいた。
不健全でも、小生意気なお嬢サマには変わりがないので、哀れみよりも慈しみ。
ストライクゾーンにいる女のコだけれど、どうせ高嶺すぎる花なわけだし、思考も性格もオレの理解の圏界を優に超えていそうだから、同年代女子と言うよりも、由緒正しい血統をもつペットを預かった感覚に近い。
よって、妙に割りきれて、異性を意識しないでいい、精神的バランスが保てる異性であると言えた。
何より、ミラノさんの全体から漂うふんわかふんわかした雰囲気が、どうにも守ってあげたくなる衝動を駆り立ててくるんだよねぇ、オレなんかにですら。
車両誘導のおニイさんたちからの冷やかしを躱し躱し搬入口をぬけ、しりとりでイタリア語を教わりながらユルユルと行く。
ミラノさんが言ったとおり、外はもう末日とは言え、二月にしては吹く風が穏やかで、フツウに歩いていても汗をかきそう。
でもこれ、新たな寒波が襲来する前の、露の間の糠 陽気なのは間違いない。
──ウチがある通りへ曲がると、ちょうど門の前に数人の立ち待ち姿があった。
それ、正確には五人……。
にわかに緊張、いよいよ作戦のスタートだっ。
向こうも、
また世話が焼けることに、ミラノさんは、ウチのような両脇にスグ壁がある狭い階段以外、昇れても、降りることができない。
ここの石段も、帰りはオレが手を引いてやらないとダメ。
もう呆れる方が先で、テレも抵抗もなく手をつなぐことができるけれど、ミラノさんの驚異はそれだけに留まらない。
このわずか一昨日と昨日で、さまざまな欠点と言うか、欠陥が判明した。
一人では、広い場所の中央を突っきることができないし、下りエスカレーターもムリ。のみならず、狭くても閉塞感があるエレヴェーターまで全くダメ。
炭酸飲料でも窒息しそうになるわ、ラーメンや蕎麦もうどんは啜れないわ。
あり得ないのは、熱いとか冷たいという認識を維持し続けられないみたいで、口に入れちゃったあとから大騒ぎになる。
それと、右と左がガチでどっちかわからなくなる。
もう、ホントこれまでよくも生きてこれた、よくもこんなに大きく育ったと、感心しちまう超天然大ボケぶり。
本当にトリノさんと一卵性双生児なのかと疑いたくなる。
……そもそも、日本とイタリアの混血で金髪ってあるんだろうか? 肌だって、東欧人種並みに白いんじゃないかと思うし。
ひょっとして、先天的な色素細胞異常によるアルビノなのではあるまいか?
それに、僊婆の享年が八二歳、僊河青蓮だって確か華甲を過ぎているはず。
なのにオレと同じ歳くらいの娘だなんて、また随分な高齢出産ってことになる。全ては、高度な不妊治療をあれこれと施した末の、因業ってヤツなのかもしれない。
だからと言ってはなんだけれど、勝手にそう思っているオレの心緒には、早くも何をされようとも許せてしまえるミラノさんがいた。
不健全でも、小生意気なお嬢サマには変わりがないので、哀れみよりも慈しみ。
ストライクゾーンにいる女のコだけれど、どうせ高嶺すぎる花なわけだし、思考も性格もオレの理解の圏界を優に超えていそうだから、同年代女子と言うよりも、由緒正しい血統をもつペットを預かった感覚に近い。
よって、妙に割りきれて、異性を意識しないでいい、精神的バランスが保てる異性であると言えた。
何より、ミラノさんの全体から漂うふんわかふんわかした雰囲気が、どうにも守ってあげたくなる衝動を駆り立ててくるんだよねぇ、オレなんかにですら。
車両誘導のおニイさんたちからの冷やかしを躱し躱し搬入口をぬけ、しりとりでイタリア語を教わりながらユルユルと行く。
ミラノさんが言ったとおり、外はもう末日とは言え、二月にしては吹く風が穏やかで、フツウに歩いていても汗をかきそう。
でもこれ、新たな寒波が襲来する前の、露の間の
──ウチがある通りへ曲がると、ちょうど門の前に数人の立ち待ち姿があった。
それ、正確には五人……。
にわかに緊張、いよいよ作戦のスタートだっ。
向こうも、
ミラノさん
と、オレに気づいて挙措を正した。